「な、なぜお前が『服従』のスキルを使えるんだ……っ!」
使用人は明らかに狼狽していた。
私は淡々と言葉を返す。
「私が『服従』のスキルを使えないなんて、一言も言った覚えはないけど」
正直、『服従』はあまり好きなスキルではない。現に、今までの戦闘でも使おうと思ったことはなかった。
紋章を刻み込むため、至近距離まで接近するのが難しいということもあるが、そもそも他人を無理矢理支配するのは、あまり良くないことだと思っている。
だが、現実ではどんなことが起こるかわからない。
取得可能なスキルは全て取っておくという方針が、今回は役に立った。
私は使用人が自らの犯行を認めた後、こっそりと『スキル解除』を使用して、化け物鳥に刻まれた使用人の『服従』を解除していた。
その時に念のため、私の『服従』の紋章を刻んでおいたのだ。
使用人の力の底が読めなかったため、一応の保険だった。
もちろん事件が終われば、すぐに解除してあげるつもりだったのだが。
結果として、その保険は見事に効果を発揮した。
私は『スキル発動禁止』の牢屋に入れられたが、化け物鳥は外にいたため、その効力を受けなかった。
私はあらかじめ、「自分に何かあったら助けてほしい」という指示だけを与えていた。
そのため、牢獄に閉じ込められた私に気づいた化け物鳥が敵を蹴散らして、ここまで来てくれたのだ。
化け物鳥は使用人の仲間を全て倒し、私たちの牢屋の前まで到達した。
そうして、使用人と対峙する。
「クソ! 私があれだけ使ってやったというのに、飼い主に牙を剥くのか!!」
「今のあなたは、その鳥にとってはもう支配者でもなんでもない。ただの敵の一人よ」
「ク、クソ!!」
すると、使用人は思わぬ行動に出た。
仲間の男たちや、私たちのことを放り出して、自分だけ一目散に逃げ出したのだ。
あまりの逃げ足の早さに、化け物鳥は攻撃を加える暇もなかったようだ。
「化け物鳥……っていうのも、呼び方として酷いわね。アルメダ、このモンスターの種族名を知ってる?」
「これは、ビッグウィングと呼ばれる種ですわ。普段は温厚な性格をしていますが、その体格の大きさから、怖がられることも多いモンスターです」
「なるほど……じゃあ、あなたは今から『ビッグ』ね」
そう名づけると、ビッグは嬉しそうに鳴いた。
「ビッグ、悪いのだけど、この鉄柵を破壊してもらえるかな」
私がお願いすると、ビッグは強力な蹴りの一撃で鉄柵に穴を開ける。
「いくら温厚な性格といっても、これだけ強かったら、みんなから怖がられても仕方ないような……」
そんなことを呟きながら、私は逃げた使用人を追うため、牢屋から出た。