私たちの牢獄に向かってくる足音が聞こえた。
「大変に遺憾なことですが、アルメダさまが行方不明になってしまえば、私はもう使用人としてヤーク家にはいられないでしょう。それ以前に、アルメダさまが行方不明になった責任を取らされるかもしれない。もうこの稼業は終わりです」
そう言って、目の前に現れたのはアルメダの使用人だった。その瞳は非常に冷たく、冷酷な本性が見て取れる。
「赤フードには『服従』を使って、これからは私の手駒として働いてもらいましょう。アルメダさまの方は遠方の国に、貴族の娘として売り飛ばせば、それなりの金になる」
「ひっ……」
アルメダの身体が怯えて震える。
だが、私は沈黙を保ったままだった。
「どうしたのですか? 口数が少ないですよ、赤フードの冒険者。自分がこのような目に遭うとは思っていなかったとか?」
「……いや、冒険者稼業の危険はわかってる」
「なら、絶望しているのですかな? アルメダさまというお荷物さえいなければ、私たちに負けるようなことはなかったですものね」
アルメダはうつむく。この事態を招いたのは自分のせいだと、自身を責めていそうだ。
だが悪いのは、明らかに目の前の使用人を含む犯罪集団であり、アルメダには何の責任もない。
「逆に口数が多いわね、使用人。本当は何か騒動を起こされるんじゃないかと、心配なんじゃないの?」
「…………」
使用人は私のことをきつくにらむ。
どうやら、私の指摘は当たっていたようだ。
でも。
その警戒は正しい。
ただ、気づいた時には手遅れだと思うけれど。
牢獄の入口の方が急に騒がしくなる。使用人の仲間の男たちの怒号が聞こえた。
使用人の顔に初めて焦りが浮かんだ。
「ほら、始まったよ」
「な、何をした!?」
「別に難しいことはしてないんだけどね」
男たちが牢獄の壁に次々と叩きつけられていく音が聞こえる。
絶叫が響き、他に捕まっていた商人たちも何事かと鉄柵に張りつく。
みんなの視線の先、監獄の入口の方から男たちを突き飛ばして現れたのはーー使用人に『服従』をかけられていたあの化け物鳥だった。
「あいつに監獄を襲わせたのか!? ど、どうやったんだ!?」
「どうやった? その方法はあなたが一番知ってるでしょ」
そう言って、私は化け物鳥の首の辺りを指差す。
そこには、新しく刻まれたばかりの『服従』の紋章があった。