3人は病院に着くと玄関付近に一本槍、メーナ、リリアールが居た。
「縁先生、スファーリア先生」
「一本槍君、何があった?」
「縁先生の知り合いというだけで、襲撃されました」
縁とスファーリアの目付きが鋭くなる。
「今日は親睦を深めに紅水仙君達と、竹山奥さんの別荘に行ったのですが」
「なるほど、外で遊んでる時に襲撃されたのね?」
「はい、それも竹山奥とルルさんが、買い物に出かけているタイミングです」
「そして、私達に連絡しなかったのは、動いたらヤバいと感じたからね?」
「はい、相手が格上でした、下手に動けば死んでいました。そして……結果を言えば」
一本槍は手を震わせ、悔しそうな顔をして俯いた。
「紅水仙君が両足を切断されました……今……足の再接着の手術中です」
縁はその言葉を聞いた瞬間にカミホンを操作した。
情報屋、ルティ・スティツァにメールで連絡をする。
「敵は複数人で、私達の即興の連携でどうにか出来る相手じゃなかったよね」
「紅水仙さんが敵を挑発して、私達を助けてくれました」
「縁先生、スファーリア先生……僕は……僕は強くなったと思っていました! でも現実は! 友人一人に全て任せてしまった、いくら紅水仙君が手を出すなと言っても!」
一本槍は悔しさから泣き始めてしまった。
格上の相手との実戦、話から分かるのは複数の相手をした紅水仙。
そして最善の手、自己犠牲で一本槍達を五体満足で帰した事。
その結果両足切断という重症。
「強く……なりたい……」
「失礼、口を挟んでいいかな?」
「……貴方は?」
服の袖で涙を拭いた後に一本槍は炎龍を見た。
「私は界牙流三代目炎龍、話を聞く限り君達は強い、何よりも『我慢した事』を評価したい、そして君達は五体満足で帰り、その紅水仙君も治療中なのだろう?」
「……ええ、全体を見れば上々でしょうが……僕の心が黒くなりそうです」
「ふむ、ここが君の心と武術の分岐点になるだろう、縁さん、あの巻物を」
「一本槍君これを」
「縁先生……これは?」
「一本槍君、これには凄い人が封じられた巻物だ」
縁は鞄から『歩みの書』を取り出して一本槍に渡す。
受け取った一本槍達は興味深そうに見ていた。
「それはつい先程私と戦った者が残した命の歩みだ、その人物は界牙流に勝った」
「か、界牙流に勝った!?」
「うむ、人生の全てを賭けて界牙流に勝ちたいとの信念、だが無理をし過ぎたのだろう、出会った時には今日明日の命だった」
「そんな凄い人の技術がこの巻物に」
「うむ、彼の歩んだ道は『
炎龍は一本槍の心を見透かす様に見つめた。
「学ぶといい、流派ではなく『活人』の心をだ」
「……」
一本槍は意を決した顔をして巻物を開いた、だが中身は真っ白だった。
どれだけ読み進めても真っ白が続いている。
「あれ? 何も書いてませんよ?」
「一本槍君、巻物にはちょっとした制約があるんだ、読み進めれば見える箇所があるだろう」
「……むむ? この蹴り方……紅水仙君と戦った時と同じ方法?」
メーナとリリアールが、あの時かと閃いた顔をして巻物をのぞき込んだが。
「え? アタイには見えないよ?」
「私にも見えていない、近しい能力や考え方の人しか見えないとか?」
「はっ!」
一本槍は唐突に巻物を食い入るように見て動かなくなった。
目は巻物を見ているが、遠くを見ている様にも見える。
「うお!? どうした一本槍!?」
「なるほど、読めた事によって一本槍さんは、巻物に封じられた人とお話してるのでは?」
「あーそうい
「これは困った」
リリアールとメーナは暗い空気を変えようとしているようだ。
一本槍の肩等を叩いているが反応が無い。
「お父さん、この子達をお願い出来る?」
「うむ、任せなさい」
「ありがとう」
それだけ言うと縁とスファーリアは病院から離れた、少し経って2人は足を止める。
「容赦しない、絶滅する」
「ああ、俺もここまでされて黙ってられん」
突然縁のウサミミカチューシャが壊れ、何時もの神様の姿になった。
壊れたウサミミカチューシャを拾って鞄に入れる。
「あ、壊れた」
「いや、代えがあるから大丈夫だ」
「そいういうば、縁君がウサミミ付けている理由は?」
「ああ、言ってなかったか? 斬っても切り離せないが、神として生きるのがめんどくさくなった、最初の理由はな」
「なるほど」
「巻き込んですまない」
「私は構わない、絶滅演奏術奏者として悪を滅するだけ」
「界牙流としては?」
「貴方の敵を全て殺す」
「そうか」
「俺も人に愛想がつきそうだ」
「あらダメよ縁ちゃん」
2人の背後から声をかけられた、殺気だっているからか睨みながら振り返る。
そこにはくねくねしながら立っているルルが居た。
「笑う門には福来るよ、一部のクソ野郎の為に、貴方の心を黒くする必要は無いわ」
「……ルルさん」
「それに……もし子供が出来て𠮟る時にそんな顔をして接するのかしら? 日常生活やクセって顔に出るわよ?」
「これは厳しい……だけど、そうですね」
「よし、敵の前だけにしましょ、笑顔は無理でも怒った顔はしないどく」
「……手を握ろうか?」
「ここは抱きしめ、数十秒抱きしめたら心身がリラックスするとか」
「聞いた事が有るな、よし」
2人は数十秒抱き合った、こわばった顔が徐々に緩くなったのは言うまでもない。
何時も通りの表情になった2人であった、いやむしろデレデレだ。
「2人共いい顔ね……で、敵はどこかしら? 私も付いていくわ」
「ルティから情報は貰っている、今から向かう」
「全力でやりましょ」
3人はその場から消えた。