ラクギアの街近くへと転移してきた3人。
街の中へと入り、ブルモンド・霊歌の工房へと向かった。
大きなハンマーを担ぎ、店先で掃除をしている。
「おやこれは縁じゃないかい、どうしたんだい?」
「単刀直入にいうと、またご迷惑をお掛けします」
「ああ、噂程度に聞いているよ? また一方的に因縁つけられたんだろ?」
「ええ、今度は容赦しません」
「ふむ……スファーリア、いや結びと一緒に乗り越えなさい」
「え? 知ってるんですか?」
「ああ、この間ビーダーを修理しただろ? 修復最中に気付いてね、ああ……受け渡しは魔法陣だったから雑談もしてなかったね」
「おばあちゃんとは長い付き合い」
「ふふふ……ドレミドに連れられて、演奏の旅に出た時から知っとるよ」
「そんな昔からですか」
「ああ、何を隠そう、絶滅演奏楽器を作ったのは私だ」
「なんと、そこまでは知りませんでした」
ブルモンド・霊歌はスファーリアを見た。
「スファーリアや、縁はいい男かい?」
「ビーダーを修理したならわかるでしょ」
「ああ、いい音だったよ」
「ふふん、当然」
スファーリアはえっへんと腰に手を当ててドヤ顔をする。
ブルモンド・霊歌はまるで孫を見るように微笑んでいた。
「よし……たまには工房から出ようかね、この街のお偉いさんには私が話をしておくよ」
「ありがとうございます」
「ああ、今度頭のウサミミを私に見せに来な、縁の信仰心をそろそろ抑えきれないかもね」
「え?」
「それは縁の信仰心を抑えて人間にしているんだ、これから増える一方だろうに」
ブルモンド・霊歌は縁とスファーリアを交互に見ると、ついつい縁達もお互いを見た。
「はは、落ち着いたらお土産を持ってきますよ」
「うむ、楽しみにしているよ」
工房から大通りに出る道を歩いていると。
「失礼、界牙流三代目、炎龍殿だな?」
「ふむ、私だけに向けられた殺気、何者だ、気付いてないと思ったか?」
突然背後から呼び止められ、振り返ると世捨て人の様な、ボロボロの服を着ている老人が立っていた。
「ご老人……いや、この気迫、何処かで」
「無謀にも昔貴方に挑み、返り討ちにあった少年ですよ」
「まさかあの時の!? しかしその身体は!?」
どうやら炎龍はこの老人を知っている様だ。
出会った時が少年ならば、炎龍はもっと歳をとっているはずだ。
「修行の成れの果てです」
「ど、どれだけ無茶をしたんですか!」
「界牙流に勝つため、ただそれだけをしてきた……愚か者ですよ」
「!?」
炎龍は老人の気迫に自然と一歩引いて、一筋の冷や汗を流す。
縁やスファーリアは動けずにいた、気迫に負けたのだろう。
「界牙流初代も子孫に心身の強さを伝え、この世を去った……だがその時の身体は見てはいられないものだったとか?」
「初代様はあらゆる分野を研究しました、一族がそれを引き継いできた」
「私も同じ事を……いや」
老人は首を振り、炎龍を睨んだ。
「話し合いをしたい訳では無い、この老いぼれのリベンジ、受けてもらいたい」
「……わかりました」
一行は街の外へと移動する。
炎龍と老人は向かい合いそしてお互いに構えた。
縁達は邪魔にならないように、少し離れている。
「界牙流三代目、炎龍」
「
「なっ! マジか!」
縁が驚きの声が上がる、始まったかとおもえば、2人が速すぎて見えないのだ。
お互いに何かの技を出しているが、弾いてるのか受け止めてるのか避けているのか。
それも確認出来ないくらい速い、ただ間違いないのは。
「……格上だ、それも桁違いの」
「私でも音で把握するのがやっと、風月でも無理」
「え? 元の一人に戻っても?」
「無理、お父さんは私より強いし、逍遥さんも凄い」
顔は無表情だが、声は驚いているスファーリアは言葉を続ける。
「三代……いや四代続いている界牙流に、創始者が対等に戦っている」
「そうか、数十年続いている流派に一代で渡り合っていると」
「ええ」
「ふと思ったが、創始者ってある意味で我流なのか」
「そ、受け継ぐ人が居なかったら我流で終わる、世間の関心なんてそんなもの」
見えない戦いが続くと思ったが、逍遥が突然血を吐いて地面に倒れ込んだ。
「ぐっ! ゴホ!」
「逍遥殿!」
「やめなされ三代目、今は死合う最中」
炎龍は心配そうな顔をして駆け寄るが。
睨みを効かし炎龍を見ながら立ち上がる逍遥。
炎龍は悔しそうな顔をした後、意を決した様に距離をとった。
「奥義、回歴!」
「これは!?」
逍遥は意気揚々と歩き出した。
普通に歩いている様にも見える。
その歩きに炎龍は驚きと焦りが見えていた。
「炎龍脚!」
回し蹴りと共に足から炎の龍を出す。
攻撃というよりは何かを確認する様に。
炎の龍は逍遥には当たらず、明後日の方向に飛んで行った。
「凄い、あれはまさに『回歴』の言葉にふさわしい」
「どういった言葉なんだ?」
「『各地を巡り歩く事』」
「って事は炎龍さんが『目的地』になったって事か?」
「ええ、他の技と組み合わせ、相手の懐に入る技だと思う、そして相手の技にも使えると」
「さっきの炎の龍は目的地を変更されたって事か」
「ええ、これは面白い流派」
逍遥は散歩でもする様に歩いている。
炎龍は奥義の性質を見抜いたのか、防御の構えたでじっと待っている。
「くっ!」
「覚悟! 戒め最終奥義! 歩行禁止!」
逍遥は右手の鋭い突きを炎龍の心臓部分に突き刺した!
「ぐああぁ!」
「……届かなかったか、この身体がまとも……ならば」
炎龍は胸を抑えながらしりもちを着く。
技を放ち終えた逍遥は、無念の言葉と共にその場に倒れた。
「あれは凄い、例え心臓でなくとも当たった部分が死滅する」
「一撃必殺か、でも戒め?」
「回歴の言葉から見て、流派的な考えで、歩みを止める事はご法度って事かな? 殺すって事だし」
「なるほど……だが、炎龍さんが生きている所を見ると」
「完全には入ってないね、みねうちレベル」
縁とスファーリアは憶測で話をしつつ、見ているしかできなかった。
「しょ! 逍遥殿!」
炎龍は苦しい顔をしながら、逍遥を仰向けにした。
逍遥は最期を悟った顔をして笑っている。
「ワシのワガママに……付き合わせて……すまなかった、界牙流三代目……ぐっ!」
「たらればの話をしても仕方ないが! 貴殿の身体が健康であれば私は死んでいた! 貴殿は界牙流の技術に勝ったんだ! でも何故こんな無茶を!」
「界牙流に……心から勝ちたいと思ったからだ……だが……終わってみれば、後悔が……湧いてきた」
逍遥は弱々しい右手を天に向けた、そして右手はすぐに地に落ちた。
「ワシには……弟子が居ない、この技が消えていく……積み上げてきた……努力が……ゴホ! ゴホ! 死ぬよりも……この技が……死……ゴハァ!」
「逍遥殿!」
「縁君! どうにか出来る!?」
「ああ!」
後悔を述べている逍遥に、縁は鞄をあさりながら近寄り一本の巻物を見せた。
「逍遥さん、色々と制約がありますが、この巻物に貴方を封じる事が出来ます、技術や――」
「縁君、説得は一言」
スファーリアが縁の言葉を遮って言ったその言葉。
「貴方に推薦したい人物が居ます、きっと気に入ります」
「ほう……推薦したいとな? ゴホ!」
今にも死にそうな逍遥の目には、確かに生きる希望が宿っていた。
「流派を受け継ぐかは分かりませんが、素直でいい生徒です」
「……そうか……どちらにせよ……その子に合わせてもらえるかな?」
「ええ、こちらからお願いしたいです」
「兎さんや……これに……触ればいいのかい?」
「はい」
「ふふ、どんな制約が有ろうとも、ワシの技が伝えられる……頼んだよ」
逍遥は満足そうに光となって巻物へと吸い込まれていった。
巻物には『歩みの書』と名前が浮かび上がっていく。
縁は丁重に鞄にしまった。
「縁さん、ありがとうございます、彼の努力と技術、執念は素晴らしかった」
「……でも何でこの街に」
「おそらくですが、死期が近かったのが一番の要因かと」
「なるほど、この街を墓場にするつもりだったけど、お父さんの気配を感じたと」
「結果論になってしまうが良かった、彼の技が続く」
「この街に居た考察は後にして、一本槍の所に行こう」
「ああ、そう――」
縁のカミホンが鳴った、画面を見ると一本槍君と表情されている。
「おお一本槍君、丁度……は!? 紅水仙君が病院!? 君をかばって!?」
病院という単語に反応したスファーリアは眉をひそめた。
「何があったんだ!? アフロ先生の病院だな! すぐに行く!」
「何があったの?」
「確認しにアフロ先生の病院に行くぞ」
3人は病院へと向かったのだった。