次の授業の時間になり、縁達は実習室に向かう。
生徒達は準備運動を済ませて待っていた、斬銀が一歩前に出る。
「てな訳で早速だが実習だ、ファリレントとツレ、俺が必殺技を教えてやろう、お前らに教えるのは盆踊りだ」
「盆踊りっすか?」
「うむ、今は通じるかは分からないが、縁を封じれる盆踊りだ」
「え!? 縁先生を!?」
「あの時の神封じの盆踊り……ぐぬぬぬ」
生徒のほとんどは大小あれど驚いている。
しかし絆は物凄く不服そうに斬銀に見た、むしろ睨んでいた。
「これを極めると一人でも出来る様になるが、本来は協力技だ、そして対象は神だけではない」
「振り付けとか音楽変えるって事っすね?」
「ああ、スファーリアの生徒だ、俺のやり方を見ればわかるだろ」
斬銀は盆踊りを始めた、時々自分で合の手を入れる。
傍から見ればただの盆踊りだが、生徒達は真剣な表情をしていた。
「なるほど、筋肉の収縮、臓器の音、血流で音を奏でているのか」
「おお、ファリレントはすげーな、って事は旋律はわかっただろ?」
「ツレ君はどう?」
「大丈夫だファリレント、分かりやすい様にやってもらったからな」
「と言うわけだ、やってみろ」
「私も参戦させてもらいますわ」
ツレとファリレントがが少し斬銀に近寄る。
他の生徒達は離れるが絆は、ニヤリとしながら一歩前に出た。
「ほう? やる気満々だな」
「ファリレントさん、ツレさん、このクソ筋肉ダルマに私達の演奏会でブチのめしましょう」
絆は指を鳴らしてマラカスを召喚した。
宙に浮いているマラカスは、ご機嫌そうに絆の周りを回っている。
「おいおい、個人的な恨み有り過ぎだろ」
斬銀の言葉にウサミミカチューシャを左手で外し、絆は神様モードになる。
右手でマラカスを手に持ち、それを斬銀に向けた。
「兄と義理のお姉ちゃん……殺されかけてみろや」
無表情でそけだけ言うと、ウサミミカチューシャを付けて元の姿に戻る。
近くで見ていたツレとファリレントは、思わず一歩引いた。
本気で殺す勢いがありそうだからだ、斬銀は苦笑いをしながら縁達を見る。
「……縁、スファーリア、正直助けてくれ」
「自分のした行いだろうに」
「絆ちゃんの気持ちはわかる」
泣き言を言う斬銀にスファーリア達は、自業自得と言いたげだ。
絆はチラッとツレとファリレントを見る。
「御二方! 武器を構えてくださいまし!」
「は、はい!」
「わ、わかりました!」
絆のキレ具合を見て少々ビビッているようだ。
慌ててトライアングルとヴァイオリンを取り出す。
「少し難しい注文していいかしら?」
「難しい?」
「なんっすか?」
「はい、この筋肉クソダルマでも、私とお兄様の恩人なのは事実、殺すわけにはいきません」
絆はどす黒い笑いをして、ツレとファリレントは息を吞む。
「ですから、チクチクと筋肉を痛めつける事にします!」
「フッ、俺の筋肉に効く演奏術、それも即興でやると?」
「そうです、名付けて『筋肉痛の盆踊り』ですわ!」
3人の即興の演奏が始まつた。
すると、実習室の出入口からガイコツが数体入ってきた。
頭を下げながら入ってきて、ツレの近くへと行く。
ガイコツ達はねじり鉢巻きをして、盆踊りを踊り始めた。
奏でられている音色は、夏祭りを感じさせる。
斬銀は特に動かないが、3人は気にせずに演奏していた。
スファーリアは満足そうに見ている。
「ふふん、流石私の生徒、いい音」
「だが何で筋肉痛?」
「いい判断、筋肉痛って怪我って言える?」
「ああ……怪我……ではないよな? 細かい事は知らんが、身体が筋肉の修復中みたいな事だったよな?」
「そう、強い筋肉にするための工程、言わば治癒、いくら斬銀君でも筋肉痛を防ぐ手段は無いでしょう」
「考えたら攻撃方法が筋肉痛にさせるって聞かないよな」
「筋肉痛を防ぐ方法は無い、あっても予防方法」
「まあ、普通に考えて『筋肉痛を押える魔法を考えよう!』とかはならんわな、逆もそうだが」
2人がそんな話をしていると、斬銀は静かに笑い出し、それは大笑いに変わる。
「ガハハハハハ! なるほどな! だが一つ言っておこうか? ありがとうよ!」
「まあ! そんな地味な痛みの虜に!? そういう趣味が!?」
「いや? 俺のこの筋肉は禁術の副作用、そして自分の魔力を犠牲にしてこの筋肉の制御をしている、つまり、副作用でこの身体になった後に、筋肉痛にはなった事がないんだよ」
斬銀は筋肉痛を楽しむかの様に身体を動かしていた。
「んじゃ、今度はこっちの番だ」
「御二方! 眩しい笑顔がきます! 私達の演奏術では太刀打ちできません! 顔をそむけて! 直視してはいけません!」
「は!? 笑顔!?」
「ツレ君! 演奏止めて顔を隠して! 斬銀さんの顔に音が集中している!」
絆、ツレ、ファリレントは演奏を中止して、斬銀を直視しないようにする。
「斬銀スマァァァァァァイル!」
それは熟練された笑顔。
苦楽を生き抜いてきた笑顔。
見るもの全てにやすらぎを与える笑顔。
直視したガイコツ達は、天使の輪と羽を付けて天に召された。
その威力は絶大で、絆達は楽器を落として、踏ん張り耐えている。
ただの笑顔を攻撃にしている、常識では突破は無理だろう。
「ちょちょちょ! 何なんすか! あれただの笑顔っすよね!?」
「この音!? 斬銀さんは自分の人生をあの笑顔で表現しているわ!」
「つまり人生ぶつけられてるって事っすか!?」
「さて御二方、自分の理解出来ない技を前に、どうしますか?」
「ええ!? なんかあったっけ!?」
「……あ」
ファリレントは混乱している。
だが、絆に言われてツレが思い出した事。
それは斬銀が話していた『学生だから許される対処法』である。
「ギブアップするので、スファーリア先生助けて下さいっす」
「仕方ない」
スファーリアはトライアングルを叩いて斬銀の笑顔を止めさせた。
斬銀はスファーリアの方を見て、拍手をする。
「おお、俺の本気の笑顔を消す音とはやるな」
「絶滅演奏術に消せないモノは無い」
「んじゃここまでだな、後はお前が教えられるんじゃないか?」
「ええ、音はわかった、みんな、あっちで今教えていただいた盆踊りの応用をするわよ」
「は、はいっす……笑顔で攻撃ってなんなんすか」
「お姉ちゃんのクラスに居ると、非常識な攻撃とんでくるよね」
「……筋肉痛以外に地味な攻撃を考えなくては」
落とした楽器を拾った3人はスファーリアに連れられて、少し離れた場所で続きをするようだ。
「さて、待たせたな一本槍」
斬銀は期待の眼差しで一本槍を見た、一本槍もワクワクを抑えられない顔をしている。
「斬の師範代として相手をしよう……よろしくお願いいたします」
「斬銀先生、僕は界牙流の門下生ではありませんが」
斬の師範代は右手で拳を握り、肘をL字に曲げ手を前に出した後にお辞儀をした。
対して界牙流の教え子は腕組みをし、そのまましゃがみ頭を組んだ腕に付けた。
「よろしくお願いいたします」
斬の挨拶と界牙流の挨拶。
言わば流派を超えた交流がこれから始まる!