第五話 演目 斬銀先生の音楽実習~神を封じる盆踊り~

 次の授業の時間になり、縁達は実習室に向かう。

 生徒達は準備運動を済ませて待っていた、斬銀が一歩前に出る。


「てな訳で早速だが実習だ、ファリレントとツレ、俺が必殺技を教えてやろう、お前らに教えるのは盆踊りだ」

「盆踊りっすか?」

「うむ、今は通じるかは分からないが、縁を封じれる盆踊りだ」

「え!? 縁先生を!?」

「あの時の神封じの盆踊り……ぐぬぬぬ」


 生徒のほとんどは大小あれど驚いている。

 しかし絆は物凄く不服そうに斬銀に見た、むしろ睨んでいた。


「これを極めると一人でも出来る様になるが、本来は協力技だ、そして対象は神だけではない」

「振り付けとか音楽変えるって事っすね?」

「ああ、スファーリアの生徒だ、俺のやり方を見ればわかるだろ」


 斬銀は盆踊りを始めた、時々自分で合の手を入れる。

 傍から見ればただの盆踊りだが、生徒達は真剣な表情をしていた。


「なるほど、筋肉の収縮、臓器の音、血流で音を奏でているのか」

「おお、ファリレントはすげーな、って事は旋律はわかっただろ?」

「ツレ君はどう?」

「大丈夫だファリレント、分かりやすい様にやってもらったからな」

「と言うわけだ、やってみろ」

「私も参戦させてもらいますわ」


 ツレとファリレントがが少し斬銀に近寄る。

 他の生徒達は離れるが絆は、ニヤリとしながら一歩前に出た。


「ほう? やる気満々だな」

「ファリレントさん、ツレさん、このクソ筋肉ダルマに私達の演奏会でブチのめしましょう」


 絆は指を鳴らしてマラカスを召喚した。

 宙に浮いているマラカスは、ご機嫌そうに絆の周りを回っている。


「おいおい、個人的な恨み有り過ぎだろ」


 斬銀の言葉にウサミミカチューシャを左手で外し、絆は神様モードになる。

 右手でマラカスを手に持ち、それを斬銀に向けた。


「兄と義理のお姉ちゃん……殺されかけてみろや」


 無表情でそけだけ言うと、ウサミミカチューシャを付けて元の姿に戻る。

 近くで見ていたツレとファリレントは、思わず一歩引いた。

 本気で殺す勢いがありそうだからだ、斬銀は苦笑いをしながら縁達を見る。


「……縁、スファーリア、正直助けてくれ」

「自分のした行いだろうに」

「絆ちゃんの気持ちはわかる」


 泣き言を言う斬銀にスファーリア達は、自業自得と言いたげだ。

 絆はチラッとツレとファリレントを見る。


「御二方! 武器を構えてくださいまし!」

「は、はい!」

「わ、わかりました!」


 絆のキレ具合を見て少々ビビッているようだ。

 慌ててトライアングルとヴァイオリンを取り出す。


「少し難しい注文していいかしら?」

「難しい?」

「なんっすか?」

「はい、この筋肉クソダルマでも、私とお兄様の恩人なのは事実、殺すわけにはいきません」


 絆はどす黒い笑いをして、ツレとファリレントは息を吞む。


「ですから、チクチクと筋肉を痛めつける事にします!」

「フッ、俺の筋肉に効く演奏術、それも即興でやると?」

「そうです、名付けて『筋肉痛の盆踊り』ですわ!」


 3人の即興の演奏が始まつた。

 すると、実習室の出入口からガイコツが数体入ってきた。

 頭を下げながら入ってきて、ツレの近くへと行く。 


 ガイコツ達はねじり鉢巻きをして、盆踊りを踊り始めた。

 奏でられている音色は、夏祭りを感じさせる。

 斬銀は特に動かないが、3人は気にせずに演奏していた。


 スファーリアは満足そうに見ている。


「ふふん、流石私の生徒、いい音」

「だが何で筋肉痛?」

「いい判断、筋肉痛って怪我って言える?」

「ああ……怪我……ではないよな? 細かい事は知らんが、身体が筋肉の修復中みたいな事だったよな?」

「そう、強い筋肉にするための工程、言わば治癒、いくら斬銀君でも筋肉痛を防ぐ手段は無いでしょう」

「考えたら攻撃方法が筋肉痛にさせるって聞かないよな」

「筋肉痛を防ぐ方法は無い、あっても予防方法」

「まあ、普通に考えて『筋肉痛を押える魔法を考えよう!』とかはならんわな、逆もそうだが」


 2人がそんな話をしていると、斬銀は静かに笑い出し、それは大笑いに変わる。


「ガハハハハハ! なるほどな! だが一つ言っておこうか? ありがとうよ!」

「まあ! そんな地味な痛みの虜に!? そういう趣味が!?」

「いや? 俺のこの筋肉は禁術の副作用、そして自分の魔力を犠牲にしてこの筋肉の制御をしている、つまり、副作用でこの身体になった後に、筋肉痛にはなった事がないんだよ」


 斬銀は筋肉痛を楽しむかの様に身体を動かしていた。


「んじゃ、今度はこっちの番だ」

「御二方! 眩しい笑顔がきます! 私達の演奏術では太刀打ちできません! 顔をそむけて! 直視してはいけません!」

「は!? 笑顔!?」

「ツレ君! 演奏止めて顔を隠して! 斬銀さんの顔に音が集中している!」


 絆、ツレ、ファリレントは演奏を中止して、斬銀を直視しないようにする。 


「斬銀スマァァァァァァイル!」


 それは熟練された笑顔。

 苦楽を生き抜いてきた笑顔。

 見るもの全てにやすらぎを与える笑顔。


 直視したガイコツ達は、天使の輪と羽を付けて天に召された。 

 その威力は絶大で、絆達は楽器を落として、踏ん張り耐えている。

 ただの笑顔を攻撃にしている、常識では突破は無理だろう。 


「ちょちょちょ! 何なんすか! あれただの笑顔っすよね!?」

「この音!? 斬銀さんは自分の人生をあの笑顔で表現しているわ!」

「つまり人生ぶつけられてるって事っすか!?」

「さて御二方、自分の理解出来ない技を前に、どうしますか?」

「ええ!? なんかあったっけ!?」

「……あ」


 ファリレントは混乱している。

 だが、絆に言われてツレが思い出した事。

 それは斬銀が話していた『学生だから許される対処法』である。


「ギブアップするので、スファーリア先生助けて下さいっす」

「仕方ない」


 スファーリアはトライアングルを叩いて斬銀の笑顔を止めさせた。

 斬銀はスファーリアの方を見て、拍手をする。


「おお、俺の本気の笑顔を消す音とはやるな」

「絶滅演奏術に消せないモノは無い」

「んじゃここまでだな、後はお前が教えられるんじゃないか?」

「ええ、音はわかった、みんな、あっちで今教えていただいた盆踊りの応用をするわよ」

「は、はいっす……笑顔で攻撃ってなんなんすか」

「お姉ちゃんのクラスに居ると、非常識な攻撃とんでくるよね」

「……筋肉痛以外に地味な攻撃を考えなくては」


 落とした楽器を拾った3人はスファーリアに連れられて、少し離れた場所で続きをするようだ。


「さて、待たせたな一本槍」


 斬銀は期待の眼差しで一本槍を見た、一本槍もワクワクを抑えられない顔をしている。


「斬の師範代として相手をしよう……よろしくお願いいたします」

「斬銀先生、僕は界牙流の門下生ではありませんが」


 斬の師範代は右手で拳を握り、肘をL字に曲げ手を前に出した後にお辞儀をした。

 対して界牙流の教え子は腕組みをし、そのまましゃがみ頭を組んだ腕に付けた。


「よろしくお願いいたします」


 斬の挨拶と界牙流の挨拶。

 言わば流派を超えた交流がこれから始まる!