タベリアの地下を縁達は細い廊下を歩いていた、一番奥に木のドアがあり一度止まる。
「ここにペリジーンさんが居ます、彼から聞いて下さい」
「やはり裏で糸を引いていたか」
正蔵は扉を開いたが簡素な机と椅子。
そして白衣を着たキツネの亜人が立っていた。
「やあ正蔵、久しぶりだね」
「ジン……そんな予想はしていた、今回もお前の手のひらなんだろう?」
「怒らないのかい?」
「悪の科学者をしている親友に、何を言ってもダメだろう」
「その通りだ、座りたまえよ」
各々テキトーに椅子に座った。
ペリジーンはニコニコしながら正蔵に話しかける。
「うんうん、昔の正蔵はめんどくさかったから、落ち着いていて助かるよ」
「お前をぶん殴る気持ちは有るが、俺の感情など後回しだろう?」
「ああ」
「説明してくれ、地底帝国に何があった」
「プレーリー達が言っていた通り、地上侵略を再開させた派閥がネオ地底帝国を名乗った、それまではバラバラのグループだったんだがな」
「一つにまとまったと、指揮しているのは誰だ」
「クマネが大王名乗って調子に乗ってるのさ」
「……あいつか! 考え方が過激とは思っていたが! 地底帝国の民を巻き込むとは! ……いや待て! ならプレーリーがネオ地底帝国に身を置いたのは!?」
「無論、ネオ地底帝国が地底帝国にちょっかいを減らすためさ」
「良かった……プレーリーが……俺が尊敬した男で良かった」
目頭を抑えて安堵の表情をする、涙を流すほどの間柄なのだろう。
「自分の仕えてたお姫様の結婚式で馬鹿泣きした奴だぞ? それにお前と決闘したじゃないか」
「……一瞬でも疑った自分が恥ずかしい」
「それだけ今回の事に本気って事だ」
「プレーリーの目的は? 地底帝国に守るのもそうだろうが」
「簡単に説明しよう」
ペリジーンはコホンと咳をした。
「まずはクマネがバカな思想でネオ地底帝国を宣言した、理由を聞くだけ無駄だ、奴らは地底帝国の敵」
「プレーリー達は抑止力になるために居るんだよな?」
「ああ、さっきも言ったが、クマネ達の行動をある程度阻止出来るようにな……それにまだある」
「それは?」
「お前の息子を鍛える事だ」
「正吾を? ……む! な、なるほど! 違和感の1つは息子が死ななかった事だ! あのプレーリーを相手に毎回五体満足で帰って来れる訳がない! それに幹部を何人か倒したとも言ってた!」
正蔵は色々と納得していくように、自部の言葉を強くしていく。
ペリジーンはそんな親友を見てニヤリと笑った。
「将軍に感謝するんだな、でなければ我妻、九尾の力も使えなかった……まあ完璧には使えてないが」
「……ちょっと待て、よく考えたら息子の修行? このタベリアを使ってか?」
「バレたら怒られるな、ま、この街だけではないさ、他の場所でも少々な」
「怒られるではすまんぞ」
「秘密ってのは人数が少ない方がいい」
「はぁ……」
親友の考えにため息しか出ない正蔵。
「まあそれは置いといて、正吾には強くなってもらわんと困るのだよ」
「正吾はまだ九尾の力を完全には扱えてなかった、あれではプレーリーに傷1つ無理だ」
「故にプランBに移行した」
「縁君達が届けてくれた新しい砂時計を使って、体内の砂時計を修理したのか」
「ふふん、凄いだろ?」
「いや、お前が渡せばいいのでは?」
「私は今ネオ地底帝国に居るからね、堂々と表はあるけんよ」
「どうせ新開発した砂時計が盗まれた、とかそう言う相変わらず小難しい動きをしているのか?」
「君が素直にいれるように、私は蛇足をするのさ」
お互いに親友と認め合う2人は楽しそうに笑い合う。
縁はそれを見て同じ様に笑った。
「俺の砂時計を直したのは、正吾が強くなるまで俺に戦えと?」
「頑張ってくれ、砂の英雄さん」
「まったくお前に恐れ入るよ……そしておそらくだが、俺ではネオ地底帝国には対抗できないのだろう?」
「ああ、ネオ地底帝国の上層部にお前の砂時計は効かない、お前の砂時計は古い技術だから対策されている」
「今更だが……何故息子を戦いに巻き込んだ? 偶然を装って擬態砂時計を渡したのはお前だよな?」
「ではお答えしよう」
再びペリジーンはコホンと咳をした。
「正吾は地底帝国のお姫様と、地上と和解させた勇者の間に産まれた子だ、まあこの一言でわかるんじゃないか?」
「……改めて言われると……そうだな、都合のよく使われる可能性がある」
「お前も警戒してない訳じゃないだろうが、事態は想像以上って事だ」
「ああ」
「解決策は簡単だ、何度も言っているが正吾には強くなってもらう」
「この事は正吾には言わない方がいいな?」
「お前の息子だぞ? 言ったら面倒くさい事になる」
「俺がそうだったからか? ……わかった、俺の胸に留めておく」
「賢明な判断だな、正蔵」
「俺よりプレーリーの方が辛いだろう」
「お前より正吾の誕生を喜でいたからな」
「……ああ」
プレーリーの事を語る正蔵はまた目頭を抑え、視線を変えるとふと縁達が目に入った。
「そういえば、縁君達は何処まで知っているんだい?」
「今回の事は俺達は何も知らないし、聞きませんでした」
「そんな音知らない、楽譜に無い」
縁そっぽを向いて、スファーリアは軽くトライアングルをビーダーで叩いた。
「とは言え彼の力は便利だ、困ったらまた助けてもせおうか」
「ジン、迷惑を考えろ」
「ハハッ、悪の科学者にそれを言うか?」
「親友に言ってるんだ」
「まあ、談笑はこれくらいにして、私はそろそろ失礼しよう、正蔵、新しい擬態砂時計は持っていくぞ? 持ち帰って今の正吾に合わせて調整をする」
「ジン、次はいつ会える?」
「君の息子が私に挨拶を死に来る時さ」
「遠い未来だな」
正蔵は擬態砂時計を渡すと、ペリジーンは赤紫色の炎に包まれてその場から消えた。
「今日はありがとう縁君……あ、失礼、今更だがそちらの女性は?」
「私は結び、訳有って2つに別れています、この姿の名前はスファーリア、そして縁君の妻です」
「まだ結婚してないよね? 捏造は良くないよ?」
「時間の問題です、覚悟」
「ふふ、あの縁君が結婚か……俺も歳を取るわけだ」
少々しわしわな自分の手を見る正蔵は、ふと何かに気付いた顔をした。
「縁君、ちょっと聞いていいか?」
「ええ、何でしょう?」
「ジンと何時知り合ったんだい?」
「呼び出されて今回の事をお願いされただけですよ
「なるほど」
「……まあ言ってもいいか」
「ん?」
「親友と未来の義理の息子を助けてくれと言われまして」
「ジンが君にそんなお願いを!? つまりあのジンが他人に頭を下げた!? いや神様にか」
信じられないといった顔をしている正蔵だったが、すぐにハッとして縁を見た。
「ありがとう縁君、今度神社に何か奉納するよ」
「ありがたく頂戴します」
「縁君、私も聞きたい事がある」
「え? 何?」
「正蔵さんとはどんな知り合い?」
「昔俺が妹関連で暴れ回ってる時に知り合った、当時の地底帝国が地上の神を標的にした時があってね」
「んん? あ、地底帝国には神様が居たって事?」
「ああ、信仰は何処でもあるからな」
「なるほどなるほど、正吾君とは?」
「何回か正吾君が地底帝国……いや、ネオ地底帝国と戦っている所に出くわしてね」
「なるほどなるほど、不思議な縁ってやつね」
その時部屋の扉がノックされ、タベリアの警備員が入ってい来た。
「失礼します、正吾君の治療が終わりました」
「ありがとうございます」
「様子を見に行こう」
3人は正吾の病室へと向かうのだった。