とあるスラム街のある区画。
そこはオネェ系インキュバスのルルが経営している。
縁はそこで従業員として働いていた。
「縁ちゃん、これ3番テーブルにお願いね」
「わかりました」
店内は20人位のお客で賑わっている。
縁含めて店員は忙しそうに対応していた。
「おーい、兄ちゃん! この本日のオススメ詰め合わせの内容はなんだ?」
「すみません、確認しますね」
「縁先輩! 今日のオススメの内容ってなんでしたっけ?」
「むっちゃん、今日は国産チーズの盛り合わせと、ウインナー3種だ」
「チーズとウインナーの盛り合わせですね」
「チーズとウインナーか、兄ちゃん、それ人数分頼むわ」
「はい!」
「兄ちゃん、こっちの席にも人数分頼む!」
「わかりました!」
「おう! こっちにもそれ人数分くれや!」
「はい!」
そこに黒いローブ姿の女性と、同じ姿の少女が来店してきた。
2人はカウンター席に座り、ルルが笑顔で近寄っていく。
「あら、ドレミドじゃない」
「はぁ~い、ルルちゃん」
「あらまあ、そっちは娘さん? 名前は?」
「こんばんわ、スファーリアです」
スファーリアは無愛想に軽く頭を下げた。
「はい、こんばんわ……って、ドレミド! 未成年者をスラム街の飲み屋に連れて来るんじゃないわよ!」
「ルルちゃ~ん、未成年者の従業員だっているでしょ? てかスラム街で何言ってんの」
「ぐっ……でもこんな可愛い子がうろついて大丈夫なの?」
「私の娘よ? 絶滅演奏術は一通り覚えさせたわ」
「だからって……まあ私がとやかく言えないけども」
「今日は必要だから連れて来たのよ、私がやってきた事が繋がるのよ」
ドレミドは忙しそうに配給をしている縁をチラッと見た。
ルルはそれを見逃さず、ニヤリと笑った。
「ドレミドがやってきた事? あんた最近まで色んな国や街を絶滅させてたじゃい」
「そ、邪魔者を排除しただけ」
「凄い賞金首になってるわよ、あんた」
「無駄よ無駄、私が滅ぼしたのは悪人、本気で擁護する奴は居ないわよ」
「はぁ……今日は何にするの?」
「兎君のカクテルを飲みたい」
「あんたも好きね、縁ちゃん~! ドレミドにお酒作って」
「あ! はい! これ届け終わったら行きます!」
しばらくして縁がやって来て、カウンター席の内側に入った。
「私が配給するから、この2人の相手は任せたわ」
「わかりました」
ルルはバレないようアイコンタクトをして、ドレミドは小さく頷く。
「兎君、仕事は慣れたかしら?」
「ええ、ルルさんには感謝しています、何にしますか?」
「何か軽いカクテルお願い、味は任せるわ」
「はい、貴女は何がいいですか?」
「未成年者なのでミルクでも貰います」
「今日はいいミルクがあるんです」
「へ~」
スファーリアは無愛想に返事をする。
縁はミルクをグラスに注ぎ、スファーリアの前へ。
次にドレミド出すお酒をささっと作り、差し出した。
「失礼ですがドレミドさん、何かありました? 顔が暗いというか」
「最近気合を入れて絶滅演奏しただけよ、兎君は少し変わったわね?」
「そうですか?」
「ちょっと前まで世界を恨んでる顔だったのに」
「恩人に熱い説教されまして」
「貴方今いい音よ、って事は素敵な恋は出来たかしら?」
「……あの時の言葉遊び生きてるんですか」
「お母さん、言葉遊びって?」
「前にここに来た時、兎君はそれはもう酷い顔をしていてね」
「へ~」
「彼に素敵な夢を持ちなさいって言ったのよ、で、彼の答えが恋をしますだったの」
「はぁ、夢がありますね」
興味無いと言わんばかりに、スファーリアはミルクを飲んでいる。
「ごめんなさいね、こんな娘で」
「いえ」
「あ、そうそう兎君、今日は貴方に助言よ」
「え?」
「言葉は素敵な音なの、本気の音は価値があって他人の心を動かすのよ、逃がしたくない音を見つけたら……素敵な音を発しなさい」
「わかりました、覚えておきます」
「……本当に変わったわね、人からのアドバイスをちゃんと受け入れるなんて」
「恩人に説教された時に、耳にタコが――」
縁は何かに気付いた様な顔をした。
そしてその顔は他者を絶対許さない顔をしている。
「あら? 嫌な音が聞こえてくるわ」
「また俺を狙った刺客でしょうね、行ってきます」
縁は小走りでルルに話しかけた後、店を出で行った。
「スファーリア、手伝ってあげなさい」
「え? どうして?」
「静かに飲みたいからよ」
「わかった」
スファーリアも小走りで店を出ていった。
タイミングを見計らって、ルルがドレミドの元へ戻ってくる。
「ちょっと聞かせなさいよ、気を利かせたんだから」
「難しい話じゃないわよ? 昔……成長した娘と出会った事があってね」
「あら、未来からやって来たって事?」
「そう、その隣に素敵な兎君が居たのよ」
「だからあんた昔から色んな奴らに絶滅演奏してたの?」
「娘の旦那さんの敵は少ない方がいいわ、潰せるうちに出来るだけ潰した」
「あんたもしかして……あまり絶滅演奏出来ないの?」
「ルルちゃん音色は変わっていくの、意味も無く他者を滅する演奏より、娘の幸せを願うようになっただけ」
ドレミドはこれ以上ない、幸せそうな母の顔をしていた。
「あんた変わったわね~いい母親の顔してるわよ、けど子育ては死ぬまで終わらないわよ?」
「え? 子離れしないと」
「何言ってんの、娘がお母さんになった時に誰が子育て教えるのよ、経験に勝るものはないわよ」
「それは子離れ出来ないわね」
「奢るから色々と話しなさい、縁ちゃんには言わないから」
「……娘が帰ってくるまでね」
楽しそうに話し出すドレミドとルル。
一方、縁とスファーリアは無表情で外を歩いていた。
店の外は荒れてる街並みが広がっている。
生きてるか死んでるか分からない人に崩れた建物。
嫌気がしそうな臭いも漂っていた。
どう考えても普通の感性を持っていたら近づかない場所だ。
「どうしました?」
「お母さんに貴方を手伝えと言われた」
「……よろしくお願いいたします」
「ええ」
それだけ言うと2人は無言で歩く。
しばらく進とご大層な集団と出会った。
老若男女、様々な種族の人達が2人を出迎える。
「見つけたぜ縁! お前が殺した家族の仇をとりに来たぜ!」
スファーリアはすかさずトライアングルを召喚する。
誰かが何かを言う前に、ビーダーでトライアングルを叩く。
高音の音が辺りに響いて、一番最初に喋っていた男が死んだ。
「貴方随分と恨まれているのね」
スファーリアつまらなそうな顔して縁を見た。
縁は宝物を見つけた子供の様に、キラキラした瞳でスファーリアを見ている。
「どうしたの? 呆けた顔をして」
「え……あ……いや、後にします」
「そうね、殺し合いの最中に意味も無くベラベラ喋るのは愚か」
「そのトライアングル……テメェ絶滅演奏奏者か!」
「殺しに来たらどう? 話し合いに来たんじゃないでしょ?」
「けっ、こっちには一般人が居るんだ、殺し――」
問答無用でスファーリアはトライアングルの音を鳴らす。
周りに居た人間達はバタバタと死んでいく。
「殺せるけど?」
スファーリアは面倒くさいそうにため息をした。
「やる気無くした、任せていいですか?」
「ええ」
縁はウサミミカチューシャを外すした。
すると、黒い色の和服にで全身からどす黒い血の色が全身から流れている。
スファーリアはそれを見ても特に驚かなかったが、襲撃しに来た何人かが悲鳴をあげている。
「ほら、俺が相手になるから戯言たれろよ」
「戯言だと!? 俺達はお前ら家族に不幸にさせられたんだぞ!」
「そうだ! 家族の仇だ!」
「不幸の神は滅ぶべきだ!」
様々な罵詈雑言、誹謗中傷が縁に向けられる。
しかし縁は平然としている。
そもそもその内容が、ほとんどがとってつけたようなものだった。
「ふーむ……まあつまり、お前らは『幸せ』になりたいんだな?」
縁は最高の黒い笑みをして、両手を天に掲げた!
「では、最初に金銭を望む物に幸せをやろう、来たれ金銀財宝! 金銭欲、物欲を満たす雨を降らせ!」
なんと空から金銀財宝が雨の様に降って来たのだ!
叫ぶ声は一瞬にして無くなった、その場で生き残っている人はごくわずかだ。
生き残った人達はその場から逃げようと、蜘蛛の子を散らした様に逃げ出す!
「ハハハハハ! よかったな! なんだ? 金銀財宝だ遠慮なく持ち帰らないのか? なら土産だ! 権力欲、支配欲、名誉欲、正義欲、平和欲……色々有るが、お前らに相応しい縁結びしてやろう!」
逃げ出している残った人達の小指に突然赤い糸が現れて、それは直に消えた。
その場には金銀財宝と死体、縁とスファーリアだけになる。
「はぁ……虚し」
「終わったわね、帰りましょう」
「あ、はい……そうですね」
縁が辛そうな顔をしているのを余所に、スファーリアは先に歩き出した。