縁はスファーリアに案内されて職員室までやって来た。
職員室には誰も居ない、スファーリアは音楽関係の小物が置いてある机の前まで移動する。
「ここが戦闘科の職員室」
「誰も居ないな」
「今日は休みだし、それに基本的に職員室には居ない」
「そうなの?」
「うん、実習室にも職員室があって、こっちは行事の決め事とかにしか使わない」
「なるほど」
「ささ、私の隣の席に座って」
「ああ」
縁は何も置いていない隣の席に座った。
「今更だが、スファーリアさん」
「何?」
「俺が先生でいいのか?」
「どうしたの?」
「いや、恥ずかしい話だが俺には学が無い、学校にもろくに行かなかったし、文字の読み書きも怪しい」
「私からすれば、それで? って感じ、座学も必要だけども、戦闘科の先生に必要なのは実戦経験」
「うーむ」
「だったら縁君が必要と思う事を勉強すればいい」
「いやまあ、そうなんだが」
「シーナ先生聞いてみれば?」
「サンディに?」
「私は先生になったシーナ先生しか知らないけど、縁君は色々と知ってるでしょ?」
「ああ、本当に先生になっているとは思わなかった」
「シーナ先生って昔はどんな感じだったの?」
「本人が居ない所で語っていいのだろうか?」
「『もう自部語りはしない、んなのうすら寒いだろ』って」
「なるほど、あいつらしい」
縁はフッと笑った。
「まああいつが先生してるんなら、努力すれば大丈夫だな」
「で、シーナ先生の過去ってどうだったの?」
「俺とサンディが一緒に修行していたのは教えたっけ?」
「うん、ジャージを使う流派がどうのこうの」
「ああ、その時のサンディは殺意が駄々洩れのヤバい奴だった」
「何で?」
「体質らしい」
「体質?」
「先祖が殺意が溢れ出す呪いにかかったらしい、その呪いが長い時をへて体質になったとか」
「ほほう」
「個人差も有るらしいんだ、サンディの場合はその呪いの適性があったらしい、特に訓練しなくても発症しなかったんだ」
「へー、覚醒したのは?」
「学生時代に調子に乗ってる奴に、絡まれた時らしい」
「どんな風に?」
「ろくに知らねぇ同学年に、教室でカツアゲされ時にね」
「ええ? どんな流れよ、てか治安わるいねその学校」
「いやいや、一部の奴らって奴だ」
「どうなったの?」
「簡単に言うなら……小銭をせびられる、サンディが無視する、相手に髪を引っ張られ謝罪を要求される、混乱するサンディに捨て台詞を吐き、その場を去ろうとする、呪いが本格的に発症、だな」
「絶滅しなきゃ」
「まあまあ落ち着いて」
ぶっ殺す勢いでトライアングルビーダーを取り出したスファーリア。
なだめる縁を見て直にしまった。
「そいつらはグループらしかったんだが、髪引っ張った奴を後ろから襲撃して、これでもかと殺意を溢れ出しながら脅したらしい」
「覚醒したばかりで抑える術をしらないのね」
「ああ、いくら適性があってもな」
「その後はどうなったの?」
「これも簡単に言うと……相手の親や学校で色々とあったんだが、両親が守ってくれた、殺意をコントロールする修行をする、後に悪の組織に居るそいつらを全滅させる、その後に俺と出会った」
「簡単に言い過ぎじゃない?」
「人に歴史有り、語ると長くなるからな」
「あれ? ふと思ったけど、シーナ先生って色々と技や術を使ってるけど、その殺意の呪いのおかげ?」
「らしい、その事件の時に『同じ事をしてやる』って強く思ったら、真似事が得意になったとか」
「なるほど」
「ついたあだ名が『猿真似のサンディ』だな、誰が言いだしたか知らんが」
「え? シーナ先生の技って猿真似ってレベルじゃないよね?」
「はっはっは、そりゃ努力しているからな」
スファーリアと縁の真横にサンディがいつの間にか立っていた。
「いつの間に」
「いやいやここ職員室だろ、んで何をしているんだ?」
「生徒達の反省会、休憩ついでに職員室を案内してました」
「……スファーリア先生、まさかとは思うが手を出してはいないよな?」
「絶滅する殺意は出した」
「おいおい大丈夫かよ」
「自分達のした事の罪悪感の方が強かった」
「何したんだよ」
「連絡も無しに死ぬ可能性がある事をした」
「あーなるほどな」
「そして私と縁君の時間を邪魔した」
虚空を睨む様に凄い怖い顔をする。
「スファーリア先生そっちが本命だろ」
「うん」
「だから縁君が連絡手段を用意した」
「あ、そうだ」
縁は鞄からカミホンが入った紙袋を取り出した。
「スファーリアさんとサンディにも渡しておこう」
「それなら石田さん達の分も預かっておく」
「わかった」
追加分を自分の机に置く。
「ん? なんだこれ?」
「カミホン、俺が何時も使ってるやつ」
「あのスマホみたいなやつか、貰っていいのか? あたしは遠慮しないぜ?」
「縁君、これ料金とかどうなってるの?」
「確かに、どうなってんだ縁」
「……これを作った奴に米やらなんやら渡していたんだが」
「が?」
「タダでいいとさ」
「怪しい」
「対価は払ったというかなんというか」
「何を払ったの?」
「俺がスファーリアさんに告白した時の動画を渡した」
「え? 何で? てかあの場面を録画してる人が居たの?」
「神にも色々と物好きが居てな、何か申し訳ない」
「別に、恥じる場面じゃないから」
スファーリアはむしろ見ろと言わんばかりの顔をしている。
「でまあ……その動画をカミホンを作った奴に渡した」
「なるほど、対価ね」
「てか縁、その神はその動画見てどうするんだよ」
「追加分を取りに行ったら、その動画みながら一人で焼肉パーティーしてた」
「んだよそれ」
「そいつは恋愛と物作りの神なんだ、鞄にこれでもかと追加分を入れられたよ」
「そんなに頼んだの?」
「『内容が素晴らしかったから持っていけ、追加分の対価はいらん』ってさ」
「ほほーう? つまり神が唸る程の告白をしたのか縁?」
ニヤニヤしながら2人を見るサンディ。
「ふふん、当たり前、この私の心に響いたんだから」
「見られて恥ずかしい告白はしていない」
「……お前らに茶化しは効かないか」
茶化しても自信満々な顔をされるだけだった。
「ああそうだ縁、お前に確認したい事があったんだ」
「なんだ?」
「神社が壊されたって本当か?」
「本当だ」
「仕返しはしないのか? お前らしくもない」
「絆が犯人を探している、今日連絡が来るはずだ」
「連絡待ちか、生徒達は帰したのか?」
「まだちょっと話すことがあってな、神について少し語ろうかなと」
「私も付いてっていいか? お前らが呼ばれたら私が生徒達の面倒みてやるよ」
「それはありがたい」
「縁君、いい時間だから行きましょうか」
「わかった」
3人は教室へと向かった。