第九話 演目 職員室で雑談

 縁はスファーリアに案内されて職員室までやって来た。

 職員室には誰も居ない、スファーリアは音楽関係の小物が置いてある机の前まで移動する。


「ここが戦闘科の職員室」

「誰も居ないな」

「今日は休みだし、それに基本的に職員室には居ない」

「そうなの?」

「うん、実習室にも職員室があって、こっちは行事の決め事とかにしか使わない」

「なるほど」

「ささ、私の隣の席に座って」

「ああ」


 縁は何も置いていない隣の席に座った。


「今更だが、スファーリアさん」

「何?」

「俺が先生でいいのか?」

「どうしたの?」

「いや、恥ずかしい話だが俺には学が無い、学校にもろくに行かなかったし、文字の読み書きも怪しい」

「私からすれば、それで? って感じ、座学も必要だけども、戦闘科の先生に必要なのは実戦経験」

「うーむ」

「だったら縁君が必要と思う事を勉強すればいい」

「いやまあ、そうなんだが」

「シーナ先生聞いてみれば?」

「サンディに?」

「私は先生になったシーナ先生しか知らないけど、縁君は色々と知ってるでしょ?」

「ああ、本当に先生になっているとは思わなかった」

「シーナ先生って昔はどんな感じだったの?」

「本人が居ない所で語っていいのだろうか?」

「『もう自部語りはしない、んなのうすら寒いだろ』って」

「なるほど、あいつらしい」


 縁はフッと笑った。


「まああいつが先生してるんなら、努力すれば大丈夫だな」

「で、シーナ先生の過去ってどうだったの?」

「俺とサンディが一緒に修行していたのは教えたっけ?」

「うん、ジャージを使う流派がどうのこうの」

「ああ、その時のサンディは殺意が駄々洩れのヤバい奴だった」

「何で?」

「体質らしい」

「体質?」

「先祖が殺意が溢れ出す呪いにかかったらしい、その呪いが長い時をへて体質になったとか」

「ほほう」

「個人差も有るらしいんだ、サンディの場合はその呪いの適性があったらしい、特に訓練しなくても発症しなかったんだ」

「へー、覚醒したのは?」

「学生時代に調子に乗ってる奴に、絡まれた時らしい」

「どんな風に?」

「ろくに知らねぇ同学年に、教室でカツアゲされ時にね」

「ええ? どんな流れよ、てか治安わるいねその学校」

「いやいや、一部の奴らって奴だ」

「どうなったの?」

「簡単に言うなら……小銭をせびられる、サンディが無視する、相手に髪を引っ張られ謝罪を要求される、混乱するサンディに捨て台詞を吐き、その場を去ろうとする、呪いが本格的に発症、だな」

「絶滅しなきゃ」

「まあまあ落ち着いて」


 ぶっ殺す勢いでトライアングルビーダーを取り出したスファーリア。

 なだめる縁を見て直にしまった。


「そいつらはグループらしかったんだが、髪引っ張った奴を後ろから襲撃して、これでもかと殺意を溢れ出しながら脅したらしい」

「覚醒したばかりで抑える術をしらないのね」

「ああ、いくら適性があってもな」

「その後はどうなったの?」

「これも簡単に言うと……相手の親や学校で色々とあったんだが、両親が守ってくれた、殺意をコントロールする修行をする、後に悪の組織に居るそいつらを全滅させる、その後に俺と出会った」

「簡単に言い過ぎじゃない?」

「人に歴史有り、語ると長くなるからな」

「あれ? ふと思ったけど、シーナ先生って色々と技や術を使ってるけど、その殺意の呪いのおかげ?」

「らしい、その事件の時に『同じ事をしてやる』って強く思ったら、真似事が得意になったとか」

「なるほど」

「ついたあだ名が『猿真似のサンディ』だな、誰が言いだしたか知らんが」

「え? シーナ先生の技って猿真似ってレベルじゃないよね?」

「はっはっは、そりゃ努力しているからな」


 スファーリアと縁の真横にサンディがいつの間にか立っていた。


「いつの間に」

「いやいやここ職員室だろ、んで何をしているんだ?」

「生徒達の反省会、休憩ついでに職員室を案内してました」

「……スファーリア先生、まさかとは思うが手を出してはいないよな?」

「絶滅する殺意は出した」

「おいおい大丈夫かよ」

「自分達のした事の罪悪感の方が強かった」

「何したんだよ」

「連絡も無しに死ぬ可能性がある事をした」

「あーなるほどな」

「そして私と縁君の時間を邪魔した」


 虚空を睨む様に凄い怖い顔をする。


「スファーリア先生そっちが本命だろ」

「うん」

「だから縁君が連絡手段を用意した」

「あ、そうだ」


 縁は鞄からカミホンが入った紙袋を取り出した。


「スファーリアさんとサンディにも渡しておこう」

「それなら石田さん達の分も預かっておく」

「わかった」


 追加分を自分の机に置く。


「ん? なんだこれ?」

「カミホン、俺が何時も使ってるやつ」

「あのスマホみたいなやつか、貰っていいのか? あたしは遠慮しないぜ?」

「縁君、これ料金とかどうなってるの?」

「確かに、どうなってんだ縁」

「……これを作った奴に米やらなんやら渡していたんだが」

「が?」

「タダでいいとさ」

「怪しい」

「対価は払ったというかなんというか」

「何を払ったの?」

「俺がスファーリアさんに告白した時の動画を渡した」

「え? 何で? てかあの場面を録画してる人が居たの?」

「神にも色々と物好きが居てな、何か申し訳ない」

「別に、恥じる場面じゃないから」


 スファーリアはむしろ見ろと言わんばかりの顔をしている。


「でまあ……その動画をカミホンを作った奴に渡した」

「なるほど、対価ね」

「てか縁、その神はその動画見てどうするんだよ」

「追加分を取りに行ったら、その動画みながら一人で焼肉パーティーしてた」

「んだよそれ」

「そいつは恋愛と物作りの神なんだ、鞄にこれでもかと追加分を入れられたよ」

「そんなに頼んだの?」

「『内容が素晴らしかったから持っていけ、追加分の対価はいらん』ってさ」

「ほほーう? つまり神が唸る程の告白をしたのか縁?」


 ニヤニヤしながら2人を見るサンディ。


「ふふん、当たり前、この私の心に響いたんだから」

「見られて恥ずかしい告白はしていない」

「……お前らに茶化しは効かないか」


 茶化しても自信満々な顔をされるだけだった。


「ああそうだ縁、お前に確認したい事があったんだ」

「なんだ?」

「神社が壊されたって本当か?」

「本当だ」

「仕返しはしないのか? お前らしくもない」

「絆が犯人を探している、今日連絡が来るはずだ」

「連絡待ちか、生徒達は帰したのか?」

「まだちょっと話すことがあってな、神について少し語ろうかなと」

「私も付いてっていいか? お前らが呼ばれたら私が生徒達の面倒みてやるよ」

「それはありがたい」

「縁君、いい時間だから行きましょうか」

「わかった」


 3人は教室へと向かった。