俺と美咲さんは、ショッピングモールの入口で共に待っていた。
「ごめーん。遅れた?」
「全然大丈夫だよ。まだ時間の前」
サングラスと黒のマスクをした日奈がやってくる。
「日奈それぎゃくに目立つぞ」
「うっそ~。私これでバレたことないから」
「確かにバレなさそうだけど...」
「でしょ~?」
日奈はふふっと笑う。まぁ本人が良さそうだし良いか。
「ごめん。遅れたか?」
続いて誠一が小走りでこちらに駆け寄ってくる。
「全然時間前だよ」
「あれ?そうか。俺遅刻するかと思ってダッシュで来たんだぜ」
「汗だらだらじゃない。タオル持ってるけど使う?」
「おっ、ありがとよ」
ピンクのタオルを受け取り、誠一が汗を拭きとっていく。
「それにしてもお前なんでそんな不審者みたいな恰好なんだよ」
「あーいけないこと言った!そのタオル返して!」
「いや返してもいいんだけど...これ汗でびしょびしょだぞ?」
「うっ...やっぱ洗ってから返して」
「分かってたけどそんな反応されると傷つくな」
誠一が露骨に落ち込む仕草を見せる。
分かるぞ誠一。俺も妹に同じ反応されたことあるからな。
「あれ?皆早いね。てっきり私が一番乗りだと思ってきたんだけど。私がみんな誘ったのに最後でごめんね」
普段と違う雰囲気の由美先輩がこちらに手を振りながら近づいてくる。
普段と違う雰囲気なのは、黒の丸眼鏡をかけているからだろうか。
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「うっ...うっ...うぅ」
「最後の展開は泣けたねぇ。次の小説の参考にしようかな」
「先輩いっつもそんなこと考えながら映画観てるんですか?」
「なんか先輩に教えられたら癖づいちゃってね」
日奈はつけていたサングラスも黒マスクも外し、サングラスの下に隠れていた目は真っ赤に腫れていて、ティッシュで鼻をかんでいる。
「私本当に...ああいうのに弱いのよ」
「私映画とかドラマで泣いたことないけど、ちょっとうるっとしっちゃった」
そう言う美咲さんの目も、少し腫れている。
「俺も泣きそうになったよ」
一番最初に俺たちはショッピングモール内の映画館に来ていた。
小説の参考になるかもしれない...というのは言い訳でただ単純に俺たちの投票で見たい奴を決めただけだ。
「日奈、俺にもティッシュ...うぅ...貸してくれ」
「良いわよ...ほら」
「ありがと...」
今見た映画は三票で見ることに決定したのだが、この映画に投票しなかった二人が一番泣いている。
まぁ映画なんて言う者は見てみないと分からないということだ。
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「絶対!絶対にもうちょっと左だって!」
「嘘つくな!絶対にここだから!」
日奈と誠一はUFOキャッチャーのレバーを二人でガチャガチャ動かしていた。
だんだんとアームが下がっていき、そしてアームは空中で空を切った。
「あんたが余計なことするから!」
「いやいやいやお前だろ!」
「これで六体目~」
そんな二人を尻目に由美先輩が楽々とぬいぐるみを獲得していく。
「由美先輩UFOキャッチャーくそ上手いですね」
「そうかなぁ」
「そうですよ。後ろの二人見てくださいよ」
「ふふっ、確かにそうかも...しょうがないなぁ」
由美先輩は後ろの二人に近づいていき、声をかける。
「よかったらぬいぐるみ...いる?」
「「あっ貰います!」」
「これ私にくれたんだからあんたのものじゃないわよ」
「いやいやいや俺にだって」
「ほらそこ喧嘩しないのぉ二人ともにあげるから」
「ほんとっすか!マジ天使由美先輩」
「マジ神様先輩」
二人はウキウキでぬいぐるみに抱き着く。
「残りの二人も居る...ってすご」
俺の後ろで美咲さんは、ぬいぐるみでぱんぱんの袋を五袋持っていた。
「全員、ぬいぐるみいりますか...?」
「一個だけ貰おうかな」
文芸部はかなり仲が良い方だよなぁと、しみじみ実感できた一日だった。