豪勢な料理が目の前に並ぶ。
昼食の時も思ったけれど、随分と寂しくなってしまった。
今更だけれど、先生たちはどこで食事を摂っているのだろうか。
……もしかして、僕たちはこんなに良いものを食べさせてもらってる代わりに、先生たちは控室のような場所で弁当だけ、なんてことにはなっていないよね……。
もしもそんなことになってしまったいたのなら、ごめんなさい……そして、ありがとうございます……。
「どうかした?」
「先生たちってどうしてるのかなって」
「ああ……たしかに」
桐吾も僕と同じ結論に至ったようで、キョロキョロと先生たちを探すも、若干気まずそうにしている。
「先生たちに対する尊敬の意を忘れないようにしよう」
「……そうだね」
僕たちはしんみりと顔を合わせて頷いた。
「じゃあみんな、食べ始めよう」
それぞれが手を合わせ、食事の時間が始まる。
食べ物を口に運びつつ、あちらの長机に視線を送った。
昼食時と角度が違うからなのか、それとも顔を合わせた後だからなのか、すぐに兄貴を発見。
今更だけど、兄貴の背中姿は特徴があるというわけではない。
髪型は少しツンツンしているぐらいで、特徴的なものはなく、雑喉がそこまで高いわけでもない。
あえてその中で捻り出すならば、あのガタイの良い骨格ぐらいか。
……そういえば、昼食時は長袖を着ている人が多かったからわからなかったのかな。
今半袖の兄貴の後ろ姿は、袖から出るムキムキな腕や脚を見れば一目瞭然。
まあ、知ってしまえばそんなものか。
あれ? そういえば光崎さんはが居ない?
と思っていたら、もはや光崎さんのお決まりになっている登場を遂げる。
ここからは遠いところにある入り口をバンッと開け放ち、光崎さんが飛び込んできた。
そのまま光崎さんは階段を駆け上がり登壇。
中央部まで行ったところで急停止。
「やあやあみんな! 美味しいご飯は堪能しているかぁ~?」
耳に手を当て、みんなの声を収音しようと体を乗り出している。
当然、誰も喚声を上げない。
と言いたいところだけど、なぜか結月だけはノリノリで「イエェーイッ」と拳を突き出している。
「うんうん、みんな元気そうで何よりだよっ。さてさてさて、ボクもお腹ペコペコだからもう用件を言っちゃうよー! そーれーはー、最終試験だぁー!」
僕は食べる手を止める。
前進に緊張が走った……というのに、結月は相変わらず合いの手で参加しているものだから、どうも緊張しきれない。
「もうここに居るみんななら薄々気づいていたと思うけれど、ズ・バ・リ対人戦だぁ!」
やっぱり、そうだよね。
たぶん光崎さんが言う通り、ここに居るみんな、上級生含んでわかっていたと思う。
あれ、今更だけど、光崎さんは試験内容を知っていてそれを隠していたのかな。
言いたくても言えないというのに、演技力が高いのだろうか。
「ちなみに、ボクは最終試験だけ決める権限がなかったんだ。だから、ついさっき、というか今の今まで知らなかったんだ。だから、これは先生方が決めたってことだね。ちなみに、ボクに権限があったのなら、最終試験は大食いにするつもりだったよっ!」
はい? それはさすがにハチャメチャすぎません?
そんでもって結月、「うおぉぉぉぉぉっ」とか雄叫びを上げて、それはそれでありだったみたいに反応するのやめて。
こんなところまで来て、あんなに大変な試験を乗り越えて最終試験が大食いって……絶対に無しでしょ。
でももしかしたら、その方が平等性があるのか……?
ダメだダメだ、結月があまりにもノリノリすぎて、試行が引っ張られてしまった。
もしもそんなことになったら、負けるに決まっ――あれ、案外……?
そんな思考回路が乗っ取られた感覚を味わっていると、光崎さんは話を続ける。
「じゃあ最後に、開始日時だよ。さすがにこの後はやらないし、朝食後にもやらない。昼食が終わって少しになったよ。そんでもって、試験終了したらそのまま超特急で学園に戻って表彰式って感じ。ちなみに、そんな感じだから昼食の時間は早まるから遅れないようにね~」
全てが超特急なスケジュールだ。
まあそもそも、この会場へ来た時もそんな感じだったし、今更疑問に思う方がおかしいか。
「それじゃあおしまいっ。ボクもご飯を食べるよ~!」
光崎さんはいつも通りに話をたたんで、階段を無視して飛び降りて自席へ駆け向かった。
僕はみんなの方へ視線を戻す。
「みんな、予想は的中した。幸か不幸かは置いておいて、細かい打ち合わせができる時間はかなりある。今から言うのもあれだけど、みんな焦らないように」
みんなはただ頷いてくれた。
「だからまあ、今は光崎さんみたいに目の前の食事を楽しもう」
僕の言葉にみんなの顔から緊張の色は消えた。
不安要素はいくらでもある。
相手の構成が未知数のまま対人戦を行うというのは、もうそれだけでリスクを伴う。
それに、全部ではなくてもあちらには光崎さんと兄貴が居る。
ということは、全部ではなくても僕の思考パターンを知られているということ。
加えて相手の方が一年も多く経験を積んでいる。
以前、どんな策を用意したとしてもこちらが不利というのは変わりない。
――だけど、大丈夫だ。
僕たちは勝つ。
不安があっても、心配はしていない。
僕は1人じゃない、みんながいるんだから――。