「まさか、こんな組み合わせになるなんてね」
魔車に乗り込み、一言目にそう零したのは門崎さん。
「一台の魔車に沢山乗れれば良かったんだけどね」
と返すのは叶。
「う、うん」
目線も体もソワソワしている一華。
計3人で、一台の魔車に乗っている。
――――――――しばらくの沈黙が流れてた後、門崎さんが口を開く。
「この前の試合、あなたたちのパーティに助けられたわ。本当にありがとう」
「まあ、あんな混戦状況だったらあれが最善策だったんじゃないかな」
「私もそう思う」
「だけど、あれは美咲が咄嗟に判断してああなったから、感謝を言うなら後でだね」
「……そうね」
叶は事務的に、淡々と話を続け、一華は、できるだけ目線を下げて目立たないように体を小さくしている。
そしてまた、短い沈黙の時間。
話の切り出しは再び門崎さん。
「私、2人にちゃんと謝ろうって。あの時から思ってたの」
「いいんじゃない。門崎さんは正しい判断だったと思うよ」
「……それでも。――ごめんなさい」
着席した状況ではあるけれど、門崎さんは深々と頭を下げる。
だけど、一華は止めに入った。
「やめてよ門崎さん!」
「いいえ、ちゃんと謝らせて」
「その謝罪は立派なものだけど、謝る気があるのなら、自分がしたことをしっかりと考えないと意味がないよ」
「叶ちゃんってば! ……門崎さん、大丈夫だよ。私は大丈夫。確かに、あの時は、いや。あの後から、意味がわかってショックだったよ」
「本当に、ごめんなさい」
尚も顔を上げず、門崎さんは誠意を示す。
「でもね、本当に大丈夫なの。私は、門崎さんに対して怒ってはないし、許してほしいっていうなら全然許すよ」
「一華あんたね。本当に理解したの? そんな簡単に許していいはずがない。私たちには用がないから、役に立たないからパーティを抜けてくれって、そう言われたんだよ。直接的な言葉ではなかったけど、正確にはそういう意味だったんだよ」
「返す言葉もないわ」
「うん、ちゃんと理解してるよ。それに、門崎さんはその言葉を向けたのは私だけで、叶ちゃんには言ってなかったってのも」
「……」
「私を気遣って、叶ちゃんも一緒にパーティを抜けてくれた。そうだよね」
「……そこまでわかっていて、なんで許せるの」
「ある人に背中を押され、ある人の背中を見た。それでね、考え方も気持ちもいろいろと変わったんだ。門崎さんはパーティのリーダーで、自分だけじゃなくてみんなのことも考えないといけない。そして、これからもっと上を目指さないといけない。自分の気持ちだけじゃなくて、みんなの気持ちを背負って。――じゃあ、最も上に行けるにはどうするかって考えたら、私みたいなのがメンバーに居たら可能性を下げることになってしまう」
「なんだかな……なんだか、その背中には少しだけ私も見覚えがあるかもしれない、な」
叶は大きなため息をする。
だけどその顔は先ほどの険しさはなく、呆れた、でも納得した優しい表情を受けべていた。
「ふふっ、叶ちゃんも見たことあったんだね。――でね、あれから私は変わった。変われたんだよ。一歩踏み出して、本当に変わったんだ。だから、だよ。だから顔を上げて、門崎さん」
その言葉に、ゆっくりと門崎さんは顔を上げた。
そして、互いに逸らし合っていた目線が重なる。
「……本当に、本当に変わったんだね」
門崎さんは、その真っ直ぐな目線を確認して言葉の意味を理解した。
「だからね、私も叶ちゃんも門崎さんも仲直り。……ダメ、かな?」
「まあ、私は一華がそういうなら別にいいんだけど」
「私からは反論なんてないわ」
「じゃあ、これにて今までのことは解決ってことで。そして、門崎さん」
「はい?」
「これからは敵として、よろしくね」
「――言ってくれるわね。こちらこそ、負けるつもりはないから」
「あーあー、なんだか私は蚊帳の外なきーぶーんー」
珍しく、叶がふざける。
「叶って、そんなことも言うんだね」
「叶ちゃんがおかしくなっちゃったー!」
3人の楽し気な笑い声が車内に響く。
「今のこの状況が全てを物語っているとも言えるけど、あの時の一華は見違える用だったというか、気迫が凄かったのを憶えているわ」
「私も同じパーティだけど、凄くビックリした。心配で、動悸が凄いことになってたけどね」
「あら? てっきり、あれは打ち合わせていたようなものかと」
「ううん、それが全然」
「ほほう、それはまた独断で大胆なことをしたのね」
「そうそう、別人かと思ったよ」
急に意気投合し始めるものだから、一華はキョトンとしてしまう。
「私も、一華の行動を観てこう思ったんだ。誰よりも男勝りな子だなって」
「もーう、2人ともーっ!」
ぷくーっと頬を膨らませる一華を観て、2人は揃って肩を小刻みに揺らしながら笑った。
それは既に、壁は取っ払われたかのように。
「それにしても、そっちのパーティに居る指揮官はかなり機転が利くし思い切りも良いわね。――月森さんったかしら? 私もリーダーとして見習わなきゃって思ってるのよ」
「ん? ああ、そうだよね。でも美咲はあれで始めたてなんだよ」
「え?」
「そうなんだよ。それに美咲ちゃんは、あの時は即席指揮官だったんだよ」
「え? ど、どういうことなの……? あれ、そういえば」
「そうそう。実はね、私たちはあの段階では7人だったんだよ」
「そして、最後に駆け付けてきた人がリーダーってこと」
「なにそれ……」
門崎さんは盛大なため息と共に肩を落す。
「正直、もう何が何だかわからないわ」
「ぶっちゃけ、私もそう思う」
「え? 叶ちゃんは同じパーティだよね?」
「でもさ、私たちは後から入った身だけど、みんな変わり始めてるよね」
「だね」
「何があなたたちをそこまで突き動かしてるの? まさか、本気で夏休みの延長を狙ってるとか? それとも、職場体験という名の新境地を目指して?」
それを聞いて、一華と叶は目線を合わせる。
「まあ、その理由だけはわかってるよね」
「だねっ」
にひひと笑う2人を見て、門崎さんは首を傾げた。
「その様子だと教えてくれなさそうね」
「「まあね」」
「でもね、たぶんだけど。門崎さんもいずれはどこかでわかるかもよ?」
「なにそれ、一体いつなのよ」
「遠い先かもしれないし、近い先かもしれないね」
「はぁ……少しだけ困るのは、以前の一華より断然お口が動くようになったことね」
「あ、それわかる」
「もーっ!」
仲睦まじい、穏やかな時間がこれから少しだけ続いた。