廊下に出ると、光崎さんが壁に寄りかかっていた。
「お、志信くんお疲れ様。楽しめたかな?」
「はい。貴重な時間を経験させていただきました」
「まあ、緊張で胸がドッキドキだっただろうけどね~」
「そうですね。手汗びちょびちょでしたよ」
圧倒的緊張感から解放された。
本来であれば、目上でありこの学園の生徒会長相手に対しても、同じく緊張感を持たないといけないのだけれどなぜか緩んでしまう。
失礼だとはわかっていても、今は気を緩めて話したいというのが正直な意見だ。
肩を落して息を整えようとした時、下がった目線で光崎さんの手荷物一枚の紙が目に入った。
「その紙は?」
「あーあー、そうだったそうだった。えっとね、このまま教室に戻ってもらって大丈夫……って言いたいところなんだけど、これ見てくれる?」
「……はい?」
手渡された一枚の紙。
――――――――――
特別試験の実施!
対象者
現時点においてパーティ編成が完了している人。
実施場所
第一演習場、第二演習場
実施内容
現地にて伝達
実施日時
本日、午後の部
がんばろーな!
――――――――――
と、記されている。
誰が制作したかは一目瞭然。
だけど、これはあまりにも急すぎる。
本当にこの内容に承諾が得られるのかは疑問だけど、それが通ってしまうのがこの学事祭。
「ええ、これ、横暴すぎません?」
「いいや? ボ・クは生徒会長だからねっ。問題なしなーし!」
「は……はぁ」
抜けた声しか出ない。
「これを渡してくれたってことは、実施内容を聞いても?」
「いいや、それはダメだね。今回の特別試験は、対策を講じさせず突発的状況にどう対応するかを見定めるものでもあるから」
「なるほど……納得はしたくないのですが、理解はできますね」
「話が速くて助っすかる~! じゃあじゃあ、早速移動しちゃおっか。ああ、そうそう。お腹減ってるでしょー? これとこれ、食べちゃって」
光崎さんはポケットから保存食を二個渡してくれた。
それには見覚えがある。
家の地下に常設してあるやつと同じで、食べるのに抵抗がない。
パサパサしてなく食べやすいから助かる。
と、思う反面、弁当を残すことへの罪悪感と守結の悲しむ顔が容易に浮かんでしまうのが少しだけ心苦しい。
でも、こればかりは仕方がない。
「じゃあ歩きながら食べちゃっていいから、いこいこー」
「はい、わかりました」
「その紙、もう見ることないだろうし折り畳んでポケットにしまっちゃってー」
たしかに、これを持ったままでは食べにくい。
光崎さんの言った通り、数回折り畳んでポケットにしまうことにした。
歩き始めるも、ふとあることに気づく。
「あれ、特別試験って午後の部の授業から開始ですよね。もう移動するんですか?」
「あー、そうそう。ちょっとわけありでねー」
「そうなんですか。……あれ? でも、この道ってどちらの演習場からも逆方向ですよね?」
「あー、細かいことは気にしない気にしない。何も考えずについてきてー」
詳しい説明をしてほしいというのが本音。
でも、この紙にも書かれているし、さっきの説明でもあった通り詳細を聞くのは野暮というものかもしれない。
ここは素直についていくのが正解みたいだ。