立ち上がろうとした時だった。
「最後に訊いてもいいかな」
そういう上木さんの表情は、とても真剣な表情を見せている。
「はい、大丈夫です」
「俺が一学生である君に質問する内容ではないと思うのだけど。君にとって譲れないものはあるかい?」
「どういうことでしょうか……? ごめんなさい、少しだけ例などを挙げてもらえたりしますか?」
純粋な疑問だった。
そして同時に、理由はわからないけど軽い憶測で答えていいようなことではないと思える。
「俺達は、一人一人の信念は必ず持っている。だが、それと同時にクランの方針や志も掲げているんだ。個人的に言ったら、誰一人欠けることなく頂を目指す。クラン方針で言えば、常に挑み、冒険する。だ。これを踏まえて、何かあるかい?」
「――あります。仲間を信じ、自分の志を信じる。です」
「仲間を信じる、か。良いじゃないか、立派だ。君の志とはなんだい?」
「上木さんのような人になりたい。
「ああそうか、なるほどな。名前通りで良いじゃないか。――直球ですまないが、俺は君に興味が湧きすぎた。できるなら今すぐにでも勧誘をしたい。が、それは叶わない。俺は待っているぞ。君がこちらに辿り着くのを」
「……はい!」
これ以上の嬉しいことがあっただろうか。
自分が尊敬し、目標の人物としていた人からこのような言葉を貰って嬉しくないわけがない。
できることなら今すぐにでもガッツポーズをとりたい。
パーティのみんなに言ってしまいたい。
浮足立ってスキップをし始めてしまうかもしれない。
他人からの目線なんてどうだっていい。
本当に嬉しい。嬉しいんだ。
喜びを露にしたいところだけど、上木さんの目線は少し上――時計にいっていた。
「もっと時間が欲しい所だったけど、時間みたいだね。ご飯もまだ食べられていないだろ?」
「はい、まだです」
「今は志信君の立場は学生。学生の本分は勉学、交友などなど。そこら辺のことは弁えているつもりだ」
「……そうですね。では、教室に戻ろうと思います。本日は本当にありがとうございました!」
「いやいや、頭を下げないでくれ。俺も楽しい時間を過ごせて満足しているんだ」
「では、失礼します」
体を返そうとした時だった。
「ああ、何度も引き止めてすまない。少しだけ警告をさせてくれ」
「警告ですか?」
「ああ、たぶん、あまりよくないことだと思う。仕掛け人は源藤宰治、ギルド総括理事長」
「な、なんでそんなことが?」
「いや、俺も詳しくはわからない。だが、現在開催されている学事祭、今後の展開に注意を払っておいた方がいい。なんせ、光崎君といったか? 生徒会長の子も面白さに釣られて賛同していたようだからな」
「なるほど……わかりました。今日の放課後にでもパーティのみんなに事の経緯は明かさずに伝えてみようと思います」
「そうしてくれ。早急に伝達した方がいい」
「では、これにて失礼します」
僕は浮足立ちそうな気持をグッと堪え、冷静に立ち振る舞い部屋を後にした。