第19話ー媚薬に蝕まれた夜ー

部屋を出てしばらくして、息を切らして倒れかかる。媚薬が体中を巡っている。今この状態で誰かに出くわすのはマズい。理性が働いているうちに、最低でも馬車までは戻らないと。体中が熱くなる。息を切らして、とにかく馬車まで、そう思った時だった。


「テオ!」


背後から呼ばれて俺の体が反応する。息を切らして振り向くとそこにはジルが居た。ジルが俺に駆け寄って来て壁に寄りかかっている俺を支える。


「ジル、何でここに…」


ジルは俺を支え言う。


「マドラス卿にお願いしました。何とか潜り込めるように取り計らってもらったのです。」


俺を支えるジルを良く見れば、あられも無い格好をしている。


「何て格好を…」


息を切らしてそう言う俺にジルは顔を赤くして言う。


「目立たないようにするにはこうするしか無かったのです。」


頭がクラクラする。体中が熱くて欲望に抗えなくなる。


「俺は媚薬を盛られている、だから、俺から離れろ。」


ジルを突き放そうとする。ジルは俺を支え言う。


「こんな状態のテオを放ってはおけません。」


そう言われて笑う。確かにそうだなと思う。


「どうすれば良いですか?」


聞かれて俺は言う。


「媚薬が効き目を無くすには、身体を交えるのが一番早い…」


ジルがそれを聞いて頬を染める。


「でも俺はこんな状態でジルを抱きたくない。媚薬に支配されてしまえば、理性を失って、欲望のままに、その欲望が尽きるまで求めてしまう…」


心臓がドキドキして、息が上がる。


「頼む…俺の理性が働いているうちに、」


そう言いかけた時、ジルが俺に口付けて来た。頭ではダメだと分かっているのに身体が言う事を聞かず、ジルを抱き締めて激しく口付ける。舌を絡ませてしまうともう止められなかった。それでも俺はそれに抗う。唇を無理やり引き剥がして言う。


「ダメだ、ジル…」


ジルが俺に頬を寄せる。


「ダメな事は何もありません、私はテオのもの、貴方が私をどう扱おうとそれは貴方が決めること。そして今宵の事は全て媚薬のせいにしてしまえば良いのです…」


ジルが俺を見上げる。その顔は紅潮していた。軽く息を切らし始めている。俺と口付けたからジルにも媚薬が移ったのだと分かる。俺は辺りを見回す。よろけながらジルを連れて少し歩いた先の扉を開ける。思った通り、そこは休憩室で、ベッドが置いてあった。中に入り扉を閉め鍵をかける。


「良いのか?」


聞くとジルが言う。


「体が熱いんです…頭が痺れて、もう何も…」


そう言うジルを見て、思う。あぁ、ダメだ。


「すまん、もう理性が…飛ぶ…」


目の前の愛している人に口付けながらベッドに押し倒す。ジルは娼婦のような格好をしている。まるで下着姿だ。柔らかいヴェールに包まれている豊かな乳房に触れながら硬くなっている先端を指で嬲る。唇を離してヴェールを下げて露わになった乳房に吸い付く。かろうじてスカートと呼べるものがあるタイプの装いである事にどこかで安心している自分がいた。スカートの中に手を入れ足の間に指を埋める。そこはもう既に濡れていて熱くてなっている。そこに触れただけ頭の芯が痺れて、そこに自分のそれを押し込む事しか考えられなくなる。自分のパンツを下ろして猛り狂っているそれを押し込む。中が異常な程に熱い。


「あぁ、熱い…」


押し込んで押し付けて言う。ジルはガクガクと身体を震わせて俺にしがみつく。


「もう…ダメ…イッ…」


途端にジルの身体がガクンと跳ねて脱力する。達したのだ。挿れられただけで。ビクビクと身体を震わせているジルを見ると止められない。


「すまん、ジル、もう無理だ…」


そう言ってガンガン突き上げる。強烈な快感に蝕まれていく。


「あぁ、ジル…愛してる…愛してる…俺の、ジル…」


ガンガン突き上げながら熱に浮かされたように呟く。媚薬に飲まれていく。貪るように口付けて昇り詰めて行く。唇を離してジルを抱き締め、突き上げながらジルの耳元に顔を埋める。


「あぁ、ジル…出すぞ…ジルの中に…!」


ジルは俺にしがみついて言う。


「あっ、出して…テオ…テオの、欲しいの…熱いの、出して…!」


ジルの言う卑猥な言葉を聞いて、背筋がゾクゾクする。


「あぁっ!…イクッ…!」


ジルの一番奥にそれを押し付ける。熱い飛沫が噴き出す。


「あぁっ…熱い…テオの…」


ジルは呟くようにそう言うと身体を仰け反らせる。ビクンと身体が跳ねてビクビクと甘く痙攣する。キュウキュウと俺を締め付けて、まるでおねだりをするように中が甘く痙攣している。息を切らしてジルに口付ける。舌が絡み合い、頭の芯が痺れる。媚薬の効果が切れていてもおかしくないのに、俺のそれは萎える事は無い。



何度、身体を重ねただろうか。何度達しただろうか。どれくらいの時間が経っただろうか。強力な媚薬とは言っていたが、これ程とは。峠を越えたのか、やっと身体の熱さから解放される。辺りを見回す。良かった、水がある。俺は立ち上がり水を飲む。グラスに注いでジルの元へ持って行く。


「ジル、水だ。」


言うとジルがヨロヨロと体を起こす。グラスを渡しジルを支える。グラスの水を飲み干すとジルが俺に寄り掛かる。


「大丈夫かい?」


聞きながらジルの肩を撫でる。


「帰りたいです…」


そう言われて俺は頷く。


「そうだな、帰ろう。」



身支度を整える。ジルのあられもない格好を改めて見る。何て破廉恥な…そう思うと共にどこかでまた見たいと思ってしまっている自分が居た。マントでジルを覆い、抱き上げる。ジルは俺の首に手を回して俺に寄り掛かる。部屋を出て歩き出す。どうやらまだ仮面舞踏会は続いているようだった。長い廊下を歩く。


「テオ様!」


呼び止められて足を止める。この声はあの女狐だ。振り返るとマクミラン嬢が息を切らして俺を見ている。


「帰ったのでは無かったんですね…」


そう言いながら、俺の抱えているジルを見ると、顔色が変わる。


「何で!その女が居るのよ!」


マクミラン嬢の瞳からポロポロと涙が零れる。マクミラン嬢はヨロヨロとこっちへ近付いて来る。


「何で…私じゃ、ダメなの…」


泣きながらそう言うマクミラン嬢を見ても何とも思わなかった。それどころか嫌悪すら感じている。汚い、醜い、そう思った。マクミラン嬢が手を伸ばして来る。


「触れるな!!」


ブワッと圧縮された空気が押し出され、マクミラン嬢が気圧され倒れ込む。


「その汚い手で俺や俺の妻に触れるな。」


圧縮された空気が俺を包む。マクミラン嬢を見下ろして嘲笑うように言う。


「媚薬の効果は覿面だったよ。だが誰でも良い訳では無い。俺の相手はジルだけだ。」


マクミラン嬢は見えない壁に阻まれているかのように俺に近づく事も出来ないでいる。


「悪いが失礼するよ、もう二度と会う事も無いだろう。今夜の事、努努忘れるなよ。」


そう言い捨てて俺は歩き出す。



馬車にはマドラスが居た。


「殿下!ご無事で!」


マドラスは馬車の扉を開ける。


「奥様は大丈夫なんですか?」


マドラスに聞かれ苦笑いする。


「あぁ、大丈夫だ…ちょっとトラブルがあってな。」


俺の苦笑いを見てマドラスも何か察したようだった。


「屋敷へ。」


マドラスが扉を閉める。



馬車に揺られながらジルを抱き締める。ジルは俺に抱き着いたまま言う。


「テオ…愛してます…」


俺はそんなジルを抱き締めて言う。


「俺も愛してるよ、ジル。」


ジルが薄目を開けて聞く。


「先程のあれは何です?」


そう聞かれて何の事か分からず聞く。


「あれとは?」


ジルが俺を見上げる。


「マクミラン嬢に放ったあれです。」


そう言われて笑う。


「あぁ、あれか。」


ジルの頭を撫でる。


「あれは、何と言うか、威圧とでも言うのか。」


ジルは俺に頭を預けて聞く。


「威圧…?」


ジルが聞き返す。


「そうだ。普段は使わない。戦場では何度か使ったな。」


遠い戦いの記憶が蘇る。


「戦いの経験が少ない者や経験の無い者はあの威圧に気圧されて近づく事も出来なくなる。」


ジルが少し笑う。


「凄かったです、あの圧縮された空気の中に居て、とても温かくて、守られているのだと実感したんです。」


そう言われて笑う。


「そうか。」


ジルを包んでいたマントの端がスルッと落ちる。ジルの破廉恥な格好が視界に入る。マントを戻す。


「テオ。」


呼ばれてジルを見る。


「ん?」


聞くとジルは恥ずかしそうに聞く。


「この格好、どうですか?」


そんな事を聞かれるとは思っていなくて、ドキッとする。


「すごく綺麗だよ、見た瞬間に襲いかからなかった俺を褒めて欲しいくらいだ。」


ジルが俺を見上げる。


「好きですか?こういう格好…」


頬を染めてそう聞くジルが堪らなく可愛い。


「ジルはどんな格好をしていても可愛いよ、まぁでも普段とは違って、こんな格好をされると煽られるがな。」


ジルが俺の頬に口付けながら囁くように言う。


「ならたくさん着ないと。」


顔をジルに向けて口付ける。マントの中へ手を入れ、乳房を揉む。


「ん…」


口付けながらジルが声を漏らす。


「あまり煽るな、屋敷まで我慢出来なくなる。」