「いってて……」
二人の身体を伝い足元まで広がってしまっていた泡に滑り、思わず前のめりになってこけた。
むにゅ……もにゅんっ。
「なんだ、こ……れっ!?」
そして己が手のひらの中に触れている物に瞬時に気づき、戦慄する。
ここでよくある鈍感ラブコメ主人公とかなら多分それを何度か揉み、しばらく感触を確かめた上でようやく気づくのだろうが。この状況下なら見なくても分かる。
俺は今、由那の────
「ごめ、これは違くて! わざとじゃなくて!!」
「う、あぅ……あうぅ!!」
咄嗟に手をどけて謝罪するが既に手遅れ。
俺に押し倒されるようにして床に背中をついていた彼女は俺の目を見て、小さな悲鳴のような声を漏らす。
何度も何度も押し当てられてきた。しかし、こうやって手のひらで触れたのはいくら水着越しであったとしても初めてだ。まるでスクイーズのように柔らかく指を包み込んできて、その上圧倒的なボリューム感で手のひらに収まりきらない。そんな、魅力的な果実には。
「さ、触られ……ちゃった。ゆーしに私のお、おおっぱ……っ!」
「不可抗力だ!! 俺はほら、お前があまりに調子に乗るもんだから一回引き剥がそうと思って!!」
しゅうぅぅぅ、と頭から湯気を出し沸騰してしまった由那は、顔を真っ赤にしたまま動かない。
そうだ。コイツは甘えんぼでいつもいつも構ってもらおうと誘ってくるけれど、いざ言い寄られると弱くて何もできなくなる奴なのに。そんな、頭で理解の追いつかないレベルのことをされたら……オーバーヒートするに決まってる。
「ゆーしの……えっち」
「〜〜〜っ!!」
な、なんという破壊力。
胸を触られ、耳まで真っ赤にして恥ずかしながら。必死に絞り出した言葉が、これか。
あわあわまみれで俺に押し倒されている彼女さんのせめてもの抵抗な一言。それに胸を撃ち抜かれると、たちまち身体の芯が熱くなっていく。
「やっぱりズルい、よ。そうやって私のこと、またドキドキさせるんだ……」
「え? お、怒ってない、のか?」
「……うん。けどやっぱり、ちょっとびっくりしちゃった」
てっきり反抗できないなりにも、怒りの側面は見せてくると思ったのだが。それどころか若干とろんとし始めた瞳はさっきまで目線を逸らしていた俺の目を見て、何かを訴えかけてくるかのよう。
「えへへ、どうしよ。胸の奥がどっくんどっくんって。すっごく熱くなっちゃってる。オオカミゆーしにトキめいちゃったのかな」
「お、狼て。ってごめん。いつまでこうしてるんだ俺。すぐ退くから」
「……うん。よかったぁ、えっちなオオカミさんに食べられるかと思っちゃった」
「う゛っ。ま、マジでごめんな」
「いいよぉ。でもゆーし? 私をここまでドキドキさせたんだから責任……とってくれるよね?」
「へっ!? せ、責任!?」
責任をとる。由那のたわわに触れてしまった直後だと正直″そういう意味″に聞こえてならない。
いや、本当にその意味合いで言っているのか? でも俺たちは、まだ大人のキスすらした事がなくて……
「ドキドキで身体、ぽかぽかになっちゃったもん。だから沈めるためにいっぱいイチャイチャ、シて?」
「イチャイチャ……というのは」
「ふふっ、残念。えっちなことじゃないよ〜だ。湯船でいっぱいぎゅっして欲しいにゃぁ。あとキスも追加で!」
な、なんだ。焦らせやがって。
やっぱりいつも通りの由那か。そうだよな、いきなり段階をすっ飛ばしてなんて。いやまあ不可抗力とはいえ一時的に超えてしまったのは俺の方だけども。
「分かった、任せろ。あと背中ゴシゴシしてもらったお礼に、俺もするよ」
「ほんと!? えっへへ、やったあ〜」
よかった。本当によかった。いきなりの選択を迫られなくて。……気まずい雰囲気にならなくて。