「ひなぢゃぁぁぁぁん!! 勉強教えてくれぇぇぇ!!!!」
時は遡り、数時間前。
由那ちゃんのいる手前見栄を張り、堂々とした姿で職員室を出た私だったが。その足ですぐに図書館へ向かうと、一人静かに本を読んでいたひなちゃんに泣きついていた。
いやだって、全教科赤点取った女だぞ、私は。
何が見ててくれだ。いくらなんでも無理に決まってる。前のテスト範囲だってロクに勉強せず当日の朝勉で適当に流した私が、いきなり全教科赤点回避なんて。
「か、かか薫さん!? とりあえず、とりあえず落ち着いてくだしゃひっ!? みんなに見られちゃってますぅ!!」
「びえぇ。もう私にはひなちゃんしかいないんだよぉ。捨てないでくれぇぇ!!」
「捨てないです! 捨てませんからっ!!」
ここが図書館であり、静かに過ごす場所であるということをすっかり失念していた私は。周りからの視線とひなちゃんの宥めでなんとか平静を取り戻す。
そして、さっさと荷物をまとめたひなちゃんと一度図書館を出てから。改めて、一年三組の教室で話をすることにしたのだった。
「……なるほど。あ、赤点だと補修、ですか……」
「そーなんだよ! それで、その……クラスでも指折りの頭脳をお持ちのひなちゃんに助力をお願いしたく!!」
この間の中間テスト。クラス順位では渡辺君が一位、ひなちゃんは四位だった。
じゃあなんで渡辺君に頼まないのかって? そんなの、決まってるだろ……。
「渡辺君と有美は、ほら。テスト期間毎日お互いの家で勉強してるからさ。いくら親友ポジの私とはいえ邪魔をするのはどうかと思うんだよ……。神沢君も真ん中よりは上だったらしいし、頼りにしたいところなんだけどさ。そっちもそっちで、な」
一人で勉強するという選択肢は、頭になかった。
昔から一夜漬けタイプの私はそこで学んだことをすぐに忘れてしまう。それに加えて前回の中間テストはそれすらしていないのだ。もう分からないところが多すぎて手のつけようが無い。
「お願いひなちゃん! お礼は私にできることなら何でも! 何ッでもするから!! どうかこの通りッッ!!」
「へっ!? にゃ、なんでも……ですか!?」
「も、勿論だ! 私に二言はない!!」
あれ、思ったよりも食いつきがいい。
絶対嫌がられると思っていたんだけどな。ひなちゃんは分かりやすいくらい真面目なタイプだし、私みたいなのにこんな絡まれ方、ウザいだろうなと。まあそう思っていても頼まなければいけないくらいせっぱ詰まった状況だったわけだが。
「か、薫しゃんと、なんでも……」
ひなちゃんの目の色が変わっていく。私にできることなら、と念を押していたから流石に金銭の要求とかは無いと思うけれど、どうやら何かしら私にお願いしたいことがあるようだ。
「分かり、ました。私でよければ、お手伝いさせてください。薫さんに補修なんて、絶対させません!」
「うおぉぉぉぉ!! 神よ! ひなちゃん神!! ありがとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
まだ私にもツキは残っていたらしい。
ひなちゃんという最強のカードを手に。いざ、逆襲だ。