第176話 突然の呼び出し

「ふっふっふ、眼福眼福。美少女どもが揃って夏服たぁ、高校最高だなオイ」


「……あのさぁ。その台詞、とても女の子が言ってるようには聞こえないんだけど? というかアンタも夏服でしょうが」


「あ、おはよ〜、有美ちゃん、渡辺君、薫ちゃんにひなちゃんも!」


 教室に行くと、いつものようにつるんでいる三人。そこに蘭原さんを加えて談笑していたようだ。


 蘭原さん、思っていたよりも早く溶け込んだな。いや、懐に忍び込んだという方が正しいのか……? 外堀から徐々に埋めていく的な。


「お〜、ここにも夏服美少女が一人! くはは、くはははッ!! 夏最高!! 夏最高!! お前も夏最高と叫びなさい!!!」


「あ〜あ、壊れちゃった……」


「はは、在原さんは割とこれが平常運転じゃない?」


「まぁ……ね。ほんと昔からブレないわコイツ」


 よく分からない文言を言い放ちながら「いぇい、いえいっ♪」と謎リズムを刻む彼女の姿を見ながら、中田さんはため息を吐く。


 そういえば二人は……というか寛司もいれれば三人か。この三人は全員出身中学が同じだ。つまり、その頃から在原さんとは今のような付き合いがあるということ。さぞかし振り回され続けたんだろうな。多少慣れたであろう今だってたまにそういう節はあるし。


「へへっ、今日は良いことばっかりだぜ。ほら見ろ有美、朝からガチャ引いたらSSRの環境最強キャラが出たんだ! こりゃあ、薫様の時代が来たかもなあ!!」


「か、薫しゃまの時代……ゴクリッ♡」


「アンタねえ、とうとうソシャゲにまで手を出し始めたの? 家でもSmitchばっかりしてるくせに。目、悪くなるよ?」


「へっ、安心しな。私は既にコンタクト愛用者さっ☆」


「自慢できることじゃないでしょ、ばか」


 なんだか今日の在原さんはいつもよりもノリノリだ。


 ガチャのSSRというのも、おそらく凄いことなのだろう。あまりソシャゲはやらないので価値は計りかねるが、そのレア度が高いことくらいは分かる。


 多分今日はこの人、一日この調子なんだろうな、なんて思いつつ。先に荷物を置いて腰掛ける。


 まあ賑やかなのは嫌いじゃない。静かに過ごすのは由那と二人きりの時だけでいいしな。


「ふふっ、有美ぃ。お前もソシャゲ沼に嵌まらないか? ガチャの快感を一度知ると忘れられなくな────」


「あ〜い、お前らぁ、席つけぇ。朝のホームルーム始めるぞオラァ〜」


 と、そこで予鈴が鳴ると同時に湯原先生が教室に入ってくると、教壇に立つ。


 気づけばあっという間にホームルームの時間か。


「え〜、今日から期末テスト一週間前だ。赤点取った教科は夏休み補修あるから、各自まじめに取り組むように。……で、だ。江口、在原。お前ら二人は放課後職員室に来い」


「「へっ!?」」


「以上、ホームルーム終わり。じゃ、私は一限別の教室であるから。他のクラスまだホームルーム中だろうし、あんまり騒ぐなよ。じゃあな」


「あ、ちょっ……」


 さっきまで笑顔満点だった在原さんの顔が、後ろの席から見ても分かるほどに悪くなっていく。あとついでに、隣の由那も。


「わ、私何かした!? 怒られるのぉ!?」


「あ〜、まあ……話の流れで内容はなんとなく分かるけどな。大丈夫、置いて帰りはしないから、ゆっくり怒られてきてくれ」


「ひいぃん……」


 まあ先生の抑揚なしでいきなり呼び出し宣告してくるあの感じは怖かったから、少し怯えてしまう気持ちは分からんでもないが。




 ……多分、大丈夫だろ。多分。