第168話 王様ゲーム1

 王様ゲーム。それはこういった宴会の場で古来から使われているパーティーゲームだ。


 用意するものは人数分の割り箸だけ。ルールは至ってシンプルで、各割り箸には番号と王様、今回の本数ならば一から五の数字が書かれたものと一歩だけ王様と書かれた割り箸があり、各々が一本ずつ割り箸を引いて書かれていたものを確認する。


 あとは王様が「◯番と◯番が〜をする」といったような命令を出し、該当する番号を引き当てた人はそれに沿った行動を取らなければならないのだ。


 ここで重要なのは、″王様の命令は絶対″ということ。命令の内容は自由だから、仮に加減のできない命令を出すような人が王様になってしまえば、残りの奴らは大きな被害となってしまう。


 勿論、行き過ぎた命令をすれば王様は人として嫌われるし。多分遂行側が断ってその場の空気は凍るだろう。


 つまり、だ。このゲームは単純なようで奥が深い。特に王様は″嫌われない程度に自分のやらせたいことを命令する″という非常に匙加減の難しいものとなっているのだ。


「えぇ……。なんか薫が王様になったらとんでも無い命令しそうだから嫌なんだけど……」


「ちょっ、始まる前からその感じなのか!? やってみなきゃ分からないだろうよい!!」


「俺はやってみたいな。なんか面白そうだし」


「寛司!? ほ、ほんとにやるの!?」


「まあここにいる人ならそんなにめちゃくちゃなことはしないだろうって思うしね。有美はここにいるみんなのこと、信用できない?」


「う゛っ。そ、その聞き方はズルい……」


「はいは〜い、私もやりたい! ゆーしに拒否権のない命令してみた〜い!!」


「お、おい。お前は何するつもりなんだ……」


「うっし、まあとにかくやってみようぜ。嫌なら途中で抜ければいい。ここは途中退場オーケーなアットホーム会場だからな!!」


「め、命令……薫さんに、命令……してもらえるっ♡」


 と、いうわけで。初めは少し抵抗のありそうだった中田さんも、寛司の言葉で折れた。俺も由那の発言が怖いもののこのゲームでは名指しの命令というものができないため、該当の番号さえ引かなければ問題ない。とりあえずやってみるかというノリで、了承した。


「そんじゃあ習うより慣れろ、だ。みんなある程度ルールは知ってると思うし、ひとまず始めようぜ!」


 割り箸が差し出される。


 在原さん以外の五人はそれぞれ割り箸を持つと、彼女の掛け声を待ち。それと同時に、一気に引き抜く。


「王様だ〜れだ!」


 まずは番号確認。俺はどうやら王様ではなかったらしく、書かれていたのは五番。隣で落胆している様子を見ると、由那も王様ではないらしい。


「くっふふ。天は私に味方したようだな」


「げっ……」


 バンッ、と割り箸を掲げて王様宣言をしたのは、在原さんだった。


 一発目からか、とは思うものの。まあ最初だし。いきなりそんなにどぎつい命令は出してこないだろう。


 だが、そんな俺の考えは、彼女のニヤリとした表情で間違いだったと気付かされる。


 彼女はもう……俺たちにとって一番キツい命令を、考えついてしまっていたのだ。


「じゃ〜あ、一から五番の全員はぁ。私が終わりって言うまで王様ゲームに参加し続けること!!」


「「「「「へっ……」」」」」


 一度でも。たった一度でも在原さんに王様権限が渡ってしまった時点で。





 俺たちの敗北は、決まっていたのである。