「ん、ぁ……」
甘い、吐息のようなとろけ声が、彼女の口から小さく漏れる。
一回、二回、三回。セーターの生地越しに、摩る。
────由那の、お腹を。
「お腹すりすり、好き……かも」
「そ、そうか? ならよかった……」
くそぅ。寸前で日和ってしまった。
違うんだ。本当に触ろうとしていたのはそこじゃなかった。本当はもう少し上の、大きく膨らんだものに触れるはずだったのだ。
だけど、寸前で。俺の右手は本能的にその行為を避けて、お腹に逃げてしまった。
積極的にしろ、と言われていたのにな。結局意気地なしだった。そう簡単には……変われない。
(いや……違うだろ。まだ、終わってない)
由那の胸を触る。それは今の俺にはあまりにハードルの高い行為で。もう少し、時間をかけたい。
でもこれじゃ、積極的とは程遠い。セーターの上からお腹を撫でてあげるなんて、もはや直で頬に触れるよりも積極度で言えば下とすら取れる消極的な行為。
それじゃ、ダメだ。それだけじゃダメだ。せめて、一番最後まで行けないなら。俺の行ける範囲がここまでだとしたら。
由那と長く一緒にいるためには、積極的でなければならない。由那が与えてくれる愛よりもっと上のものを伝えて、伝え続ける。それは現状維持ではなく、今の俺より少し先に行かなければ到達できない目標だ。
なら────
「へっ!? ゆーし、ひゃんっ!?」
「じっとしてろ。もっと気持ち良くするからな……」
セーターのボタンを、外していく。長袖ワイシャツの上から羽織り下の方の三つのボタンだけで止めているそれのボタンを全て外して、そっと開いて。
スカートにインしていたワイシャツの裾を、外に出す。由那は困惑している様子でそれを見つめながら、かあぁと顔を紅潮させていた。
でも、暴れたりはしない。両手で俺の左手を強く握りしめながら、横目に見つめているだけ。
ワイシャツのボタンは外さない。それを止めたままで裾を完全に出すと、ゆっくりとめくって。
おへその上まで上げたところで、止めた。
「お、お腹……出して……なに、するのぉ?」
細い腰回りと、くびれ。さっきまで食べていた物はどこに行ったのかと不思議になるほど平べったく、綺麗な薄い一本筋が入っていて引き締まった……だが、それでいて女の子特有の色気を感じる、そんなお腹。
右手の手のひらを広げて、縦向きに形作られた小さなおへそを中心としたお腹の上に、覆い被せるように乗せる。眠気に塗れて甘えんぼモードだった地肌は、じんわりと熱が篭っていて暖かい。
「ちょ、直接、撫でる……の?」
「積極的に、って言われたからな。手のひらから俺の好き、ちゃんと伝えようと思って」
「あ、あぅ……これ、なんかちょっと……エ、エッチじゃ、ない……?」
「大丈夫。それはいつものことだから」
「どういう意味!? わ、私エッチじゃないよ!?」
どの口が言っているのか。いつもその豊満なものを押し付けて、キスをする時も甘くとろけるような声を上げているくせに。今だっておへそを出されて赤面こそしてはいるものの、結局抵抗の色一つ見せない。
たとえ本人にその気がなかったとしても。俺にはとっくの昔から、由那のことがふとした瞬間にそういう風に映っている。弁解の余地など全く無い。
「お腹、どんどん熱くなってきてるな。じゃあ……撫でるぞ」
「ん、んぅ!? ひっ……や、優しく、ね? ゆっくりして……ね?」
「任せろ。由那の大好きな撫で加減なら、もう手に染み付いて感覚で覚えてるから」
弁解は諦めたのか。お腹を差し出し、そう言う由那はもう受け身で、身体から熱を発し続けて俺の手を待つ。
そして、そんな無防備にしているお腹を。俺は一呼吸入れてから、そっと摩り始めたのだった。