第136話 薫とひなちゃん3

「ほえ〜、こう見るとほんと店多いなぁ。ま、全クラス出してるわけだし当然っちゃ当然なわけだけどさ」


「で、ですねっ。あの……ちなみに今ってどこに向かって?」


「残念何も考えてない。ぶっちゃけどんな店があるのかもあんまり知らないんだよなぁ……」


 ひなちゃんと二人、騒がしい廊下を歩く。


 パンフレットを鞄と一緒に更衣室へと置いてきてしまったのは誤算だった。財布とスマホだけ持ってりゃいいと思ってスカートのポケットにそれだけ入れてたけど、普通に不便だ。


 とりあえずお腹が減ってきたし何か軽く軽食でもできたらいいんだが。更衣室までいちいち戻るのも面倒だし、まずは近場で腹ごしらえをしたい。


 と、そんなことを考えながら三年生のクラス付近を歩いていると。おあつらえ向きにポテチオムレツとやらが売っていたので立ち寄ることにした。


「オムレツ? ポテチってオムレツになるのか……?」


「わ、私前に動画で見たことあるかも……です。確かポテチを一度粉々にしたものを具材にして卵を巻くとかって……」


「へぇ〜! 何それめっちゃ美味そう! よし買おう!!」


 味は二種類。うすしおとのり塩があるそうだ。ここに本来であればこの二つに台頭することのできる存在であるコンソメが並んでいないのは、あれを使うと味が濃過ぎるからとかなのだろうか。


 まあ初めて食べるものだし、どうせならデフォルトが食べたいところ。私はうすしおを選択して、お金を払う。


「じゃ、じゃあ私は、のり塩味を」


「おっ、いいねひなちゃん。そっか、せっかく二人いるんだもんな。半分ずつ交換しようぜぃ」


「ひゃ、ひゃい! やったぁ……っ」


 どうやら本人もそのつもりだったらしく、ひなちゃんは嬉しそうに控えめな喜びを見せる。


(この子やっぱり可愛い……よな?)


 ひなちゃんはあまり普段から目立たない。まさに地味な委員長というのを体現した感じの風貌をしているが、顔面の一つ一つを見てみるとまつ毛は長いわ目はクリクリだわで、充分に可愛い部類へと入るレベルだ。


 クラスの男子も実はチラホラと裏で可愛いと噂しているらしいし、まあ実際ウエイトレス投票では由那ちゃんに次いでの二位。よくよく考えたらクラス全員の票が由那ちゃん、ひなちゃん、湯原先生の三つにしか固まらなかったというのも異常だ。何票か他の子にまばらな感じで入っていても良かったと思うのだが、唯一の立候補者ということで匿名投票の係数係を任された私は知っている。


 三人の比率は由那ちゃん、ひなちゃん、先生の順でおおよそ五対三対二。私と有美がいないにしても由那ちゃんという絶対的王者がいるこの環境で全体票数の三割を集めている時点で、そのポテンシャルの高さは伺えるのだ。


 ただ……


(本人にその自覚は一切無さそうだしな。分かりやすく自己肯定感が低いタイプだ)


 余計なお世話かもしれないが、もう少し自信を持ってもいいと思う。コミュ症をこじらせているのがあるとしても、少し頑張れば簡単に彼氏くらい作れそうなものなのに。


「お待たせしました〜。うすしおのり塩、それぞれ一つずつになります! ケチャップ、マヨネーズはお好みでおかけください!!」


「あざま〜す。ほい、ひなちゃん」


「あ、ありがとうございましゅっ!!」


「う〜っし。んじゃま、とりあえず座ろ〜」





 ま、私的には可愛い子といれて役得だし? 今はひとまずそんなこと考えるのは置いといてひなちゃんとのデートと洒落込みますか。