第135話 薫とひなちゃん2

「お〜い、ひなちゃ〜ん。何してんのぉ〜?」


「ぴっ!? か、薫さんっ! な、何もしてないでしゅ!!」


 ひなちゃんの目の前までズイズイと距離を詰めていくと、彼女はそれと同時に一歩下がる。


 相変わらずのコミュ症だ。元の顔がいいからたじたじになってるところも結構可愛くて個人的にツボだったりするけど。


 そんなことは置いておいて。さっきやたらと私に熱い視線を向けてくれていたが。何か用事でもあるのだろうか。


「何もしてないってことはないだろ〜。文化祭、エンジョイしてるか?」


「た、たた楽しんで……ます。まだどのお店にも入ってないですけど……」


「えっ。それ楽しんでるの……?」


「あ、あはは。どうなんでしょう」


「いやそこで聞き返されても」


 ああ、もしかしてあれか。


 この子コミュ症だからぼっちなのか。私と同じで理由があって一人なのか、はたまたシンプルに友達がいないのか。ひなちゃんなら後者だって充分にあり得てしまう気がする。


「せっかく年に一度の文化祭なんだし、楽しまないと損だぞ〜? ゲーム同好会でゴリゴリに時間浪費した私が言えることでもないけどさ。誰かと回ったりしないの?」


「だ、誰か……?」


「友達だよ。あといるなら彼氏とか」


「友……達……友達……」


「あ、嘘ごめん。やっぱり何でもない。今の忘れて」


 ダメだ。今確実に触れてはいけない何かに触れかけた。


 友達というワードに反応してここまで負のオーラを醸し出してくるところを見るに、間違いない。ひなちゃん、完全なぼっちだ。多分昔からこの感じであまり人と関わられなかったタイプだ。


(もしかしてこれ、私が誘ってあげたほうがいい感じか……?)


 あまりに急展開だが、正直私としてはやぶさかではない。


 だって今ちょうど暇になったし。私が一緒に文化祭を回りそうな相手といえば有美くらいで、それも渡辺君に取られている。


 もしかして今、私もひなちゃんのことをどうこう言える立場じゃないんじゃないのか……? いや、流石に友達がいないとかではないけど。側から見れば同じことな気がする。


 仮にここから文化祭エンジョイルートに切り替えるとしても、おひとり様ならちょっと虚しくなりそうだしな。


「あの、さ。よかったら私と一緒に回るか? 私も今暇してたとこだし。まあひなちゃんさえよければだけど────」


「い、いいんですか!? 私みたいなので本当にいいんですか!?!?」


「お、おぉ? 私は勿論いいけど。元々ひなちゃんは可愛いから目をつけ────ん゛ん゛っ。な、仲良くなりたいと思ってたし!」


「な、らぜひ!! 一年に一度の文化祭、お供させてください!!!」


「っし、なら決まりだな。一緒に見て回るか〜」


 あ、危ない。一瞬マジで素が出かけた。


 まあとりあえずこれで一安心か。せっかくの文化祭、やっぱり可愛い子と回れる方が楽しいだろうしな。


「えへ、えへっ。薫さんと文化祭……これでもう、友達っ。頑張れば友達以上にも? へ、へへへへっ。へひっ……」


「? ひなちゃん何か言った?」


「へぇっ!? な、なんでもないでしゅ!!」


「そ、そっか。じゃあ行こ」


「はひ!!!」


 うーん、何故だろう。上手くいってるはずなのに。




 なぁんか……一瞬、寒気がしたような。