「ご、ごめんなしゃぃ……私のカーボィ、もういじめないでくだしゃぃ……」
「いや、僕がいじめるまでもなく半分は自爆だよね」
「やめてやれよ。傷にデスソース塗ってるぞお前」
ゲームを始めて十分。由那は既に満身創痍で脱落しかけていた。
それもそのはず。ユリカーの時から分かってはいたがコイツ、安定のゲーム音痴だ。戦闘ゲームだというのに簡単に強技を使ってその反動で自爆していってしまう。もはや試合にすらなっていない。
加えて予想外だったのが、憂太のプレイングだ。コイツ多分、相当やり込んでる。一応俺も人並みにはプレイしてきたはずなのだが、正直言って歯が立たない。攻撃を通してくるタイミングといい、ガードからのカウンターの滑らかさが綺麗すぎて。さっきから翻弄されてばかりだ。
「うぅ〜、憂太のいじわる。私とゆーしの二人がかりでも勝てないじゃん!」
「いや、あれは二人がかりとは言えないけどな。由那の自爆はたまに俺も巻き込んでくるし」
「お姉ちゃん、弱過ぎて相手にならない……」
「ん゛にゃぁっ!?」
ずぅぅぅん、と由那の影が濃くなる。
せっかくさっきまで頑張ってお姉ちゃんしてたのに、その尊厳をけちょんけちょんに破壊されたからだろうか。
いやまあ、残念だけど擁護のしようがないほど下手くそなんだよな本当に。さっきお母さんにゲームをする時間を制限されてると言っていたけれど、それも原因かもしれない。俺と電話する頻度も相当だし、きっとあまりゲームには触れてこなかったのだろう。
「お、おい? どこ行くんだ?」
「お手洗いぃ。ちょっと二人でやっててぇ……」
行ってしまった。というか俺も俺だが、憂太も中々に容赦がないな。コイツレベルの実力があれば手加減も出来ただろうに。なんかしれっと必殺技をぶち当てたりコンボ技を喰らわせたりと、むしろ優先的に狙っていた気さえも……。
(って、しれっと二人きりになっちゃったな……)
まだ流石に憂太と二人きりはちょっと不安なんだが。けどここで俺まで離席するのは不自然だよな。
というかいい機会なはずだ。あの喧嘩別れの原因は由那を好きという気持ちな訳で、そんな感情を向けられていることをアイツは知らない。深い話をするなら二人きりの方が断然都合がいいのだ。
「とりあえず次は二人で一戦、やるか?」
「……うん」
由那のコントロールの接続を一度外し、二人モードに設定し直して再度キャラを選ぶ。
俺は使いやすさ重視のバランス型キャラ。憂太は見た目によらずゴリゴリのパワー型で、扱いが難しいがそれ故に使いこなせると強キャラに変貌するモンスターだ。
「可愛くないなぁ。子供らしくかっこいいキャラ使えばいいのに」
「僕はシャイニーコング、かっこいいと思うけど」
「うぉ、謎感性……」
というかあれ、意外と普通に喋れてるな。てっきりこう、二人きりになった瞬間一切口を開かなくなるとか。そんなのを想像してたんだけど。
少しだけ言葉を交わして、そのまま試合へと移る。
相変わらず────上手い。こちらの遠距離攻撃を躱しながら距離を詰めてくるのも、その後の近距離から外せば大きな反動を食らってしまう大技を的確に当ててくるところも。とてもじゃないが真似できる気がしない。
気づけば没頭して、画面を注視していた。
三機制の試合であっという間に二機を削られたが、俺もなんとか一機削り返す反撃を見せて。以前憂太優勢のまま、試合は進んでいく。
そして普段では滅多に決めることのできないカウンターがたまたま上手く決まり、ダメージ差は酷いが残り残機一機同士のイーブンまでギリギリ勝負を持ち込んだその時。
憂太は再び、口を開いた。
「ねえ、ゆーしにい。本当にお姉ちゃんと……付き合ってるの?」