「じゃあ、早速棚作るぞ」
「よろしくパパ!」
「誰がパパじゃ誰が」
何故か自分は隣で見ているだけのはずなのにふんすっ、と鼻息荒く目を光らせる由那は、期待の眼差しを向けてくる。
この棚作りを日曜大工か何かと勘違いしているのだろうか。そんな大それたものじゃないんだけどな。
一番と三番の横長な板は、下と上用。正方形っぽいのが横用の二番と四番で、五番が背中を担当する当て木だ。
まずは一番に二番と四番を固定する。一番と二番を裏向きにしてあらかじめ開いている穴にねじを通してから、ドライバーで強く止めた。
四番も同じようにして、次は三番を上から被せて再びねじ止め。最後に五番を角で四箇所固定してあっという間に完成だ。
「出来た。な、簡単だったろ?」
「ゆーしの指ぃ、意外に細くて可愛いね♡」
「どこ見てんだお前は」
「いてっ」
ビシッ、と頭に優しいチョップを入れてやってから、完成したそれを一度ベッドの上に置く。
「確か枕元に置くんだっけ?」
「そうそう! ほら、そこの熊ちゃんと壁の間のスペースに置いちゃって!」
「りょーかい」
由那が指定してきたのは本当に枕のすぐ側にある壁際のスペース。
あらかじめそこに本棚を置くことを想定していたのか、くまのぬいぐるみと壁の間のスペースはちょうどこの本棚が収まるくらいのサイズだ。
ベッドの上に綺麗な敷かれ方をした布団の上に上がり、身体を伸ばしてゆっくりと本棚を設置していく。
途中、不意に枕に視線が吸い寄せられるとそこで目を閉じ幸せそうな目をして寝ている由那の姿が浮かんだが、そんな雑念はすぐにかき消して。角ぴったりに壁を傷つけないよう、それを置いたのだった。
「よし、サイズ感はピッタリだな。どうだ由那? こんなもんで」
「むふぅ。いい感じだよ! 枕元に本棚がある生活……最高だよね!!」
「……ちょっと分かる」
俺も家に大きな本棚を一つ置いてそれなりの漫画を収納しているが、やっぱり漫画を読む体勢というのはベッドの上に寝転がりながらな訳で。冬場なんかは特に布団から出たくないわけだから、本棚までの数歩が辛いものだ。
しかしその点、少数しか並べられなくともここに本を置ければ、布団から出ずにそのまま漫画に手を伸ばすことができる。コイツ、さては頭良いな?
「くっふふふ。それよりゆーしさん。良い体勢してますね?」
「え? なんだよいきなり。体勢??」
「私のむずむずがむんむんになる、無防備な体勢ってことだよっ!!」
「おわぁっ!?」
どさっ。俺の太ももを押さえ、そのままタックルしてきたその細い身体になす術なく倒された俺は、由那の愛用している枕に顔面からダイブする。
(い、良い匂い……がっ……!!)
息苦しくて思わず大きく息を吸うと、鼻の中を彼女の匂いが駆け巡る。
普段から隣にいるだけでもふとした瞬間に香ってくるそれを、いきなりのゼロ距離で過剰摂取。思わずどうにかなってしまいそうなほどの甘い衝撃だった。
「な、なにすんだ!?」
「えへへぇ、押し倒したくなっちゃったぁ。でも、まだこれで終わりじゃないよ?」
「へっ────」
ふぁさあっ。端っこに畳んで置いてあった布団が、視界を暗くしていく。
暗闇と共に現れたのは、心地のいい暖かさ。振り返るともうそこには由那がいて、俺の手にそっと指を絡めてくる。
あまりに素早い行動で荒波に何が起きたのか分からなかったその時、彼女は柔らかい笑みを見せながら。言った。
「私とごろごろイチャイチャ……しよ?」