「ふんふふんふ〜ん♪」
「ご機嫌だね」
「分かっちゃう? だって久しぶりに私の部屋にゆーし呼べたんだもん。ご機嫌にもなっちゃうよ〜」
冷蔵庫を開けて、いつも私が使っている二つのコップにそれぞれお茶を注いでいく。
そんな私の背中を見ながら、リビングでいつものように勉強している憂太はどこかため息混じりにそう言ってきた。
「お姉ちゃん、本当にゆーしにいと付き合ってるんだ」
「へ、へっ!? うん。そうだよ……? 変、かな」
「ううん。お姉ちゃんの幸せそうな顔見れて、嬉しい」
「もぉ、何? 憂太のくせに生意気だなぁ。お姉ちゃん揶揄っても何も出ないよ〜?」
「揶揄われてる人の顔じゃないよ、お姉ちゃん……」
幸せが漏れ出る。
そういえば昔、ゆーしにぴっとりしながら登校していると「砂糖オーラをばら撒くな」なんて言われたことがあったけど。今も無意識にばら撒いちゃってるのかな。
憂太には少し、呆れられている気がした。
普段からよくゆーしとの嬉しかった話ばかりしてしまっているし、面倒臭いお姉ちゃんだと思われてるかも。
(でも、仕方ないよね。幸せなんだもん……)
私が寂しい時、泣いちゃいそうな時。いつも憂太はそばにいてくれた。本当に大切で、可愛い弟。
もしかしたら私がゆーしにべったりなせいで、寂しい思いをさせてしまっているのかもしれない。最近ちょっと元気がない気がするし、お姉ちゃんとして元気づけてあげなきゃ。
「ね、あとでゆーし連れて降りてくるから。その時は三人で一緒に遊ぼ? 憂太もお勉強するのは偉いけど、そればっかりじゃ勿体無いよ?」
「ぼ、僕はいいよ。せっかく彼氏と二人きりになれるんだから、気にしないで」
「だ〜め。これはお姉ちゃん命令だから! たっぷりイチャイチャしたら絶対戻ってくるからね!!」
「えぇ……」
憂太だってまだ中学生。私と違って真面目で、頭も良い出来た弟だけど。でもそれ故に、たまに心配になる。
色恋沙汰の話とか、あとは友達と遊ぶなんて話も。憂太からはあまり聞いたことがない。いつも私が帰ってきたらリビングで勉強しているか、いない時も大体習い事で。
中学生の三年間なんてあっという間に終わってしまうから、もっと遊んで楽しんでほしい。家にいて私に構ってくれるのも嬉しいといえば嬉しんだけど。やっぱり、お姉ちゃんとしては弟がずっと私しか遊び相手がいないっていうのはちょっと、ね。
ゆーしとも、ある程度は仲直りしたんだと思うけど。昔みたいに楽しく遊べる、そんな仲に戻ってほしい。今は昔と違ってゆーしは私の彼氏で、ただの幼なじみの友達ではないけれど。憂太にとっては変わらず、頼れるお兄ちゃんのままでいられるはずだから。
「じゃ、お勉強がんばってね! 私達が降りてきたら一緒に遊んでよ〜! 絶対だから!!」
「……う、うん。分かった」
「やった。ありがと!!」
私は渋々のようにも照れながらにも見える表情で憂太が了承してくれたのを聞いて、お茶の入ったコップを持つと二階への階段を上がる。
「本当に、取られちゃったんだ……」
弟の呟いた一言に、気づくこともなく。