レジで会計を済ませて袋を貰ってから、それに棚になる前の板等を入れてホームセンターから離れる。
一度喫茶店の前を通った時に中を見てみたが、既に中田さん達はいなくなっていた。今頃はもう学校に買ったものを届けて帰路についているだろう。
俺達もひとまずこの建物に用事は無くなったし、これからどこか行くにしても一旦は頼まれてたものを教室に届けなければならない。
というわけで、自転車のカゴに全ての荷物を乗せてから。俺達は学校へと向かったのである。
「ね〜ね〜、この後どこ行こっか! ゆーしは何かリクエストないの〜?」
「え、俺か? うーん、そうだな……」
由那と行けるならどこでも楽しいから、お前の行きたいところでいいよ。なんて台詞は、ちょっとキザ過ぎるだろうか。
まあ本音を言えと言われたら間違いなくそれが出てくるわけだが。実際、由那とどこかに行って楽しくなかったという経験は未だ無い。
「そうだな。強いて言えば落ち着ける場所がいい。あまり遠出してもいられる時間は少ないし」
「ふむぅ。じゃあ近場でまったりコースですなぁ。どこでイチャイチャまったりゆるゆるしよっかな〜」
「ゆるゆるて」
「だってゆーしとまったりしてると、身体が落ち着いちゃうんだもん。ゆるゆるにもなるよ〜」
嬉しいことを言ってくれるな、全く。
およそ十五分かけて、徒歩の彼女に歩幅を合わせながら自転車を押し、学校へと戻る。
駐輪場に自転車を停めてから教室に行くまでの間、誰ともすれ違わなかった。運動場からはサッカー部と野球部の怒号が窓を閉めている廊下にもひしひしと伝わっていた。
誰もいない廊下。そこを由那と二人で談笑しながら歩き、教室の前まで来ると。一人の女の子が、気配も出さずに教室の端で本を読んでいる。
一瞬唐突に視界へと入ってきた人影に身体がビクッと反応したが。それが誰なのか分かると、すぐに落ち着いた。
「えっと確か……蘭原、さん? お疲れ」
「ひゃひぇっ!? あ、あっ! えと……お疲れ様、でしゅっ!」
バチィンッ、と紙から出た音とは思えない強さで本を閉じ、身体をビクつかせた彼女は。また俺たちと同じように相手が誰なのかを理解して、息を落ち着かせる。
「委員長? ごめん、もしかして私たちのこと待ってたり、してた?」
「は、はい。一応領収書をまとめて湯原先生に提出に行かなきゃなので……」
「嘘、マジか。本当ごめん、俺達そのこと知らなくて。待たせちゃったよな」
「き、きき気にしないでください! 私が連絡していなかったのが悪いですから!!」
申し訳ない気持ちになりつつ、とりあえず買ってきたものを見せてから領収書を手渡す。
蘭原さんはやけに他人行儀というか、緊張してる感じだった。人見知りなのだろうか。そういえば委員長として前に出てる時もこんな感じでいつも何かを怖がっているような仕草をしていた気がする。
「ひなちゃん、だよね? 私たち同い年なんだし、タメ語でいいんだよ? ほら、私のことも江口さんじゃなくて、気軽に由那って呼んでよ〜!」
「ひ、ひぃっ!? わ、わわ私なんかがそんな、ダメですよ……」
「え〜? じゃあ最悪さん付けでもいいからぁ。ね、由那さんでもいいからぁ〜〜」
「え、えっと。わ、分かりまひ、た。……由那、しゃん」
「やったー! ありがとひなちゃーん!!」
なんか、凄く分かりやすい陽と陰の構図って感じがする。
由那はいつも明るくて、誰にも分け隔てなくこうやって笑いかけることができる完全な陽タイプ。そしてそんな彼女に動揺してキョドっている委員長は紛うことなき陰だろう。
いや、まあ俺もどっちかと言えば委員長にタイプは似てるんだが。今思えば由那と一緒にいるおかげでそっち側に引っ張られていってるのかもな。昔と比べて今じゃ寛司とか、友達もいるし。
「って、あんまり無理させちゃダメだって由那。ごめんな、蘭原さん。引き止めちゃって」
「い、いえそんな!! 私こそこんなのに付き合わせちゃって本当にごめんなさいです……」
き、気まずい。自己肯定感が低すぎる人と話すのはこんなに気まずいのか。
蘭原さんのためにも、早くここを出よう。そう思い、由那も引っ張っていこうとしたのだが────
「およ? なんか珍しいメンツだな??」
「おっふ……」
場を荒らしそうなジョーカー。在原さんという不確定分子が、じゅここここ、とタピオカを吸いながら一人。やってきたのである。