第100話記念閑話9 薫の恋愛観念

「んなぁぁぁぁっ! クッソ、また負けたァ!!」


 コントローラーをベッドにぶん投げると、ぽすっ、と収まりのいい音だけがして。私はゲーミングチェアを少し後ろに倒してから「LOSE」と表示された画面を消す。


「は〜ぁ。今日は有美も構ってくれないしよぉ。ゲームなんてこれ、何連敗だ? やってらんないわマジで」


 イライラのフラストレーションを発散する場所もなく。自室で一人ごちっても何も変わらないことくらいは分かっているが、なんかこう……うん。暇なのだ。


 今日は有美と渡辺くんは映画館デートに行っている。由那ちゃんに声をかけようか、なんて思ったけど、あの二人も学校終わったらいつものように颯爽と手を繋いで帰って行ってしまって。


「彼氏ができるって、そんなにいいもんなのかねぇ。分かんねえや」


 私は可愛い。ルックスが良いのは自覚しているし、実際告白も何度かされたことがある。高校に入ってからだってまだ数ヶ月しか経っていないのに、しれっと三回は下駄箱に手紙が入っていた。


 が、丁重にお断りさせてもらった。


 だってピンと来なかったし。正直そこらへんの男子と妥協して付き合うくらいなら、私は有美と付き合いたい。かっこいいより可愛いの方が私の中での優先順位は上だからだ。


 まあ……その有美も今となっては立派な彼氏持ちなわけだが。


「う〜〜〜む。どこかに可愛くて私に従順で逆らわずにヨシヨシされてくれる、そんな子はいないもんかねぇ」


 高望みなのは分かってる。多分そんな子を探すより無難にそこそこイケメンな男の子を捕まえた方が絶対楽だ。


 だけど、じゃあそんなに変な妥協してまで彼氏が欲しいかと言われれば。そんなことはないわけで。


 有美や由那ちゃんみたいなイチャイチャな幸せは、なんかこう……いざ自分がするとなると実感が湧かなくてモヤモヤするし。そもそも私が誰かを好きになれる日なんてくるのだろうか。


「……やっぱり私は、外からちょっかいかけるくらいがちょうど良いな」


 スマホを開いて、写真フォルダを見る。


 有美が照れてる写真や、由那ちゃんがこっそり隠れて神沢くんの頬にキスしてる写真。


 どれもどれも可愛くて、宝物だ。


 彼ら彼女らと、ずっと一緒にいられたら。その動向を一人の友人として、見守り続けることができたなら。


 きっとそれは私にとって彼氏を作ることなんかよりも、ずっと幸せなことだ。


「ふふっ、なぁに柄にもなく浸ってるんだか」


 思いっきり背伸びをしてから、コントローラーを拾う。


 少し元気が出た。なんか今なら今日無限に続くような気がしていた連敗に終止符を打てそうな。そんな予感がする。


「よぉし、やるかぁ〜っ!!」




 意気込みながら画面をつけて。私は再び、レート戦へと潜って行くのだった。