「ううっ。ごめん……」
「落ち着いた?」
「……まだちょっと、怖い」
ようやく起き上がってくれた有美は、少し落ち着いたようでじゅびじゅびと鼻を鳴らしながらジュースに口をつける。
有美がホラー苦手なのは知ってたけど、まさかここまでなんて。
……というか、結局なんで俺とホラー映画を見るってことになったんだろう。さっきのメッセージ的に少なくとも在原さんに感想云々は、どこか方便な気がする。こんな調子なら絶対最後まで観れないことくらい、自分で分かってる気がするし。
「ねえ、寛司。その……ごめんね? 急に映画見ようって言って、そのくせすぐに挫折して泣きついて。情けない、よね」
「そんなことないよ。俺としては有美に頼って、甘えてもらえるの。他の何よりも嬉しいし」
「……じゃあ、もっと甘えてもいいの?」
「えっ────」
ぴとっ。肩にことんっ、と小さな頭が寄せられると、まん丸とした瞳がこちらを見つめてくる。
(あぁ、そうか……)
寂しい時の目だ、これは。
有美は意外と根の部分で甘えんぼなところがある。人前では世間体とか自分のキャラ付けとかそういうのを気にしてあまりしてこないけれど、二人きりの時はこうやって。俺の前でだけ、素の自分を見せてくれる。
けれどこれは、そんな彼女でも異常なほどの寂しいオーラを纏っていて。日中も少しソワソワしているのには気づいていたけど、ハッキリした。
「ごめん。寂しかったんだね、会えなかったし」
「……うん」
電話やメッセージのやり取りだけじゃ摂取できない、生の体温。ちょっとした身体の動きや表情の変化、溢れ出る気持ち。
その全てが、愛おしい。
俺は馬鹿だ。なんですぐに気づいて甘やかしてあげなかったのか。勇士のことを普段あれだけ言っておいて、自分もこんななんて。
「俺も寂しかったよ。有美がついてきてくれないから」
「むっ。彼氏のおばあちゃんのお葬式で公休は使えないでしょ……?」
「変なところ真面目だよね、有美って。そういうところ昔から変わらないな」
「嫌?」
「ううん。ずっと今の有美がいいよ。俺の好きになった、ありのままの有美で」
「……あ、そ」
綺麗な黒髪越しに、頭をそっと撫でる。
寂しかったのは有美だけじゃない。お世話になったおばあちゃんが亡くなって、そちらに顔を出さなければいけないのは仕方のないことだったけれど。
それでも、やっぱり有美と一日でも会えないと言うのは、まるで心の拠り所が無くなったかのような気分だった。
「今日……泊まってってもいい? まだ怖い余韻が残ってて外に出たくないし……離れたくも、ない」
「お母さん帰ってくるけど、いいの?」
「……いい。挨拶、する」
「分かった。じゃあ今日はずっと一緒にいよう」
「………………ん」
コクリ、と無言で頷くと共に更に寄ってきた有美の腰元にそっと手を回して、抱く。
暖かくて心地いい、そんな感覚。まるで幸福の中枢神経を鷲掴みにされたかのように身体がありとあらゆる幸せに包まれて、熱が篭る。
そしてそれを発散しようと身体が動いたのは、その後。すぐのことだった。