「ねぇねぇゆーし! 愛してるゲームしよ!!」
「愛してる、ゲーム……?」
とある日の学校、昼休み。いつも通り二人でお弁当を食べ、残り時間をダラダラと過ごしていると。由那は俺にそう告げた。
愛してるゲーム。そのルールは至ってシンプルで、ただお互い交互に「愛してる」と唱え、照れた方が負け。そんなおバカ全開なものだ。
「やるわけないだろ、恥ずかしい」
「はにゃ〜? もしかしてゆーし、負けるの怖くてビビってるのかにゃ〜??」
「んなっ」
ビキッ。眉間に力が篭る。
コイツ一丁前に煽って来やがって。
俺は知ってるんだぞ。お前が意外と攻められたら弱いってこと。実際やったら弱いのはそっちのくせに生意気言って、よっぽど勝てると思ってるんだな?
「そぉ〜だよねぇ。ゆーし意気地なしだもん。私に勝てるわけないもんね〜!」
「……よ」
「ん〜?」
「やってやるよぉ! 望むところだこの野郎!!」
と、まあそんなこんなで。
俺達は座っている椅子を向かい合わせると、対面して座った。
恥ずかしがったら負け、なんて曖昧な基準しかないこのゲームだが。由那は絶対そんなことを言われて耐えられるはずがない。
この勝負、俺が先に「愛してる」と言ってしまえば勝ちだ。
「じゃあどっちから言うか決めよ〜。じゃんけんっ!」
「よし来た」
さいしょはぐー、じゃんけん……
ぽんっ。パーを出した俺に対し、由那はチョキで応戦する。
「よっし。じゃあ私から!」
二分の一に負けた。だがまあ、所詮は先行を取られただけの話だ。
俺が先に行ってしまえば必殺。そう考えてはいたものの、こうなってはそれはそれで仕方がない。なら俺が一度由那の攻撃に耐えて、後攻まで番を回せば────
表情筋を強ばらせて、猛攻に耐えるべく身体に力を込める。
が。
「えへへ、ゆーしっ。……愛してるよっ♡」
それは、一瞬の出来事だった。
膝の上に手を乗せてちょこんと座っていた由那は、そっとお尻を浮かせると。そのまま急接近してきて、俺の唇を奪う。
突然のキスと、至近距離での愛の言葉。身体を固めていた鎧を一瞬にして剥がされてしまうと、みるみるうちに体温が上がって。気づけば全身を激しい熱が支配してしまっていた。
「〜〜〜〜〜ッッッ!?!?」
「あーっ! ゆーし顔真っ赤! 私の勝ちだ〜!!」
「ま、待て! 今のは流石に反則だろ!?」
「にへへ〜。愛してるって言い合うこと以外何もしちゃダメなんて決まり無いも〜ん。油断してたゆーしの負け〜♡」
「てん、めぇ……」
「ふふっ、悔しがってももう遅いのだ〜。ゆーしは負けたんだよっ。彼女さんWin〜♪」
「……」
コイツ、やりやがったな。さては初めからその気だったのか。
何が油断してた俺の負け、だ。こんなのただの不意打ちで、そもそも愛してるの言葉で赤面させなきゃゲームの意味が……いや、確かに愛してるで赤面はしたけども!!
納得いかない。かなり納得いかない。
こんな生意気カノジョには復讐しなきゃ……だよな?
「分かった。俺の負けだよ」
「ふふっ、そーだよ。それでいいのだぁ。ゆーしは大人しく、私にドキドキさせられ続ければ────」
「じゃあ次は、俺が先行な」
「……へ?」
「当たり前だろ。さっきはそっちが先行で俺の番が回ってこずに終わったんだから。次は俺が先行で、一発KOすれば引き分けだよな?」
「にゃ、にゃ……っ!?」
己の危機を察したのか、ガタッと音を立てながら由那は必死でその場を去ろうとする。
だが当然、そんな行動を俺が予測していないはずもなく。両肩をがっちりと掴んで座らせてやると、無理やり対面させた。
「ゆ、ゆーし? やめよ? ごめん、私が悪かったからぁ……ね? たまには一方的にドキドキさせたかったの! いつも私、ドキドキさせられっぱなしで……だからっ!!」
「ダメだ。次は俺の番だからな」
「ぴっ────!」
自分の力では抜け出せない。そう思い知らされ肩の拘束をせずともよくなった、その瞬間。俺は由那の左耳の耳たぶを摩りながら、無防備にピンク色になった右耳に向かって。告げる。
「愛してる。愛してるぞ……由那」
「あっ……あぁっ。ひにゃぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
ガクガクッ、ぱたんっ。
弱点である耳を弄られながらの、鼓膜を直接揺らす至近距離愛してる。言葉を流し込まれた由那はオーバーヒートし、身体をピクピクと震わせながら、簡単に床へと崩れ落ちたのだった。
「これで引き分け、だな?」
「う゛うっ、うう!! 耳は! 耳は、ズルいよぉ……。身体、ゾクゾクッて。こん、にゃのぉ……っ!」
「調子に乗るからだ。なんならこのままもう一回戦するか?」
「ぐにゅ、ぐにゅにゅ……もう、無理ぃ……」
こうして、愛してるゲームは一対一の引き分け。由那のゲーム続行不能により、ここで幕を閉じたのだった。
実質的に俺の勝ちだな。ヨシ!!!