「好きです! 俺と……付き合ってください!!」
「……え? 誰? とりあえずごめんなさい」
有美と出会った初日、俺は告白してフラれた。
いや、今思えば当然なんだけれど。だって俺と有美は一度も会話した事がなかったし、なんならあっちは俺の名前すら知らなかったくらいだから。
「中田有美さん、あなたの可愛さに惚れました!! ついさっき、初恋したばかりです!!」
「だとしたら告白するタイミングおかしいな!? 流石に早すぎるって!」
放課後の学校。下駄箱に入れた手紙で呼び出したから周りには誰もいない。そんな無人の教室に、有美の声が響いていた。
出会って初日。俺は、有美の見た目に惚れた。
どこが、と言われると難しい。強いて言うなら全てだ。彼女の姿が目に入った瞬間、頭に電撃が走って。気づいたら手紙を書く手が動いていた。
「というか、思い出した。君確かあれだよね、渡辺君。みんなイケメンだって話してたよ。君みたいにモテる人なら私なんかじゃなくてよくない? いくらでも女の子選べるでしょ」
「え? 中田さん以外に選ばれても嬉しく無いんだけど……」
「は、はぁ!?」
あ、照れた。可愛い。
こんな顔をして恥ずかしがってくれるんだな、この人は、と。初めて内面を知った気がした。
俺の告白は、不純に聞こえるだろうか。見た目に一目惚れしてそのまま告白したなんて。浅さで言えばもはやナンパする輩と変わらないかさえしてしまうし。
だけど……一度意識した好きは止まらなかった。
恋は盲目、なんて言葉があるけれど。本当に周りが見えなくなって、今は彼女のことしか頭にない。
恋をした期間はおよそ数時間だけれど。断言できる。俺はこの人が大好きだ。恋人になりたい。付き合って、色々なことをしたい。
「ほ、本当に、さ。やめといた方がいいって。私男の人と付き合ったことなんかないし、多分面白くないと思うよ?」
「大丈夫、俺は中田さんと同じ空間にいられるだけで楽しいから!」
「ん゛んっ。あ、ほら私たちもう受験生でしょ? 勉強しなきゃいけないからさ! 今はそういうこと考えてる余裕ないかなぁ……って!」
「勉強なら俺が教えるよ! 自慢じゃないけど学年順位一位だし!!」
「あぅえぇ!? 学年一位ッ!?」
この日初めて、勉強が役に立った。所詮はどこの高校にも行けるよう手に入れておく内申点程度に思っていたのに。まさか好きな人にアピールできるポイントになるとは。
「むむ、むむむ……」
彼女は頭を悩ませて、首を捻っていた。
多分どうやったら俺が折れてくれるか。そんなことを考えていたのだと思う。
そして、一つの結論が出されたのだった。
「分かった。じゃあ────」
提示された条件。それは、「有美を志望校に合格させる」というものだった。
まずは友達から、というお互いを知る意味も込めて、あくまで友達としての勉強会を開く。受験期真っ只中の夏過ぎだったから、きっと有美も勉強面で悩んでいるところがあったのだと思う。
でももう俺にはそんなこと、どうでもよかった。
彼女と関わりを持てる。友達としてだとしても、隣に居られる。それだけで本当に幸せで。
「中田さんを志望校に合格させたら、本当に付き合ってくれるんだよね!?」
「む、むぅ。言っとくけどマジで大変だからね? 私今そこの合格判定Dだから」
「任せて! 俺が丹精込めて全部一から教えるよ!!」
出会って一秒で、外見に惚れた。
出会って一日で、内面に惚れた。
こうして俺の、初恋を叶えるための学生生活が幕を開けたのだ。