「聞いたか?最上級生の何人かがマリファナをやって捕まったらしいぞ」
クラスではその話題でもちきりだった。ショッキングだったのは、その面子の中にリチャードの兄のサムもいたということだった。
僕はリチャードは今どんな気持ちでいるだろう、と心配だった。それとなくリチャードの教室を覗きに行ったが、リチャードはめずらしく学校を休んでいた。
放課後。バスケのボールをもてあそびながら、ダウンタウンのコートに向かった。
ベンチに誰かいる?
「リチャード!」
「よう!」
片手を上げて返事するリチャードはいつもの彼だった。
「学校休んでここで何やってるんだ?」
「なんだよ。なんでも知ってるんだな?」
「僕はいつも君を見てる」
まいったな…とリチャードはうなだれた。
「俺、お前の名前知らない」
「シン、だよ」
「シン。お前がいつもいるから、俺は道を踏み外せない」
「?。どういうこと?」
「バスケの試合、兄貴に言われて八百長で負けることになってたんだ。でも、お前が俺を見てたから、俺は勝った」
知らなかった。
「上級生からも成績のトトカルチョで金を稼がされそうだけど踏ん張ってる。案の定、お前、俺の成績表たしかめてたろう?」
僕はかあっと顔が熱くなった。
「俺さ、宇宙飛行士になりたいんだ。そのために勉強して、いずれ医学博士になって、空軍に入る。品行方正でいなきゃならないし、誘惑はいろいろあって心が折れそうになるときもあるよ」
リチャードの夢を初めて知った。僕はただがむしゃらにリチャードに追いついていつか追い越すのを目標にしていたけれど、リチャードには大義があったのだ。
「かなわないなぁ」
僕はリチャードの隣に座って、ため息をついた。
「俺もお前にゃかなわないよ」
「えっ?」
「これからも俺を見ててくれ。きっとやり遂げてみせるから!」
リチャードはニッと笑った。
「今日もバスケの練習するんだろ?つきあうぜ」
「おう!」
僕らはいい汗をかいた。