『――ただいまより今年度第二回、解氷祭りの前夜祭』
天守閣に登った
『
その宣言と供に、一瞬で夜空に変わり、そして、
――大輪の花火をドーン! と咲かせてみせた
「うおお!」
「凄いね!」
桜国の上空で爆ぜる火の
屋台が並び人々行き交う広場にて、次々とあがる花火を見上げる、シソラとアリクの元に、
「ま、待たせたな」
直前で、雪結晶柄からよみふぃ柄の浴衣に着替えてきたレインと、
「おまたせぇ」
「アニキー!」
鶴亀ポップ浴衣のアウミ、そして、小判柄浴衣のゴエモンが現れた。
「あ、あのシソラ――」
「レイン、浴衣かわいいね」
「あ、ああ、ありがとう」
真っ先に言われたい事を言ってくれたシソラに、恥ずかしがりながら笑うレイン、親指たててGJするアウミ。
「ゴエモンも着替えたのか、かわいいじゃん!」
「アウミさんが選んでくれたのさ! それに――レインさん!」
「ああ」
レインはアイテムボックスから
「おお!?」
「折角の祭りだ、着飾ってもいいだろう?」
「サンキューレイン! 妬ましいけど愛してる!」
「じゃあ行こうぜアニキ!」
「え、お、おい皆で回るんじゃないのかよ!?」
「怪盗と一緒にいられるかってんだい! じゃあ、あ~ばよっ!」
そう言ってゴエモンは、アリクの背中を押して雑踏の中へと消えていく。
「本当、元気いっぱいの子だよね」
「――ああ、だが私達の先輩だ」
「え、どういう意味?」
「後で話す、それじゃあ私達は三人で」
「ああ! 飛び入りOKのライブ会場あるぅ!」
「え?」
と、レインが思った時にはもう、アウミはその舞台へダッシュして、司会の人とお喋り――そして30秒も経たない内に、こぶしをきかせた演歌を歌い始めた。
「……どうやら、我達二人だな」
「あ、ああ、その、それで、お前にも服を用意してるのだが」
少し迷いながら、レインは、
「二つ用意してるのだが、どちらがいいか決めてくれ」
そう言って、二枚の木の葉を翳し、説明をはじめた。
◇
――静岡県浜松市のとある家
「あれ、サクラちゃん」
「アカネとVRMMOをしてたんじゃないのかい?」
台所にやってきた少女――エビモンの中の人、サクラは、両親の視線を受けながら冷蔵庫を開け、麦茶を取り出した。
続けて棚からグラスを取りだし、それを注ぐ。
「今日はお祭り、私、騒がしいのちょっと苦手だから」
「そうなのね」
麦茶を飲むサクラに、父親が話しかける。
「そうだ、サクラ、来月お前達の誕生日だろ?」
「アカネからはもう聞いてるけど、貴方は何が欲しい?」
「――今は特に何も思いつかないかな」
サクラは、
「高校受験に、役立てそうなものがいいかな」
「いや、勉強も大事だけど、遊ぶのも大事だぞ」
「好きなものを買っていいのよ」
「ありがとう、考えとく」
そう笑顔で言ってから、リビングを出る。そして、
――目を閉じる
思い浮かぶのは姉の顔、だけどそれは、
VRMMOのものじゃない。
「――私が欲しいのは」
彼女はどこまでも、望んでいた。
ゴエモンという仮想じゃなく、アカネという現実を。
◇
――金魚すくい
リアルでは近年、持ってかえって飼育する手間などから不人気となり、スーパーボールなどにとってかわっているもの。それがバーチャルでは存分に味わえるので、アリクとゴエモンは金魚すくい対決をしていた。
「てかマジもんの姉妹だったんだな」
「そうだよ双子さ、よーし取りぃっ!」
「ええ、もう!?」
アリクが3匹に対しゴエモンは規定数の10匹目、これにてゴエモンは勝利して、彼女のステータスに”金魚すくい”の実績が解除される。
「うわ、ランキング1位!? すげーなお前!」
「ふふん、そうだぜ、もっと褒めてくれよなアニキ!」
「本当すげー! ……すげーのにさ」
そこでアリクは、疑問を放つ。
「なんでお前、皆からどんまい、って言われてるんだ?」
「うっ」
そう、既にいくつかの屋台を回ってきた二人、そして明日のレースに出る事を言う度、どんまいって言われる。それも嫌味じゃなくて、心配そうに。
「……まあほら、アタイ、皆の期待を裏切り続けてるから」
「レース、まぁ、そりゃなぁ」
優勝すれば桜国は開国、しかし、いつも一歩及ばずのタイムアウト。最初こそ皆、前日はがんばれ! と応援してくれたが、今は負けてもどんまい、という形で声をかけてくる。
「でも、嘘でもいいからがんばれって言われたいよなぁゴエモン」
「――いや、本音言うとさ、皆に言われるのはいいのさ」
「ん?」
ゴエモン、立ち上がる。そしてそのまま歩き出したので、アリクは慌てて着いていく。
「辛いのは、エビモンに桜を見せてやれない事だよ」
「桜?」
「私がこのゲームを始めた時、もうこの国の桜がすっごいキレイでさ、感動しちゃったんだよ。桜が大好きなエビモンにも見て欲しかった。ところが一週間後、一緒にログインしたその日に桜は氷漬けさ」
「あー……」
「アタイはこの国の桜を取り戻して、エビモンに見て欲しいのさ、だけど」
妹は姉に、
「無理しなくていい、姉さんは普通でいいって」
そう言った。
……アリクは最初、辛いよな、と声をかけようとした、だが、
「お前ら姉妹、仲がいいんだな」
そう、言い直した。ゴエモンはにこっと笑った。
「アタイね、ちっちゃな頃、万引きした事があるんだ」
「――え」
「エビモンが欲しがってたお菓子があって、気がついたらそれをポケットにいれて――店を出てた――ううん、自分の意志で”出た”」
――それは一桁歳の頃の衝動
「でもすぐ怖くなって、店に戻って、店員さんに盗んだって言って、謝って、警察呼んで下さいって言って、その後親が来て」
結局この事件は、自動ドアを潜り抜けてからすぐ戻って来た事もあり、強く怒られはしたものの、特別穏便にすまされた。ただ、
「一人で出掛けるのが怖くなった、また盗んじゃいそうだって、でもそしたらエビモン――妹が手を繋いで、一緒に出掛けてくれたのさ」
自分が盗みをしないように、手を繋いでくれた。
姉が引きこもりにならないように、妹が助けた。
――それから時が経って、ゴエモン一人で出掛けるようにもなったが
「一人でも盗みはしなかったよ、したら、妹が悲しむから」
「……ゴエモン」
「だから、アタイが明日のレースで優勝したいってのは」
「妹への恩返しか?」
「それもあるけど、きっと、それ以上に」
そこでゴエモンは立ち止まり、
花火彩る空でなく、地面を見て、
「サクラに、かっこつけたいだけなのさ」
寂しげな笑みと供に、そう、言葉を落とした。
それ以上はゴエモンは何も言わなかった、だが、
言いたい事はアリクに伝わってくる。
怪盗に開国してもらいたくないのはただのゴエモンの我が儘。
彼女本人が一番それを良く解っていて、そう、
ただの醜い嫉妬だという事を、自覚しているのだ。
――だからこそ
「よし、ゴエモン」
「……え?」
「スカイゴールド、探すぞ」
「――へっ?」
そう言ったアリクは、ゴエモンの手首をガシッと掴み、そのまま走り出す。
「え、ちょっとアニキ!?」
「よーしどこにいる、いや探す前に、文房具屋だ!」
「な、何するつもりだ!? アニキ、アニキィ!」
戸惑う彼女を引っ張りながら、アリクは、雄叫びを機関車の蒸気のようにあげながら走り出した。一方その頃ライブ会場のアウミは、チャンネル登録と高評価をお願いしてた。
◇
小川流れる、氷漬けの桜並木が広がる土手にござを敷き、二人の男女が座っている。
一方はよみふぃ柄の浴衣を着たレイン、しかし隣に居るのは、
「わぁ」
同じよみふぃ柄の浴衣を着た、
「桜色の花火!」
リアルの”白金ソラ”の風貌に寄せた、シソラであった。
「氷漬けの桜の代わりに、空に桜を咲かせるんですね」
「あ、ああ」
「……どうしました?」
「いやその、確かに、提案したのは私だが――その姿で良かったのか?」
「――良かったって」
怪盗をお休みして祭を楽しむ――ならばいっそ、リアルの姿に近くしたらどうだろう、というのがレインの提案だった。
もちろん、普段のシソラの姿に合わせた浴衣も用意していた。だが、シソラは前者を選ぶ。
ただぶっちゃけてしまえば、
「それが建前なのは、お前なら気付いてるだろ……」
「え、ええまぁ」
「かっこよくなりたくて、VRMMOをはじめたお前に、私のお気に入りの姿を押し付けた事、今更罪悪感が湧いてきて」
「ほ、本当に今更ですよ、もう」
「すまぬ……」
少し気まずい沈黙が流れる、
だが、
「……他の人に、かわいいって言われるのは、別に嬉しくないですけど」
シソラはここで、おそらくは、
「レインさんに言われると、嬉しいです」
「!」
とんでもない事を、赤い顔、小さな声で言ったものだから、
「シ、シソラ?」
レインの中で竜巻のようにうずまく感情が、雪崩のように彼へ襲いかかろうとした、その時、
「シソラァァァ!」
「わ!?」
「ふぇっ!?」
ロマンティックをぶち破り、アリクが、ゴエモンと供にやってきた。
「い、いやアニキ、その男の子誰なのさ!?」
「シソラだ!」
「嘘ぉ!?」
驚きで丸くなった二人の目に、そのまま飛び込んできたのは、
――アリクがもった果たし状
「――怪盗スカイゴールド」
その中身を、読み上げるまでもなく、
「明日の祭り、ゴエモンと、俺と勝負しろぉ!」
そう、叫ぶものだから、
「い、いやアリク!? いきなりどうした!? もう少し説明を」
「レインさん、変化を解いてくれますか?」
「え、ああ」
促されて変身解除、スーツ姿に、マントをはためかせる怪盗姿。
「ん、あれスカイゴールド!?」
「いつのまに!?」
「なんかゴエモンちゃんもいるぅ!?」
周囲の当然のざわつきも気にせず、シソラは、
――中学生からの友達に
「その挑戦、受けて立つ!」
と宣言した。
ざわついていた喧噪は、次の瞬間、歓声に変わり、
その日の内に、怪盗VS義賊のニュースは、桜国の外にまで広がっていった。