……
知能の紋章が埋め込められた。
埋め込んだ対象物は、人間の死体。
この知能の紋章が効果を発動したことによって、この死体の脳の役割を担う情報が活動を始めた。
必要であれば、いつでも使える。
視覚の情報は一切ない。
その代わり、誰かの声が聞こえてきた。
別の箇所に埋め込まれた、聴覚を補う紋章が機能し始めたのだ。
「――たでしょ!? この子には、死んだあの子の記憶なんていらない!!」
「し、しかし……聞いた話では、この死体を引き取った理由として、右腕があなたの娘であることから……」
「いいから!! 記憶の紋章は埋めないで!!」
しばらくして埋め込まれたのは、人格の紋章。
埋め込んだ物に、人格を与える効果を持っている。
この死体に、これから人格が宿るのだ。
……人格? それを簡単に表すなら、心って意味なのだろうか?
どうして今、わざわざ人格について言い換えたんだろうか?
ただ人格を、この死体……いや、ワタシに与えるだけだ。
特に恐怖を感じるはずもない。
特に怖くも思わないはずなのに。
……いや、怖い。複雑な気持ちが、人格の紋章の中で暴れ回っている。
どうして人格を与えたの? 理由もわからない。この人格で何をされるんだろう。
意図のわからない人格のせいで、ただ、不安と恐怖でもがいている。
ああ、誰かを見たい……
ワタシに人格を与えた、誰かを見たい……!
ワタシに人格を与えた意図を知っている、誰かを見たい……!!
……!
今、動作の紋章が埋め込まれた。
だんだんと、体の感覚を感じ始めた。
……もしかして、まぶたを開けることができる?
ゆっくりとまぶたを開けてみると、まぶしい光が入ってきて思わず閉じてしまった。
前から紋章入りの義眼を入れていたけど、まぶたのせいで視覚がないと勘違いしたみたい。
周りはどうなっているんだろう。
不安が胸で暴れているけど、まぶたを開けないとこの不安は収まらない。
もう一度、まぶたを開けてみた。
医務室と思われる明かりの下で、ひとりの女性がワタシを見つめていた。
「あ……ああ……!!」
ワタシがまばたきをするごとに、女性は声を漏らした。
「さ……さあ……起き上がって……!」
女性に言われるがままに、上半身を起こしてみよう。
「あ……ああ……よかった……よかった……!」
目から水……涙を出しながら、女性はワタシに抱きついてきた。
周りを見てみると、手術服を聞いた何人かの人間が立っていた。
みんな、戸惑っているみたい。
「“お母さま”は……あなたを大事にするわ……! あの子の、生まれ変わりだもの……!」
おかあ……さま……?
声に出そうとしても、出なかった。まるで、発声器官がないように。
だけど、これで十分かもしれない。
この人……お母さまは、ワタシに人格を与えた人間なのだから……