第十二章☆アルナー船長
「止まれ」
さすがに船長室の前には銃を構えた護衛がいた。
護衛の男たちは、その少女を見て、何故、明らかに一般人らしいこの娘がこんな場所までたどり着けたのか、いぶかしんだ。
少女は無言で身分証明書のカードを護衛の一人に手渡した。
「……これは失礼しました。お入りください」
重厚な造りの扉が開かれ、少女は中へ入って行った。
「誰かな?」
白い髭を蓄えたアルナー船長が奥の椅子から声をかけた。
「私です」
「おお!大きくなったな、ユウ」
ピンクのワンピースとサンダルで、ユウは女の子らしい振る舞いだった。
10年前に騒ぎを起こしてから船長の孫娘だということを隠していなければならず、ずっと男の子のふりをしていた。
「おじいちゃん、聞きたいことがあって来ました」
「重要事項なんじゃな?」
「今、ノアザーク号が着陸している惑星は本当に地球なんですか?」
「……お前はどう思うね?」
「どうも、地球ではない気がします」
話は長くなるが、いいか?とアルナーは言った。
最初にノアザーク号が造られたのは、地球の資源枯渇・大気汚染・人工増加……さまざまな理由からだった。
他の恒星系の人類が生存できる惑星を探索して、開拓移住する目的で、無作為に選ばれた人たちが乗り込んだ。
「お前が10年前に見たのは本当に地球だったと思うかね?」
そう言われると、ユウには自信が持てなくなった。
「お前が産まれるよりもはるかに昔、ノアザーク号は地球を出発した。ここは地球ではない」
だが、この惑星にも文明が存在した。10年前、地上で確かに核戦争らしきものが起こり、交信を試みていたノアザーク号はいったんこの惑星に降下することを断念して、他の星を探していた。その後、この惑星の地上が落ち着くまで待って、降下したのだった。
「地上の生き残りの文明が細々と残っておる。彼らとコンタクトをとって、我々の内の惑星開拓移住希望者が共同で生きていくんじゃよ」
「ルナンはその事を知っている?」
「ルナン?ああ、彼か。知っておるよ」
ユウは考え込んだ。
「わしももう年じゃ。次の船長はアインに決まった」
「アイン?」
かすかにユウの記憶に残った男の姿が思い浮かんだ。
「新しい船長が宇宙船の新しい指導者じゃ」
「じゃあ、おじいちゃんはこの惑星に残るの?」
「お前の母親も一緒に降りるよ」
「お父さんは?」
「ノアザーク号に残る」
アインの片腕として任務につくらしかった。ユウは惑星に降りる前に一度だけ会っていくことに決めた。
「お別れのパーティーが公式行事で行われる予定じゃ」
「うん」
ユウはメイやドミニクたちのことを想い、そっと微笑んだ。