第十一章☆地球回帰教
船長命令で情報管理をしていたノアザーク号内部都市の政府が、ドミニクが撮影していた地上での様子を街角のビジョンで放映し始めた。
「地球だって」
「帰って来たんだ」
「記憶操作されていたんだって」
人々は口々にそう話していた。
「勝手に記憶をいじられるなんて、ひどいことだ」
と大人たちが怒っていた。
記憶がない間にどんな素晴らしいことや悲しいこと等が起きていたかわからない。人間のある種の財産を奪われたんだ、と言い出す人もいた。
「皆さん。ノアザーク号は皆さんの安全を第一に、乗組員一同、日夜頑張っています」
遥か地下の施設でいかに物資や生存に必要なものが生産されているか?そして、宇宙という過酷な世界を旅するためにどれだけの犠牲が払われてきたのか?そういったニュースが何度も流されるのが日常的になった。
「地球へ帰ろう」
というスローガンを抱えた宗教めいた団体が現れた。
ノアザーク号内部都市に地上へ降りようという考え方が流行した。
「ルナン、ひさしぶり」
中央管理局近くでユウとルナンがばったり再会した。
「よう」
「大騒ぎになったね。ドミニクがやり過ぎたかなって心配しているんだ」
「個人の責任じゃないさ。みんなが自分で考えなきゃならない」
「ぼく、見たんだ。地上に移民開拓する人員を募集している広告にルナンの名前があった」
「見たのか……」
「ぼくも一緒に行っていい?」
「家族の気持ちはどうするんだ?」
「ルナンがいなきゃ、嫌だ」
「……」
ルナンは目を細めて思った。ちょっとばかり情が移って世話を焼きすぎたかもしれないぞ、と。
「それは、女としての気持ちか?」
「!」
「だいたい、なんで男のふりしてるんだ?」
「強くなりたいから」
「手段が違うだろう?精神的にならお前は十分強いだろう」
「……」
「俺は男みたいな女は嫌いだ。次に会うときまでに女らしくなっててくれ」
「……」
「それはそうと、ユウ」
「なに」
「みんな地球へ帰ろうって言ってるけど、本当にここの惑星が地球って証拠はあると思うか?」
「えっ」
ルナンは足早に去って行った。
ルナンとわかれてから、ユウは中央管理局の端末で調べものをしようとした。しかし、検索ワードがことごとく拒否されて、情報らしい情報が入手できなかった。
「そうだ、図書館」
紙の本は逃げないと思った。
「こんにちは、メイ」
「あら、ユウ」
「至急調べたいんだ。キーワードは『銀河系』『太陽系』『惑星の数』……」
メイは分野別の分類番号を調べると、関連書籍の棚へユウを案内した。
「ありがとう」
「いいえ」
メイは初めて会ったときに比べると、成長したように見えた。司書見習いから司書補に昇格していた。
きっと彼女は地上へ降りるよりも、この紙の本の図書館に身を置くことを選ぶだろう、そう思われた。
「そうだ、ユウ」
「なに?」
「小鳥を一羽もらってくれない?」
「どうして?」
「あなたが寂しいといけないから」
「……」
メイはいつも右肩に黄色と空色の二羽の小鳥をとまらせていた。
「私だと思ってね」
そう言って、黄色い方をユウの肩にとまらせた。
「メイ……」
「いかなくちゃ。仕事があるの」
「うん。ありがとう」
ユウは落ち込みそうだったが、黄色い小鳥を見て、気を取り直した。
調べていくと、文献によって太陽系の惑星の数があやふやだった。時代によって冥王星が惑星に含まれたり、除外されたりしていた。
太陽系は銀河系の中心から離れた腕の部分にあるのはわかったが、あとはノアザーク号の操縦施設にある現在位置の情報が欲しかった。
正攻法では教えてもらえないのは十分わかっていた。
ユウは船長のアルナーに会いに行こうと決意した。