第四章☆メイン・ロードの怪物
図書館の一階で司書から熱いお茶を振る舞ってもらい、ユウたちは一息ついた。
全ての蔵書をもとの場所に戻すには、数日はかかりそうだった。
「手伝ってもらってありがとね」
と年輩の司書が言った。
「どういたしまして」
ドミニクが愛嬌よく応えた。
「……あの、ぼくはそろそろ行かないと」
ユウが席を立とうとすると、皆が今はまだやめた方がいい、と口々に言った。
「昼前なのにこんなに暗いなんて異常だし、ムービング・ロードも止まってるみたいだし、もう少し様子を見て待ってみたら?」
それは重々ユウにもわかってはいたのだが、どうしても胸騒ぎがして、家に帰りたかった。
「確か、非常灯があったですよね?」
メイが先輩司書に尋ねた。
「はい、これ」
持ってきてもらった携帯用の非常灯をユウに手渡してくれた。
「ありがとう、メイ」
「どういたしまして」
ユウは図書館から外へ出ていった。
「どうやって帰るつもりなんだろう?」
ドミニクがユウを見送るメイに尋ねた。
「地下のメイン・ロードを自転車で、だと思う」
「メイン・ロードだって⁉」
ドミニクがすっとんきょうな声をあげた。
「あそこには四つ目のでっかい怪物が出るから近づくなって、俺らの間では有名なんだぞ」
「まさか……」
メイは半信半疑で呟いた。
「えっくしゅ」
ユウは立て続けにくしゃみをした。
メイン・ロードを自転車で走っていたのだが、水道管が破裂している場所があって、そこを通らなければならず、全身びしょ濡れだった。
自転車の前籠にくくりつけた非常灯の光は、こころもとなかったが、それでもユウは家に帰ろうと懸命だった。
もしかしたらいつもいない両親が、家にいるかもしれない、そしてユウが向こうを心配なように向こうも心配しているかもしれない。そんな期待があった。
ごー
「?」
何かの音を聞いて、ユウは自転車をとめた。
脇道から巨大ななにかがやって来た。4つの光。
ユウは自転車から非常灯を取り外して手に持つと、ぐるぐる振り回しながらその怪物の前に歩みでた。
怪物はユウの手前で停止した。
「なんだ、ここで何してるんだ?」
怪物の上部のハッチが開いて、中から男が顔を出して言った。
「家に帰るところなんです。乗せてくれませんか?」
ユウが言うと、男は逡巡してから、身ぶりで中に乗るようにユウに伝えた。
「来る途中で水道管が破裂していました」
「場所を教えてくれ。ちょっと待ってろ、自転車を後ろの荷台に乗せてくる」
男はそう言って、手早く処理してくれた。
「びしょびしょじゃないか。風邪引くぞ」
奥からバスタオルを取ってユウの頭の上にバサッとかぶせてくれた。
怪物の正体は多機能の清掃車だった。
ユウは以前この車を見かけたことがあったので、怖くはなかった。
「ぼくはユウっていいます」
「俺はルナン」
ルナン?
ユウは眉根を寄せた。どこかで聞いたことがある気がしたのだ。
ハンドルを握るルナンはユウのことを知ってか知らずか、折しも街中に発せられた非常時のサイレンに気をとられていた。
「Ω対策が始まる」
「Ω対策?」
「って、あああ、お前、この車に乗ってると、シールドで記憶操作できないじゃないか」
「何が?」
「さっきの地震の記憶を消す電波が流れるんだよ。この車に乗ってると効かないがな」
「えっ」
「しょうがない。後で西方研究所で記憶処理してもらえよ」
西方研究所というのは、ユウの両親が勤めている場所の名前だった。
ユウはとりあえず、おとなしくしていた。
ただごとじゃないのだけはよくわかっていた。