その後も何度か目ぼしい探索者達に同行させてもらえないかお願いしてみた。
しかし、鈴音の他に瑠奈もいるとわかると否や――――
「すみませんやっぱ遠慮しときまぁあああす!」
「瑠奈って……ルーナだぁあああ!?」
「許してくださいぃいいい!!」
……といった具合で逃げていき、まったくパーティーが見付からない。
「あ、あれぇ……? 前はこんなんじゃなかったはずなんだけどなぁ……」
瑠奈が目を点にして佇む。
前というのはつまり、瑠奈が探索者登録したばかりの頃だ。
姫プレイで効率良く安全に探索するため、瑠奈は持ち前の美少女っぷりを最大限利用して、バンバン声を掛けてもらっていた。
それが今はどうだろう。
(まぁ、ワタシもそこそこ有名になって高嶺の花になっちゃったのかなぁ……)
間違いなくそうではない。
が、瑠奈は良いように勘違いしていた。
「ごめんね鈴音ちゃん。本当はこんなはずじゃなかったんだけど……」
「いえ、パーティーの選び方はしっかり学びましたから。次から活かしてみようと思います」
ありがとうございます、と小さく頭を下げる鈴音に、瑠奈はホッとしたように笑みを溢した。
「あ、それでこのあとどうする? パーティーは見付からなかったけど、折角目の前にダンジョンがあるし……行く?」
そんな、学校帰りに「このあと遊びに行く?」みたいなノリでCランクダンジョンの探索に誘われた鈴音は、思わず一歩後ずさった。
「えっ……二人で、ですか?」
「え、うん?」
対して瑠奈は、どうしてそんな当たり前のことを聞き返すんだろうと行った具合に首を傾げながら肯定する。
「えぇっと……私、いわゆる【魔法師】と呼ばれるスタイルでして。少なくとも前衛が二人は欲しいんですけど……」
【魔法師】――それは一般的に、スキル主体で戦闘を行う探索者のことを指す。
しかし、武器を手にとって戦う探索者と違って、誰でもなれるわけではない。
【魔法師】には素質がいる。
ごく稀に他人よりスキルの発現頻度が高く、生まれ持った魔力容量が大きい人がいる。そんな才能に恵まれた探索者が【魔法師】になることが出来るのだ。
スキル主体で戦うため、一撃一撃の火力や規模は武器による一振りより基本大きいが、裏を返せばスキルを発動しないと何も出来ないということ。
また、スキル発動には一定の時間が掛かるため、無防備になっている間にモンスターを引き受けてくれる前衛が必要となる。
「なるほど……」
「ですから、せめてあと一人――」
「――なら、私が前衛二人分の働きをすれば良いんだよね?」
えっ? と鈴音の口からひっくり返った声が溢れ出た。
「ほらほら、そうと決まれば早く行こうっ! 楽しい楽しい狩りの時間の始まりだよっ!」
「ちょ、まっ……瑠奈せんぱ~い!」
鈴音は瑠奈の手に引かれるまま、ダンジョンゲートを潜ることになった――――
◇◆◇
探索開始から約一時間――――
鈴音の言っていた通りの洞窟型ダンジョン。
道幅や天井までの高さも場所によって様々で、周囲の環境に応じて戦い方を変化させなければならない。
ゆえに、本来であれば壁や天井が探索者の動きの妨げとなる。
しかし――――
「あはっ、やっぱダンジョンはこうでなくっちゃねぇっ!」
幅およそ十メートル弱、高さ三メートル程の閉鎖空間で、瑠奈は大鎌を手に暴れ回っていた。
前方から群れを成して襲い掛かってくるのは、人間の膝下辺りまである巨大な蟻のDランクモンスター【ソルジャー・アント】。
一体一体の強さは大したことないが、見た目の通り群れを作って動く習性があり、ひとたび隙を見せれば物量で一気に押し切られる。
だというのに、瑠奈の動きは鈍らない。
普段通り――いや、普段以上だ。
障害となるはずの壁や天井を足場にし、この閉鎖空間で三次元的高速機動を行っている。
「よっ」
助走をつけ壁に足をつけては遠慮なく蹴り出し、
「えいっ!」
少し柄を短く持った大鎌でスピーディーかつコンパクトに巨大蟻を捌いていく。
そんな瑠奈の戦いっぷりを後ろで見ていたのは、長杖を構えてスキルの準備をしている鈴音だ。
(す、すごい……)
瑠奈が配信者ルーナであることは一目見てわかった。
実は投稿される動画もすべて見ているし、何ならルーナの名を大きく広めることとなったBランクモンスターソロ討伐時のライブ配信はタイムリーに見ていた。
(動画でもそうだけど、戦ってる瑠奈先輩って本当に悪魔みたいだから絶対敵には回したくないけど……味方だとこんなにも心強いんだ……!)
これでは前衛二人どころではない。
瑠奈一人で、そこらのCランク探索者前衛三人分くらいの働きはしている。
(でも、私だって……!)
鈴音はギュッと杖を握り込んで声を掛けた。
「瑠奈先輩っ、スキル撃てます!」
「了解っ!」
ザシュッ! と最後に瑠奈が大鎌を横薙ぎに払って、粗方の巨大蟻を吹っ飛ばしてから鈴音のもとまで飛び下がってくる。
射線上には誰もいない。
「いきます……《アイシクル・レイン》ッ!!」
瑠奈の周囲に形成された無数の氷の槍が一斉に放たれる。
空気を切りながら飛んでいった氷の槍は、押し寄せる巨大蟻を次々と串刺しにしていき、瞬く間に片っ端から黒い塵へと変えていった。
殲滅。
巨大蟻がいなくなって風通しが良くなった通路を呆然と見詰めながら、鈴音は心の中で感想を呟いた。
(凄く、戦いやすい……)
スキル主体で戦う【魔法師】はやはり、安定した前衛がいてこそ輝くことが出来る。
その点、瑠奈は普段ソロで自身のランク以上のCランクダンジョンに籠っており、本来であれば瑠奈一人で対処可能な相手を、今は鈴音を含めた二人で対処しているのだ。
当然、楽勝。
「やったね鈴音ちゃん!」
「は、はい……!」
瑠奈が持ち上げた手に応えてハイタッチを交わす鈴音。
しかし、そのあとで瑠奈が自分の大鎌の刃を見ながら顔を曇らせた。
「でも……何か切れ味悪いんだよねぇ~」
「あぁ、確かに。刃こぼれしちゃってますね」
「そうなの。前は全然そんなことなかったんだけど……スキル発現してから妙に切れ味落ちるの早くて……」
ここに来るまでに、瑠奈は一度スキル《バーニング・オブ・リコリス》を使っていた。前の日前の日と辿っていくと、もう十回以上はこの大鎌でスキルを使用している。
その度に、刃こぼれが激しくなっていったのだ。
「なるほど。それはもう武器のスペックの問題ですよ」
「武器のスペック?」
瑠奈が首を傾げると、鈴音が頷いてから説明した。
「恐らくその大鎌って市販のヤツですよね。使われてる金属は見た感じ普通の魔鉄鉱。価格は百万から百五十万といったところでしょうか」
「凄いっ! 大正解だよ!」
瑠奈が少し興奮気味に褒めると、鈴音は少し照れたように頬を掻いた。
「じゃあ、もっと高いヤツを買えばいいってこと?」
「うぅん……一概にそうとも言えなくて。まぁ単純な話、瑠奈先輩のスキルの威力に耐えられる素材で作られたモノでないと駄目ということです」
そこまで言って、鈴音は何か思い付いたように「あっ」と声を漏らす。
「瑠奈先輩、
「へ?」
「実は私の祖父母は職人で……もしかしたら、瑠奈先輩にピッタリの大鎌を作ってもらえるかもしれません」
「えっ、ホント!?」
瑠奈の目がキラリと輝いた。
最近では珍しい、純粋に興味や期待から来るキラキラした眼差しだ。
「どうします?」
「行くっ!!」
即答だった。