すべてを語り終えた
早梅は袖で口もとを覆い、言葉を失っているようだった。
「……弟たちを守れなかったのは、
そういって、黒皇はほほ笑む。
とたん、がたりと大きな音を立て、早梅が椅子から立ち上がる。
聞くに堪えない話だったろう。このまま置き去りにされたとて、黒皇に反論はなかった。
「どうして、笑うの?」
それなのに、黒皇が覚悟したことのひとつだって、早梅は叶えてはくれない。
「聞いていた私がこんなに悲しいのに……黒皇が悲しくないわけ、ないじゃないか」
「
「やめてくれ……ほかでもない黒皇が、その痛みにふたをしないでくれ!」
早梅が泣いている。桃色の唇を噛みしめ、瑠璃の双眸から、ぼろぼろと大粒の雫をこぼしている。
これに黒皇は、大きく動揺した。
「申し訳ありません、お見苦しい話を……」
「なんですぐ謝るんだよ、ばかっ!」
「お嬢さま──」
はたと呼吸を止めた黒皇は、そのときなにが起こっているのか、すぐに理解ができなかった。
ふわりと香る花の香り。やわらかい感触。
黒皇は抱きしめられていた。椅子に座っていたために、歩み寄った早梅に引き寄せられ、その胸へ顔をうずめさせられるかたちとなる。
黒皇の鼓膜をふるわせる早梅の鼓動は、トクトクトクと、すこしだけ足早だ。
「ねぇ黒皇、守れなかったんじゃなくて、守ってもらったんだよ」
「……どういう、ことでしょうか」
「弟たちが、命懸けで守ってくれた。それってさ、命懸けで
「おなじ、想い……」
「黒皇はなんで、黒慧を守ったの?」
「……もう
「うん、それで?」
「生きていれば、いつか幸せを、見つけられるはずだから……生きて、生き抜いて、ほしくて」
「じゃあその黒慧が、じぶんを責めて、辛そうにしてたら、どう思う?」
「悲しいです……とても……」
「
「──っ!」
「ねぇ黒皇、こんなに想われているのに、まだじぶんは価値がないって思う?」
「そんなっ……そんなことはありませんっ!!」
そんなことは言えない。口が裂けても、もう。
それがほかでもない、弟たちへの侮辱につながるからだ。
「気が遠くなるほどながい間、悲しんで、苦しんできたんだよね……話してくれて、ありがとう」
黒皇はずっと独りで堪えていたんだろう。
じっと独りで耐えてきたんだろう。
だから早梅は伝える。
「私だって黒皇が大事だ。弟たちに負けないくらい、たいせつに想ってる」
黒皇へほほを寄せながら、早梅も目頭の熱を感じる。
「離れない。離してやらない。なんたって私は、黒皇がいないとだめなんだからね」
「梅雪、お嬢さま……っ」
何事かを言い募ろうとした黒皇も、嗚咽にはばまれてうなだれる。
早梅の背中に回された腕は、痛いくらいに抱きしめ返してきて。
「要するに。黒皇が好きだよ、大好き!」
とどめのひと言に違いなかった。
早梅のやわらかなぬくもりに抱かれて、あふれる涙を、黒皇はもう、堪えはしなかった。