4-11 魔力測定(11)

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 翌日の朝は普通だった。グエンと一緒に朝食の準備をする間、クナルは暇そうにしている。お仕事禁止になって手持ち無沙汰になっているらしい。

 それならと朝食の準備を一緒にしてもらう事にした。昨日のコカトリスの肉と絞りたての牛乳。それに玉ねぎ、人参、ジャガイモとマッシュルームを出してクリーム煮にした。正直野菜嫌いなクナルは難しい顔をしていたけれど、一口味見させたら目が輝いていた。

 洗濯が終わって腰を伸ばしていると、何やら声がする。首を傾げた俺と、何も言わずにドアを開けたクナル。その先には沢山の衣服を抱えたリデルがいた。


「トモマサさん、助けてくださ~い」

「うわぁぁぁ! リデルさん!」


 布は重い。リデルは背は高いけれど屈強な騎士達に比べて細い。両手一杯に抱えている衣服の重みでヨタヨタしていた。

 そこをヒョイと持ち上げたクナルはまったく危なげが無い。そうしてそれらを台の上に置いた。


「はぁぁ……助かりました。クナル、ありがとう」

「そりゃ構わんが……これって」

「あはは、昨日の戦いで破れてしまった衣服なんですよね……」


 洗濯物を畳む台の上にこんもりとある衣服は、確かに所々破けている。洗濯はされたみたいだけれど。

 呆然と見ている俺。そんな俺の前でリデルはパンと手を合わせて頭を下げた。


「お願いです、トモマサさん! 繕うの手伝ってください!」

「……うぇえ! これ全部ですかぁ!」


 かなり、大変そうだけれど……。

 でもリデルは嘘を言っていない。真剣そのものの目だ。


「戦闘の後って、こうなんですよ。いやね、縫うのは得意なんですよ? 昨日も散々縫いましたし」


 それは人を、でしょうね。


「それでも流石に多すぎるというか。でも捨てるのは勿体ないし、まだ着れるし。こんなことで毎回廃棄してたら騎士団の運営費を圧迫するし」

「あ……」


 第一騎士団に比べて潤沢ではないらしい。だからこそ討伐した魔物の素材を売ったりもしている。よく見れば第二騎士団って、修繕の痕がかなりあるんだ。

 俺は……ちょっと嬉しかったりする。頼られるとか、それで誰かが笑顔になってくれるなら。誰かの助けになるなら。


「やりましょうか、リデルさん」

「! はい!」


 パッと表情を輝かせたリデルがちょっと、可愛いななんて思えてしまった。

 早速昨日の裁縫道具が役に立つ。裂けただけならそこを合わせて縫い合わせれば大丈夫そうだけれど、穴が開いたみたいな場所は流石に裏から当てないと駄目だ。

 そこで登場したのが既に着れないだろうと判断された同じような服。これを穴の大きさよりも少し大きめに切って裏から当てて縫っていく。


「トモマサさんはやはり器用ですね」

「こういうのは昔からで。オカンなんて言われていたんですよ」

「トモマサさんなら優しいお母さんになれそうですね」

「いや、そもそも男はお母さんになれないんで」

「え?」


 何気ない世間話……だったのだが。何、その不思議そうな「え?」という返し。


「男でも母親になりますよね?」

「え?」


 なん、ですと?


 信じられない顔でクナルを見ると、彼も頷いている。それは、いったいどういう!


「女神の祝福です。男同士でも結婚して愛し合うと、徐々にその力関係で体が変化していくのです。男でも産める体になりますよ」

「まぁ、生まれない組み合わせもある。鳥系は卵生だから、俺等みたいな胎生の奴等とヤッても子供はできない。同じ理屈では虫類系も無理だな」

「あぁ、でもは虫類は最近例外が出てきましたよ。産む方が胎生であれば可能性が出てきました。事例が数件」

「マジか。また進化したな」

「女神の加護は慈悲深いのですよ」


 なんて、何でもない事のように彼等は言うが……俺は受け入れ難しいんだけど!


「トモマサさんの世界では、違いましたか?」

「いや、まぁ、一般的では。恋愛は自由でそこは偏見がないんですが、流石に男が子供を産むというのは」


 店にくるお客さんの中にも、恋人が同性という人はいた。俺はそれに関しては何も思わない。いや、寧ろ少し羨ましかった。同性でも異性でも、幸せそうにお互いに笑ってご飯を食べて。そこに性別の問題なんてないんだろうなって、思えたから。

 俺はそんな相手、いた事がない。そもそも恋愛なんて考えもなかった。家族以上の大事なものはなくて、守っていかなきゃいけないものも多くて。

 気づいたら、一人だ。


「マサ?」

「あ……ううん」

「大丈夫か?」

「何が?」


 問い直したらクナルは心配そうな顔をする。それはリデルも同じで、何だか心配をかけてしまった感じで申し訳なかった。


「あの、素敵な事だと思います! 俺の世界じゃ……というか、俺の居た国じゃ同性で結婚とか、まだ難しくて。でも愛情で繋がっているって、凄く素敵な事だと思います」

「そうですね。ちなみに、トモマサさんは誰かとお付き合いした事とかは?」

「あ……いえ」

「そこの男など、いかがですか?」

「へ?」


 からかうように笑っているリデルの視線につられてクナルを見る。彼も突然のご指名に目を丸くした。

 俺と、クナルって事?


「いや、流石にないですよ! 俺みたいなおっさんじゃクナル可哀想です!」

「そうですか? クナルが懐いているみたいだから、ありじゃないかと思ったのですけれど」

「懐く?」

「その男、これで警戒心が強いのです。慣れた相手や仲間なら違いますが、一昨日会ってこんなにベッタリなんてある事じゃないのですよ」

「おい、リデル!」

「初心で可愛いんで、おすすめですよ」


 クナルが後ろで文句を言いたげに唸って、俺はなんだか誤魔化すみたいに笑って。

 確かにちょっと格好いいとは思うけれど、それはテレビの中のアイドルを見ている感覚で。自分がそこに関わるなんてこと、まったく考えも及ばなくて。


「自分が結婚してるからって世話じじぃするなよ」

「……え? 結婚? してるの?」


 唸るようなクナルの言葉に驚いて見ると、リデルはちょっと赤くなって笑った。

 でも、宿舎暮らしだよね? 仕事ばかりでお家に帰らないのは問題ありなんじゃ。


「あの、ご結婚されているならパートナーの所に帰らなくて大丈夫ですか?」

「あぁ、ご心配なく! 相手はデレクなので、毎日一緒ですよ」

「……えぇぇぇぇ!」


 今度こそ俺の思考は停止するのだった。