第8話 新たな仮面

 睡眠時間を削っての人助け&チート能力の加減を覚えるというヒーロの初日は散々な結果であった。


 あの後、逃げる様に屋根伝いにその場を離れ、誰も見てない事を確認してから、家まで瞬間移動ですぐに戻ったヒーロであったが、色んな意味で精神的ダメージは大きかった。


 だからすぐに眠れるはずもなく、その翌日である今日は寝不足のまま冒険者ギルドにやって来ていた。


「チートだからといって結果が付いてくるわけじゃないな……。これからはもっと慎重にならないと、昨日みたいな先入観だけで助けてしまって、当人達の思いを台無しにするような事が起きないように気を付けないと……」


 ヒーロはまた思い出してため息をついた。


 そして、いつも通り、Gランククエストを選んで受付に持っていく。


「大丈夫ですか? 顔色が優れないみたいですけど?」


 受付嬢のルーデがいつもと様子が違うヒーロに気が付いた。


「大丈夫ですが、大丈夫じゃないです。……あ! ……いや、大丈夫です」


 ヒーロは、素直に一度答えてしまい、それを訂正した。


「もし、Gランククエストが大変であれば、今から昇格してFランクのクエストで気分を変えるのも良いと思いますよ?」


 受付嬢のルーデはヒーロが連日のGランクのクエストで疲れていると勘違いしたようだ。


「あ、いえ、日中は死ぬ可能性からは極力離れていたいので結構です」


 ヒーロは日中チート能力が無いので、念には念を入れて警戒しているだけなのだが、受付嬢のルーデはヒーロが何かに怯えていると思ったのか、


「何か悩みがあったら聞きますよ? 冒険者のみなさんから相談を受ける事もギルドではよくありますから、……もしかして他の冒険者さんからのいじめとかですか?」


 と、小声で話しかけると、親身な姿勢を見せてくれた。


「あ、いじめとかじゃないです。ただ単に日中は危険を冒したくないだけなので」


 ヒーロの答えに、冒険者ギルドの受付嬢としてルーデは、危険がつきものの職業である冒険者から、あまりに聞く事が無い言葉に一瞬理解不能であったが、


「悩みがある際は申し出て下さいね。ギルドは冒険者であるあなたの味方ですよ……!」


 と、マニュアルに沿って答えるのが精一杯であった。




 この日のクエストは街中での荷物運びだったので、マジック収納持ちのヒーロには楽勝な仕事であった。


「あんちゃん、冒険者辞めて、商人やりなよ! 魔法収納持ちならそっちの方が、お金もいっぱい稼げるぞ?」


 と、スカウトされた。


 確かに……、無理に冒険者をやる必要もないよね?


「夜は、暇ですか?」


 試しに業務内容を聞いてみた。


「夜? 仕入れやその日の収益の計算で忙しいかな。あんちゃん、読み書きできるんだろ? それに計算も出来るみたいだし、それだけ教養があれば、商人の方が良いってもんよ」


「あー、夜は忙しいから無理なんですよ」


 ヒーロはまだ、チートでの人助けを諦めていなかった。


 それに、邪魔をする事になった黒装束の一団の事も気になっている。


 実はあの集団こそが、自分が目指す正義の味方の可能性があるのだ。


「夜は別の仕事でもしてるのかい?」


「ちょっと正義の味方の真似事を…」


「正義の味方? ああ、冒険者だものな! はははっ! ──あ! それなら子供のおもちゃだが、この仮面いるかい?」


 と、商人の男が一つの商品を出してきた。


 それは目と口の部分が空いてるだけの顔の形をした白い厚めの紙で作られた仮面であった。


「これは?」


 仮面というにはあまりにショボい、子供のおもちゃとも呼べない代物だったので、思わずヒーロは聞き返した。


「これはな。魔法紙で出来た仮面で、一時期はお祭りなんかでよく売っていたんだが知らないか?」


「え? 魔法紙の仮面?」


「そうか、知らないか。えっとな、こんな風に被って魔力を込めると……」


 商人が、説明の為にその白い紙の仮面? を顔に張りつけると肌に吸着して色が変わり、形が変化し、丈夫そうな立派な仮面に変身した。


「これが発売された当初は、画期的だと注目されたんだよ。その人の魔力や魔力量によって色や形、大きさを変化させるからオリジナル性があるしな。だが、見た目の割にコストは高いし、子供が使うには魔力を消費し過ぎると敬遠されてな。終いには犯罪者が利用するもんだから、人気も廃れて、今では売ってる所もほとんどない。だから逆に貴重なんだぞ?」


 主人は自分のところの売れ残り商品を、在庫処分、いや、恩を売る勢いで進める。


 お、これは夜の自分に必要なものでは!?


 ヒーロはこの面白そうな仮面に興味を持った。


「面白そうなので欲しいです!」


「だろ? 試しに付けてみな!」


 ヒーロは、ウキウキ気分でこの仮面をつけた。


 すると日中のヒーロの少ない魔力を、顔から勢いよく吸い取っていくのがすぐにわかった。


 仮面は一瞬、般若の様な仮面になったがすぐ、白い厚紙の仮面に戻ってしまった。


「ありゃ!? あんちゃん、魔力無さ過ぎるだろ! わはは! どうだ、気に入ったなら格安で譲ってやるよ。いや、欲しいよな? よし、報酬から仮面の分は差し引いておくぞ!」


 商人はヒーロの魔力の無さに笑ったが、ヒーロが気に入ったのが手に取るように分かったので、商人らしく有料で譲るのであった。


「お金取るんですか!? ……いえ、わかりました。頂きます!」


 ヒーロは商人のがめつさに驚きつつも、購入を決定するのであった。