わたくし、なんでも一番でないと落ち着きませんの。
ですから、一番にて参加させていただきますわ。
よろしくて?
ロースターナンバーワン。
わたくしたちが優勝いたしますの。
開会式で耳をそばだてれば、みなさん
「無、無理ですわ!」
嗚呼、御先祖様。
わたくしに勇気をくださいまし。
「どうしましょう」
「こうなれば私がお嬢様を抱えて」
「その作戦は安全面が」
全部聞こえてましてよ。
ヒソヒソと話しているおつもりでしょうけどね。わたくし、地獄耳ですの。大広間の対角線上にいるサボりメイド二人組の愚痴を聞き逃さず、お父様に密告するぐらいには。彼女たち、今頃どうしているのかしら。辺境で彷徨っていればいいのですわ。
「ルールの変更はできませんの!?」
飛行している輸送機からパラシュートで降下する。ただそれだけのことに、足がすくんで、腰を抜かしてしまったの。かわいそうなわたくし!
何度もバーチャル空間で練習してきたというのに、情けなくて、涙が出そうになるわね。
その他大勢の参加者の方々は、大空を舞った経験などないのでしょう。予行練習もしてきていないのでしょうね。この、突き刺すような空気の冷たさは、現実でしか経験できませんわ。もっと厚着をしてくればよかったと、わたくし、今ここで反省しますわ。
わたくしは、幼い頃からお兄様と自家用の小型飛行機で空中を散歩しておりましたの。ですので、上空から見下ろす遠く遠くの地表を、人生のうちで一回も見たことがない、というわけではないのに。
お兄様は「降ろして!」と泣き叫ぶ――いいえ、泣き叫んではおりませんわ! ちょっと、そう、お花を摘みに行きたかったのだわ! 機内にはお手洗いはありませんもの――わたくしを見て、豪快に笑っていらしたわね。懐かしいわ。あの頃に戻りたいわね。
最後にお兄様のお顔を見たのはいつだったかしら。
小学部から中学部に上がる、形式上の入学式が最後かしら。
わたくしは中学部から寮生活となり、お屋敷から引き離されましたの。それからは二人の執事のエーとビーが身辺警備をしており、一人のメイドのシーが日常生活の補佐をすることになりましたわ。
寮生活は初日で心折れましたの。お屋敷で暮らしていた頃とは違う、ちんまいお部屋が割り当てられましたのよ。このわたくしに!
あんな狭いお部屋、うさぎ小屋と変わりませんわ!
お父様にすぐさま連絡しましたの。例え朝どれほど早起きしなくてはならなくとも、寮生活ではなくお屋敷から通いたい。そう伝えましたわ。
――わたくしの要望は、秒で却下されましたの。
わたくしは
お父様のお考えはよおくわかりましたわ。
ならば、わたくしはわたくしの価値を、さらに上げますの。お父様が、手放したくなくなるぐらい。どれほど非道なことを言われましても、わたくしは、この家のものですの。他の家のお嫁にはなりませんわ。
この名字のまま、汚れなき肉体のまま。
わたくしは、お兄様と再び空の旅をしますの。
次こそはビビり散らかしませんわよ。
わたくしに忠実な三人と、このわたくし。
四人でウランバナ島にて開催されるこの〝デスゲーム〟に参加登録したのは、こういった経緯ですの。
おわかりいただけまして?
オーディションやら体力テストやらで、わたくしは止められませんの。今日まで、せせこましい寮生活も我慢しながら過ごしましたわ。お父様も、わたくしが引き下がると勘違いしたのでしょう。学生生活には介入されませんでしたわ。常に頂点を目指す者として、成績はトップであり続けたのが、好印象だったのでしょうね。わたくしはこれっぽっちも納得しておりませんのに。
「エー! あなた、飛行機の操縦ができるわよね!?」
「ええ。アリスお嬢様のお兄様と、お嬢様をよく乗せていましたね」
「ならば話は早いわね。今すぐ操縦席に行き、このオンボロを安全なところに着陸させなさい!」
わたくしの命令を受けて、エーは困惑した表情を浮かべてビーとシーを交互に見ましたわ。
何を相談する必要がありますの?
「お言葉ですがお嬢様、パラシュートを使用してのゲームスタートがルールとなっている以上、他の手段でウランバナ島へ上陸すると、ルール違反となるのでは」
エーとビーに目配せしてから、シーがわたくしに提言してきましたの。ルールは守らねばなりませんわね。わかりますわ。
一位であり続けるわたくしを妬むものは昔からあとをたたず、そのものたちはあの手この手でわたくしを一位から引きずり下ろそうとしておりました。卑怯な一手は、時にルールを無視しますわ。わたくしはその度に、正攻法で打ち崩してきましたの。例としては教師に報告よ。教師でダメなら教育委員会に言いつけていましたわ。
そんなわたくしが、ここでルールを破るわけにはいきませんわね。
「ですので、どうしてもアリスお嬢様がお一人で降下できないようなら、私めがお嬢様を抱いて降下します」
「このパラシュートは一人用ではなくて?」
シーに抱きついていてよいのなら、わたくしとしてはかまいませんの。スタートもできないまま脱落するような愚か者にはなりたくないですわ。
しかし、シーとわたくし、二人分の重量を安全に地表まで下ろすことができますの?
先ほどもビーが安全面を憂慮してましたわよね。
「……はい」
気まずそうな顔のシーに代わって、ビーが「アリスお嬢様。お嬢様はいつでもナンバーワンでしょう! 降下訓練もしてきましたし、いけますよ!」と励ましてきましたわ。そうよね。わたくしはナンバーワン。パラシュートのハーネスをギュッと握る。わたくしはナンバーワンなのですわ。
できないことなんてないわ!
「邪魔」
不意に背中を押されて、わたくしは、
【生存 100 (+1)】【チーム 25】