エピローグ『本当に本当のこと』

 ――ありがとう。


 私を選んでくれて、どうもありがとう。


 私の嘘にまんまと騙されてくれて、本当にありがとう。


 本当はね、父が死んだ時点で『三つの要素』は崩れていたの。どれか一つが完全に消滅しないといけないなんて、そんなハードモードじゃなかった。あのまま決断を引き延ばされていたら、流石のあなたも気づいたと思う。そういう意味では、あの晴って子は正解だった。無理やりにでも引き留められてたら、私はあの子を殺してた。


 どうして?分かんない?あなたが好きだから。


 父の目論見も最初から全部知ってたし、ついでにごめんね、素性を隠してママ・カルボナーラと大ア・マナ会を接触させたのも私。あと学校に結界張ったのも私で、もっと言うと父と私は最初から連絡を取り合っていた。あなたが私を連れ去ってすぐ。その時から父の前では『今もなお従順な娘』を演じてた。殺した時にやっと気づいたんじゃない?全部嘘だった、って。


 全てはあの一瞬、あなたを誰の手にも届かない場所へ連れ去るあの瞬間のため。そのために父の悲願もあなたの正義感も、全部全部利用させてもらった。だからごめんなさい、そしてありがとう。


 あなたはきっと気づいてない。男の子って皆そうなの。自分はあけすけなく誰かを好きになる癖に、他の人から向けられる好意には気づかない。


 晴って子は、あなたのことが好きだった。でも同じくらい、いえそれ以上に私もあなたが好き。大好き。自分以外の誰かに好かれているという事実だけでもう耐えられない。だってあなたは私を地獄から、欲にまみれた世界から助けてくれた運命の人。白馬の王子様。


 あなたのためにオミクロン・カルトを創った。


 あなたのためにオミクロン・カルトを捨てた。


 私が化け物になるのもどうでもいい。あなた以外の誰かが死ぬのもどうでもいい。あなたさえ、私の隣にいてくれたらいいの。


 大体、何で黒い渦に入ることがイコールで死ぬことになるわけ?のこのこ私についてきてさ、その先に何かあるって考えつかなかった?でもそういう間抜けなところも大好き。泣き虫なところも。雰囲気に流されやすいところ、意外とドラマチックなところ、好き好き好き。


 死んでも三角関係なんて許さない。あなたは生きず死なず、永劫私のもの。


 取り返せるものなら取り返してみろ。幽霊だってゴーストヘルパーだって殺してやる。


「愛してるわ、天照」

「――――」



⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯『本当に本当のこと』了


【第一章】完