第3話

サロメは、出番を待っていた。


広間の隣にある、控え室で、入念に、まとうヴェールの重なり具合を確かめる。


胸部には、ビーズとスパンコールで飾られた下着の様なトップスを身に付け、ドレープをたっぷり取ったヴェールを何枚も腰に巻き、コインが垂れる様に縫い止められた腰ベルトで押さえている。


肩から、全身を包み込むように、ヴェールをまとってはいるが、サロメのはち切れんばかりの、豊満な身体からだラインは浮き出し、甘い密を求める者達おとこたちの視線を釘付けにするだろうと想像できた。


すべては、舞った時の、ヴェールの広がりを考えてのこと。動きの自由を効かせる為だった。


本来、身に付ける衣装と呼ぶものは、この舞いの邪魔になりかねず、サロメは、あえて、ヴェールを重ねるだけという、手法を取っていた。


隣の広間から、マダムが客を煽るかの様に物語っている声が流れてきている。


「まあ、さすが、マダムですね。お客様を惹き付けるのが、本当におじょうず!」


ヘロデアが、高揚気味に、マダムを称えた。


(この子は、何も、感じていないのかしら?)


館の下働き、特に、女達の身支度を任せられているヘロデアこそ、誰よりも早く犠牲者を発見しているのに。


横目で、マダムに陶酔するヘロデアを見ながら、サロメは館で起こっている事を思う。


──女は決まって、ベッドの上で、喉元を切り裂かれる。


何一つ、抵抗した形跡がないというのだから、寝込んだ所を襲われているのだろう。


客を見送り、仕事を終えて、気の緩んだ女は何者かに……。


そして、朝の支度の為に、部屋を訪れたヘロデアに、非業の姿を発見される。


ヘロデアが、マダムに、口封じを兼ね、とりこまれているのは、間違いない。事実、館にいる者は、皆、何もなかった様に振る舞う事を強いられていた。


とはいえ、まだ幼さの残る彼女は、本当に、何ともないのだろうか。


訪れた部屋で、いきなり無惨な女の姿を発見し、更には、血みどろのシーツを片付け、何事もなかった部屋に、しつらえ直す。


作業するヘロデアは、心細さや、愚痴のひとつも、吐き出さない。


それだけ、マダムに買収され、丸めこまれているのだろう。


この場所に引き取られる。まともな暮らしなどしていないはず。幼く見えようと、悪度胸が備わっているのだろう。


「サロメ様!銅鑼が鳴りましたよ!」


ドアの向こうで、男達がサロメを待っている。


ヴェールを軽くはためかせ、足さばきを確認したサロメは、広間へ続くドアへ向かった。