【 男の子ってこういうのが好きなんでしょ? 】……ってバレンタインにコスプレしてチョコを誰かに渡したい年下幼馴染に付き合ぷり現実世界·ラブコメ2024年09月21日公開日8,041文字完結
■  ヤボったいおじさん眼鏡!? 小学4年生の女子に心をエグられる発言をされた!  ■          
オレの隣の家には、かなり年下の幼馴染の女の子が住んでいる。
この子は面白い子で、たまにバレンタインデーに面白いコスプレをしてくるんだ。
次のイベントはどんな格好してくるんだろう。数年に一度やってくるイベント、オレは密かに楽しみにしている。

※短編ですが、長くなったので前後編にしています。
男の子ってこういうのが好きなんでしょ? (前)

「男の子ってこういうのが好きなんでしょ」


「……はい?」


 学校からの帰り道に遭遇した隣家のあかねちゃん(6歳)が、オレを見るなりそう言ってきた。


 上記のように言い放ったアカネちゃんは、大きなお友達が好きそうな魔法少女の格好をしていた。

 ちなみに今12歳中学生のオレも卒園した幼稚園の年長さんだ。


「好きでしょ?」

「えっと」


 オレは自分の黒縁メガネをかけなおして、改めてアカネちゃんを見る。


 たしかに、幼稚園の女の子がフリフリでパステルピンクの服を着て、魔法少女のようなろっどを持っているのは……可愛いとは思うが、その服装を"男子"が好きかどうかと言われると。


 ――??


 オレは首をかしげた。

 誰か好きな男の子にでも見せたいのだろうか。

 それでオレに意見を聞いてる?


 幼稚園児のアカネちゃんは今のところ、容姿はカースト上位にいると思うから、こんな格好しなくても好きな男の子の心のふところには入りやすいんじゃないかとは思うが。


 そして、人の好みは千差万別せんさばんべつ

 うっかりオレが、良い、と言っても、ターゲットがそれを好むかどうかはまったくわからない。


「それ流行ってるの? 可愛いね。ただ、好きかどうかは、その男の子によるんじゃないかな? その男の子に思い切って聞いてみたら?」


 オレはしゃがんで、アカネちゃんの頭をヨシヨシしながら言った。


「!!」


 アカネちゃんが、涙目になってプルプルしている。

 うわ。


「えっと、ゴメン、直接その子には聞きづらいよね」


「り……りょうにぃにと……お、おなじこと言ってた……」


「そ、そうか。その子はわからなかったんだね。その子に聞きたいのにね」

 そうか、その男の子には意図が伝わらなかったのか。

 せっかくおめかししたと言うに、可哀想に。


 だが、それをいった瞬間、アカネちゃんの顔が、更に真っ赤になった。そして。


「……か」

「ん?」


りょうにぃにのばかあああああ!! うわーーーーーん!!」

「えっ……えええ!!」


 ――アカネちゃんは、ばしぃー! と、プレゼントの包みのようなものを地面に叩きつけると、自宅へ走っていった。


 うわあ、オレ……あとで泣かせたとかって、母さんに叱られるかも?

 参ったな。

 なんで泣いちゃったんだろう。

 悪い対応したつもりはなかったんだが。


 オレは地面に叩きつけられたプレゼントを見る。


 カードが付いていた。オレ宛だ。


「あ、そういえば、明日ヴァレンタインか。なるほど、オレで練習したかったんだな」


 しかし、練習は上手くいかなかったようだ、申し訳ない。



※※※※※


 4年後。オレは高校生一年生になっていた。

 今日はバレンタインだった。

 オレは手提げ袋を下げていた。

 なぜか、今年は何故かいっぱいチョコをもらえてしまった。


「男の子ってこういうのが好きなんでしょ」

「ん?」


 背後から声が聞こえたので振り返った。


「あれ、あかねちゃん? どうしたのその格好」


 アカネちゃんは今、小学校4年生だ。

 幼稚園から大分成長したけど、容姿は変わらずカースト上位、つまり相変わらず可愛い。


 そのアカネちゃんが、スカート短めのメイド服を着ている。頭には猫耳。


 「可愛らしい衣装だね」


 でもこの状態で一緒にいると、これは事案として通報されかねない。

 他の通行人になにかヤバいサービスを受けているように見られるかもしれない。


 オレもまだ未成年とは言え、もう高校生だしな。



「お、男の子ってこういうの好きなんで、しょ……しょ……」


 手でハートマークをつくる茜ちゃん。

 ん? そういえば前にもこんな事あったような。


「男の子によるんじゃないかな?」

「……!! ま、またそのパティーン……ッ」


「?」

「こ、これ!! 持っていってもいいんだよ!!」


 ハートの形のチョコを、可愛らしいポーズを取って手にもっている。


「あ、今日、バレンタインだもんね。あかねちゃんもくれるの? ありがとう」


 オレは素直に受け取ることにして、手を伸ばして受け取った。


「へ? ……あかねちゃん、、、も?」

「うん。……そうだ、交換しよう。あかねちゃんこの袋の中から好きなチョコ持っていっていいよ」


「な、なんすかそれ」

「ん、バレンタインだから、クラスの女子がくれたんだよ」

「こ、こんな、いっぱい………ふぁっ……」


 あかねちゃんが固まったまま、オレの顔を見て涙目になった。

 ど、どうした。


「……なんで」

「ん?」


「なんでコンタクトにかえちゃったのよおおおおおおおお!! おにいちゃんなんて野暮ったいおじさんメガネをずっとしてればよかったんだよおおおおおおお!!!」


「はうあ!?」


 ばしーん! またプレゼント包みを地面に投げつけて、アカネちゃんは自宅へ走って行った。


 小学四年生の女の子に心をえぐられる発言をされた!!

 野暮ったいおじさんめがね!?


 安いからと、親によってその眼鏡を使わされていたオレの心は、深いダメージを負った。

 まさか小学生の女の子にそんな事思われていたなんて!!


 あかねちゃんは自宅へ走っていった。

 おじさんメガネの言葉に傷ついたオレはその場で石化し、そのまま300年くらい経つかと思った。

 誰か解呪してくれ。



 ※※※※



 次の日の朝。


「男の子ってこういうの好きなんでしょ」


 家の前にアカネちゃんが立って、ランチバッグを渡そうとしてきた。


「お、おはよう、アカネちゃん」


 昨日のダメージが脳裏に蘇る。

 しかしオレは年上のお兄ちゃんだ。しっかりしないと。


「お、おはよう」

 アカネちゃんも挨拶してくれた。


「昨日はチョコレートありがとうね。美味しかったよ」

「あ……涼にぃに、食べてくれたんだ。そか……」


 アカネちゃんは小さい声でそう言った。

 昨日のこと気にしてるんだな。

 おじさんメガネと言われたことは、ダメージは負ったが怒ってはないから、アカネちゃんは気にしないで欲しい。


 ん? そういえばこれは……。オレはアカネちゃんが差し出してきたランチバッグを見た。


「これは、おべんとう?」

「そう」

「オレにくれるの?」

「す、好きでしょ」


 ひょっとして昨日のお詫びかな?

 チョコ貰ったし、お詫びとか、別にいらないんだけど。


「でも、悪いよ。」

「……っ」

 あかねちゃんが口をパクパクしている。


「れ、練習だから!!」


「弁当の練習かな? そっか。それにもう作っちゃったのなら、食べない訳にもいかないし、今日は貰うね。ありがとう。帰ったら感想言うね」


「感想っ!?」

「うん。練習ってことは誰かに渡したいんだよね?」

「がああああああああ!!!」

「!?」


 あかねちゃんがいきなり怪獣のような声を出したかと思うと、また彼女は自宅へ走っていった。


「……今更だけど、あかねちゃんって不思議な子だな」



 オレはその後、登校し、昼休みに弁当を開けた。


「……おにぎりと、ウインナーが……ウインナーだらけだ!? あ、卵焼きがあった」


 うーん、まあ確かに黄金メニューと言えば黄金メニューだともいえるが、野菜が一つもないな。

 ……しかし、朝のあかねちゃんの様子からして、それは指摘しないほうが良いかも知れないな。

 まだ小学生の女の子だしな。

 オレは黙っている事にした。


 そして、オレは学食だけだと、いつも足りなかったので、ありがたくそれを頂いた。


 その差し入れは弁当は、なんと、オレが高校を卒業するまで続いた。

 メニューも変わることは一切なかったが、ずっと続いたのはすごいな。


 弁当のお礼は定期的に一応した。

 リクエストを聞いて、ご両親のかわりに買い物に付き合ったり、遊園地連れてったり。


 ……あれ? それにしても小学校は給食あるし、誰に渡しているんだろう。

 オレのは残りらしいし。

 ……あ、お父さんかな?

 あまりにも長く作ってくれるから、適当なタイミングで悪いから、と断ろうとしたら、余りもの詰めてるだけだから!! とつっぱねられた。



 ※※※※


 4年後。オレは大学生になっていた。


 大学1年生になった時、初めて彼女ができた。

 その彼女を初めて自宅に招こうと、一緒に手を繋いで歩いていた。

 少し恥ずかしかったが、オレも初めてできた彼女だし、それが幸せだった。


「男の子ってこういうのが好きなんでしょ。こふー…こふー…」


 はっ。このセリフは。


 振り返るとそこには。


 ――ダースベイダーのコスプレ(フル装備)の恐らく……アカネちゃんが立っていた。

 手にはライトセイバー持ってる。


「こふー……」


「かっけぇ!!」

 オレは思わず叫んだ。


「な、なに!?」

 彼女が動揺している。しまった。


「あ、さき、ごめん。近所の幼馴染の女の子だよ」

「ああ、こないだ言ってた面白い子ね」


 ふふ、と咲が笑った。

 和む。


「お、おもしろっ!?」


 ビクンッ! とダースベイダーが震えた。


「うん、たまに面白いバレンタインイベントやってくれる幼馴染がいるって彼女に話したんだ」


「カノジョッ!?」


「あ、はじめまして。えっと……アカネちゃん? よろしくね」

 咲が微笑んで挨拶する。


「ふぉ………ふぉーーっす……! オラ、あかね……」


 なんか違うアニメの主人公とフォース挨拶が混ざってる。


「コポォ……」


 ダースベイダーは、そう言うとライトセイバーを地面に引きずりながら、自宅へフラフラ帰っていった。



 あれ、そういえば今年はチョコ貰えなかったな。

 ダースベイダーのコスプレにお金かかりすぎたのかな?

 でも今日のコスプレ、今までで見せてくれた中で、一番楽しかったな。




 数カ月後、母親にアカネちゃんのお見舞いに行け、と言われた。

 栄養失調で入院したそうだ。

 え? やばくないか? 大丈夫なのか、アカネちゃん。



 ノックして、どうぞ、と言われて病室に入る。


「あ……涼にぃに……」

 アカネちゃん、痩せこけてる。


「うわ、ずいぶんと痩せたね、アカネちゃん。話は聞いてたけど……大丈夫?」


「あ、うん。ふふふ、にぃに、私は本当の意味で、んでれになっちまったよ……ふふふ」

「やん……?? なにそれ」

「あ、ごめん。にぃには知らなくていいぉ……」


「悩みとかあるなら聞くよ? おうちの人とかには何も話さないんだって?」

「ジョブ、ジョブ。私はそのうち不死鳥のように蘇る。時がくればな」


 ……何言ってるのかわからない。

 ジョブって大丈夫って意味か? 時とはいつなんだ。

 ……これは重症だ。


「あ、そうだお花持ってきたから生けたいんだけど……あ、アカネちゃん、こういう花好き?」

 花の種類なんて、よくわからないから、店員さんに予算内で適当に作ってもらった。


「!! 好き!! というか、今好きになった!! にぃに、ありがとう!!」


 ぱっと明るい笑顔を見せてくれた。

 お菓子とかとどっちにしようかと思ったけど、栄養失調って聞いたし、病人に勝手にオレが選んだ食べ物は良くないかと思って花にしたんだが、これにして正解だったな。


 オレは、アカネちゃんが退院するまで、たまに顔を見せに行った。

 オレが来た日は食事をちゃんと取るのだと、アカネちゃんのお母さんに感謝された。

 そうか、オレが行くことで気分転換になってるのかな?

 それなら良かった。