第31話

 『分かりました。契約書か領収書がどこかにあるはずなので、カルテチェックより先にそちらを探します。』

 『ありがとうございます。よろしくお願いします。』

 松前へメールを送り返し、一息つく。傍らに積んだ新聞は、留守にしていた間のものだ。実家でも読んだが、うちの事件は見事に隠され地方版の片隅に『猟銃で家族を殺害』と出ているのみだった。認知症を理由にしたためだろう、犯人も殺害された家族の名前も書かれていなかった。

 代わって大きく長く報道されていたのは、水薙町で起きた放火殺人事件だ。こちらは被害二軒、子供を含む住人数人が命を落としたこともあって、現場写真入りで大きく報道された。犯人は近くに住む女性で、放火後に焼身自殺したらしい。

――悪いな。一番つらい時に何もしてやれなくて。

 先週土曜日に連絡をくれた矢上は、訃報の報告に苦しげな声を出した。でもその連絡は、怪我の様子覗いと絵美子の閉鎖病棟への入院を知らせるものだった。あのあと尋常ならざる妻の姿に不安を抱いた矢上は、精神科の夜間救急へ向かったらしい。苦渋の決断だったはずだが、あれ以来連絡がないから落ち着いているのだろう。

 だから、あとは「私」だけだ。

 久しぶりに響いた呼び鈴に、びくりとする。吉継がいれば頼みたいところだが、今は杼機の家へ行っていて留守だ。腰を上げて、リビングへ向かった。

 マスコミや警察ではないと願いたいが、分からない。おそるおそる、インターフォンのモニターを確かめる。映っていたのは、和徳だった。