第8話

 優雅に響くバロック音楽に目を覚まし、ゆっくりと体を起こす。目をこすりながらスマートスピーカーのアラームを止め、一息ついた。部屋は昨日寝た時のまま、点けっぱなしの電気が隅々まで照らしている。肌寒さにさする腕は薄いパジャマ一枚で、ガウンはベッドの上だ。あれは、夢だったのだろうか。

 いやな夢を見て、吉継の電話で目を覚まして、話をして、そのあと。

 パジャマのボタンを外し、おそるおそる確かめた肩に痕はない。実際は通話中に寝落ちでもした、ということにしておけばいいだろう。もう思い出したくない。蘇りそうな記憶に顔をさすりあげる。大丈夫、と励ますように声を出し、温もったベッドを下りた。