間話「悶々とした激情」


 トニー・レイモン視点。



 やけに受け入れる体制が整ってる。


 この避難所はどうやら既に物資の備蓄があったようで。

 この規模の避難民を受け入れる準備が良かったと思う。

 もちろんこれは俺の感覚だから。

 これが一般常識なのかもしれないけどさ。

 でもこの待遇は、ちと緊急時にしては準備がいいように感じた。


「――――」


 現在、ファイトフィールドの外に置かれた避難所には数百ほどの人が居て、そこに俺は残されていた。

 カリスとは少し前まで一緒に行動していたけど。

 どうやらカリス側で作戦行動がある様で、一度別れることとなった。

 まあ。


「はぁ」


 正直まるで納得いってない。


 俺はまだ戦える。

 魔力もまだまだあるし、さっき魔物相手に通用するのも確認した。

 もちろん俺が子供なのも分かってる。

 でもこういう死線っていうのは、なんせこれが初めてではない。


 俺だって戦力になる。

 戦力は多いに越したことはない。

 それに、今戦ってる相手があの死神ならさ。

 北の街で戦った野郎なんだよな?

 俺くらい、リベンジしてえ。


「…………はぁ」


 でも出しゃばるのはよくない。

 俺も子供だ。だから子供を弁えている。


「ここは大人しく休んでおいた方がいいんだろうな」


 なんて自分に見切りをつけて、俺は地面に座り込んだ。


 はぁーあ、サヤカはどうしてっかな。

 それに北の街のみんなも生きてるかな。


「……」


 この戦いはどこまで広がっているんだ。

 分からねぇな。でも聞いてる感じ、あのファイトフィールドつうので魔物を隔離しているってんだし。

 でもそれって隔離してるだけで無力化しているわけじゃねえ。

 ならまだ、一安心できないんじゃないのか?


 ふむ……。


 こんな時、サヤカならどうするんだろうな。

 あの時と同じように、前線に立って戦うのかな。

 まぁあいつすげえから同じことを俺が出来るわけねぇし。

 俺が出しゃばっても、仕方ないって……。


「――――」


 ………。


「あぁー! もう!!」


 俺は立ち上がった。

 流石に腹の虫が収まらなかった。


 杖を右手に持って、人を掻き分け、そして広場へ出た。

 空を見上げると、高く見えるのは壁だった。

 薄い光で構成された壁、その先では煙が上がっている。

 そして外に出て気が付いた。

 地面が揺れている。


 激闘の余波だろう。


「死んだら死んだで無様だろーな」


 って言いながら俺は自分を笑った。


 俺は逃げ惑う人を掻き分け、避難所を飛び出し。

 そして――。


「え」


 前方、建物の影になっていて見えにくかったが、近づいて気が付いた。

 色んな店が並ぶ大通りの真ん中にぽつんと人影があった。

 数十メートル先にはファイトフィールド、だが影はその手前で。

 立っていたのは。


 小さな男児だった。


「あぁもう。魔物居すぎて全然結界内に入れないじゃん!! 早く援軍を伝えなきゃいけないのに」

「――――」


 彼は良く知ってる人物だった。

 そして近づけば近づく程、彼の目の前のファイトフィールド内に見える黒い壁が。

 ――全て魔物の影であると理解していった。



「なんだよ、相も変わらずカリスは可愛いな」


 なんて冗談をこぼしたくなるくらい、その光景は面白かった。


「――――」


 俺はそこで止まっている彼を見て、杖を強く握って。

 ゆっくり階段を登った。





 こうして、トニーらの王城へ行く物語が始まる。