九十八話「崩壊と白い世界」





 ――ドクッ。



 赤い瞳が良く見えた。

 その男の顔を。

 至近距離からまじまじと見たのは。

 初めてだった。

 意外と色白で、

 顔が整っていて、

 耳には銀色のピアスをしていて。

 そして、ああ、そして――。













「……あ? お前、なんで死なない?」

「え?」


 ドミニクのその声に、俺は閉じた瞳を開いた。

 赤い瞳が目の前にあった。

 死を悟ったから目ぇ閉じていたんだが。

 おかしいな、まだ、死なないのか?


「――ちっ」

「お、おおっと!」


 いきなり俺は首元を掴まれ、また2メートル程飛ばされた。

 痛かったけど、今回は俺を傷つけるような感じじゃなかった。

 どちらかと言うと、無理やり遠ざけようとした感じだったな。

 どういう事だ?


「何故俺を殺さなかっ」

「お前を殺せるならさっさと殺してるよ!!」


 黒髪の男は血管を浮かばせながら、焦ったように汗を流していた。


 え、ドミニクがキレてる。

 なんでだ?

 どういう事だ……。

 何が起きている?

 何が起こっているんだ?


「――――」


 ――と言うか、今俺、ドミニクの目を見ているよな?


「どうしてお前は、俺の魔眼が通用しない?」

「……しらねぇよ」


 ドミニクは片手で顔を覆いながら、俺に赤い瞳を覗かせてきた。

 うん。目が確実にあっているのに。

 どうしてだ。

 何が起こっている?


「ご主人様……?」

「来るなアーロン……近づくな」


 俺の背後で小さくアーロンの声がした。

 なので俺は片腕を伸ばし、静止の合図を作る。


 少なくとも、今は来ない方がいい。

 何かおかしなことが起こっているんだ。


 さっきヴェネットに魔眼が使用された時は、ちゃんと魔眼の力は発揮していた筈だ。

 だから魔眼がおかしくなった。とかそういうのじゃないのだと思うが。

 ……どうして俺だけ効かないんだ?


「……まさか」

「?」


 ドミニクはハっとし、いきなり純魔石の裏の方に手をかざすと。


「――ッ」


 ドミニクが手を右へ勢いよくずらすと、ゴドッ、と言う音と共に純魔石の後ろから何かが倒れてきた。

 倒れたのは男が縛られた椅子だった。


「あれは……?」


 俺はその特徴的な頭部に見覚えがあった。


「アルセーヌ?」

「っ………ッツ!!」


 なんと、アルセーヌは既に捉えられていたのだ。

 やっぱりさっきの言葉は本当で、他の人魔騎士団のメンバーには既に手を打っていたと言う事か。


「………」


 ……今しかないか。



――――。


 アルセーヌ視点。



「おい兄さん」

「っ……なんだよいきなり」


 俺は身動きが取れないまま、口枷をドミニクから乱暴に取られた。

 ったく、扱いが酷いぜ。


「魔眼の仕組みを教えろ。さもなきゃ、お前の仲間を殺す」

「随分と焦ってるじゃねぇか」

「いいから! 早く答えろ」


 そうか、魔眼の仕組みまでお前は理解していなかったのか。

 まあこの仕組みに関しては俺がこの7年で習得した事に関連しているし。

 7年間、己の魔法強化に努めていたお前には、分からなかったのかもしれないな。


「魔眼は一体何なんだ! 俺らの魔眼は、一体……」

「簡単な話だよ。魔力だ」

「は……?」


 ドミニクは知らなかった。

 いいや、普通は知らない様な事だったのだ。


 7年間『錬金術』を学んでいたアルセーヌだからこそ知りえた、そんな知識だった。


 死を齎す魔眼。

 睨むだけで心臓を潰し、【魔力】を暴走させ、相手に大きな不幸を齎す目。

 俺たちの魔眼は相手の【魔力】を暴走させる。

 【魔力】が循環するのは心臓に近い部分だ。

 暴走すればそこが膨張し、心臓が破裂すると言う仕組みだ。


 そう、だから、魔力なんだよ。

 魔力を暴走させて相手を死に至らせる。それが俺らの魔眼の能力。

 だから、


 ――魔力を持っていないケニー・ジャックには、魔眼が効かない。


 俺も最初は気が付かなかった。

 でも、よくよく考えてみたんだ。

 それで気が付いた。ケニー・ジャックには魔眼が効かないんじゃないかって。

 そして試した。


 あの夜。酒を飲みながら、俺は試した。

 もし魔眼が効くのならばあの場でケニーは死んでいたが。

 死ななかった。

 だから、託すことにした。


「お前もサザル王国で変な遊びをしず、

 自分を見た者を素直に魔眼で殺そうとしてれば気づけたかもしれないな」

「……っ」

「おぉーいおい? 焦ってんのかドミニク」


 そう俺が言うと、殺意が籠った目で睨まれた。

 へへ。これが、俺の切り札よ。


 魔眼が効かないと言うだけで、存在自体が弱点になった。

 きっとこれから起こる事はドミニクによる弱点の克服。

 克服、抹消。ケニーを殺そうと躍起になる筈だ。

 だが、やる事はもう済ませている。


「悪いなドミニク。既に、色々根回ししてんだよ」

「は?」

「ドミニク・プレデターァ!!」


 その声はドミニクの背後から響き渡った。

 その声に、黒髪の青年は嫌な顔をしながら振り返った。

 大体、男から5メートル程だろう。その先に、また違う男が立っていた。


 男は短剣を握っていた。

 黒髪が揺れて、少し髭が生えた顔で、覚悟を終えた視線をドミニクに向けていた。

 男は、剣を構えた。

 男は、全身に力を籠めた。

 男は、ニッコリと笑った。


「うおおおおおおおお!!!」



――――。



 ケニー視点



 俺は剣を振りかぶりながらドミニクへ近づいた。


 作戦はある。

 既にアーロンとは話を付けた。

 あとは実行するだけ。


 この作戦、言ってしまえば俺の頑張り次第だ。

 俺がどれだけこいつの注目を浴びるか、こいつの気を逸らせるかの賭けだ。


 稼ぐ算段も考えている。

 これはアーロンの入れ知恵だ。


『どんな強い魔法使いでも、超近距離に詰められたら魔法を行使できない』


 アーロンと言っても、元々はケイティの言葉らしい。

 ケイティと修行している時に、アーロンは魔法使いの弱点としてそう教わったのだと。


 神級魔法使いのケイティがそう言うんだ。

 どんなに魔法に長けているドミニクでも、俺が至近距離で攻撃を続ければ動けないはずだ。

 さっきまでは魔眼を警戒していた。

 だが、どうゆう事だか俺に魔眼は効かないらしい。

 だから、それをうまく使う。


 さあ、睨めっこを始めようか。ドミニク。


「おらああああ!!」

「っ!!」


 思いっきり地面を蹴り上げる。

 脇腹の怪我はアーロンが治癒を掛けてくれたから既に完治している。

 それに先ほどみたいに、魔眼を気にせず戦える。

 それだけで俺は、まだ戦える。


「――――」


 一撃目は避けられた。

 いいや、避けていてくれた方がありがたい。

 目的はあくまで時間稼ぎだ。


「はああ!! おらああ、ていや!!」

「――くっ」


 俺がこのままずっと強襲を続け、時間を稼げれば。

 後は頼むぞ、アーロン。



――――。



 アーロン視点。






「やあ、アーロンくん」

「大丈夫ですか!? アルセーヌさん!!」

「しっ、静かに」


 ……つい、大きな声を出してしまった。

 やっぱりドミニクは魔眼の件で動揺している。

 こっちの、僕の動きにまだ気が付いていない。

 やるなら今だ。


「今すぐアルセーヌを逃がします。増援を呼ぶか、魔法で加勢――」

「俺は純魔石を止める方法を知っている」


 すると、アルセーヌさんは突然そう言い放った。


「……それは、本当ですか?」

「この場面で嘘を付けるほど、俺は歪んでねぇよ」

「一体どうやって……」

「いいから早く縄と取ってくれ。説明している時間は無いぞ」


 その通りだ。

 ご主人様も無敵じゃない。

 気を引いてもらっている間に。僕はやりベきことをしなきゃいけないんだ。


「はい、動けますかね?」

「よっこらせ」


 アルセーヌさんは起き上がった。

 倒れた椅子に縛られたままでいたんだ。少し体が痛そうだった。

 イタタと言いながら、は両足で立ち上がった。

 すると、アルセーヌさんは胸ポケットに手を伸ばして。


「アーロンくん。君にこれを預けるよ」

「これは……?」

「予備の魔石さ。本当なら俺が使う用だったんだが、ケニーに渡してきてくれ」


 胸ポケットから出してきた魔石はご主人様が使っていた魔石とは違い。色が紫だった。

 種類が違うのだろうか?

 それとも魔力の純度の問題……?

 何にせよ魔石がないご主人様にとってこれは戦況をがらっと変えてしまう程大事な物だ。

 届けるなら、早くしなきゃ。


「預からせていただきます」


 さて、僕は加勢に行こうと思う。

 多分だけどご主人様にも限界はある。

 先ほどヒールを掛けた時、ご主人様は冷や汗をかいていた。

 きっと、ギリギリなのだ。


「……」


 でも僕に出来る事は限られている。

 ご主人様はドミニクの魔眼を見ても何ともないみたいだけど、多分僕は違う。

 目を見てしまえば。ヴェネットさんの様に僕は死んでしまう。

 でも、


 『どれだけ時間を賭けてもいいから、それを自分の力に、武器にすればいいんだよ』


 ご主人様のその言葉が頭をよぎった。

 自分がしなきゃ行けなことをしよう。

 確かにあの時は救えなかったけど。

 今度は救うから、メロディー。


 その瞬間、アルセーヌさんは自分のカウボーイハットを頭に被り直し。

 言った。


「――【高度錬金術】分解」


 その瞬間、周囲の瓦礫が浮かび上がり、それが割れ、瓦礫は変形し本を形作った。


 アルセーヌさんの周りに、瓦礫から生成された本が二三冊浮かび始める。

 その光景はまるで【魔術師】。魔法の様にカジュアルじゃない、ある意味本物の魔法。

 高度錬金術。魔法より難しく、緻密な魔力操作が難しいとされる技。


「すごい……」

「錬金術を見るのは初めてかい?」


 錬金術。

 確かに実物を、本家を見るのは本当に初めてだ。

 今まで錬金術の派生を見ることは多かったけど、こんなに凄いんだ。


 アルセーヌは本を一冊開くと、手をかざし。


「――魔力に閉じ込められし姫よ。禁忌目録に従い。正当な手順を持って分解を始めん」


 詠唱を終えると、アルセーヌがかざしていた石の本にひびが走り。

 バリッ、と地面に破片が落ち。転がり。そして。


「わっ」


 紫色の魔法陣が純魔石を囲む様に展開された。

 淡い光が地面から漏れ出し、アルセーヌさんは目を閉じながら。

 その瞬間。


 ――バリッ、と純魔石に一つのヒビが走った。


「……アーロンくん」

「はい!」


 背中越しにアルセーヌさんは口を開いた。


「種は撒いた、俺はドミニクに兄だ。

 あいつの考えは何となく読める。案ずるな。必ず他のメンバーは集結する」



――――。



『もしかしたら、自分の行いに悔いている者が居るのかもしれない』



――――。



『もしかしたら、自分にとっての悪夢を呼び覚まされている者がいるのかもしれない』



――――。



『でも、俺なら分かる』



『あいつらは、人魔騎士団だ』



『立ち上がれ。奮い立たせろ。信じろ。挑むことを諦めてはいけない。』



――――。



「アルセーヌさん……」

「早く加勢に行きなさい。ケニーも、長くは戦えない。せめて魔石を壊すまで稼いでほしい」


 その言葉の意味をアーロンは100パーセント理解したわけじゃなかった。

 でも、きっと、その言葉が誰かに向けた励ましの言葉だったと。

 そう何となくだが理解した。


 それと同時に、アーロンは感じた。

 アルセーヌ・プレデターと言う男の、底知れぬさを。

 本物の天才は存在したと――。


「――了解です!」


 僕は走り出した。

 まだ終わっていない。いいや、まだ始まってすらない。

 まだまだ始まってないんだ。


 杖を構え、息を吸い、僕はずっと連撃をしているご主人様に。


「――【魔法】血流操作!!!」

「おわっ」


 杖を伝い。ご主人様の感覚が僕に流れ込んできた――。


 血流操作の練習はご主人様でしていた。

 ゾニーさんの訓練の時、一緒にやらせてもらっていたのだ。

 ご主人様が実戦形式で練習するとき、僕はご主人様に血流操作を掛けさせてもらったりと。


 そして血流操作は対象者の血を操る。

 勿論自分に掛かったら感覚で分かるのだ。

 だからこの血流操作が、

 『アルセーヌさんを起こした。僕が帰ってきた』と言う合図になるのだ。


「ふっ」

「――クッ!」


 ご主人様は少しボロボロになりながら微笑んだ気がした。

 ドミニクは手も足も出ない状態だった。


 連撃の練習はゾニーさんから教えてもらっていた。

 元々魔物を想定していた練習だったけど、魔物相手は基本連撃技で剣は攻めるのだ。

 だからご主人様は連撃を扱えて、そのコンボを繋げることが出来る。


 全部、努力の結果だ。


 ドミニクはずっと混乱していた。

 多分、まともに考える隙すらないのだろう。

 ご主人様の一撃は魔族のドミニクでも軽傷では済まない。


 治癒魔法の無詠唱は、元来不可能とされている。


 理由は確か色々ある筈だけど、一番は詠唱しなければ余計な効果が上乗せされるからだそうだ。

 もちろん、あのドミニクならもしかしたらそれが可能なのかもしれないけど。

 そこは出来ないと、賭けよう。


「――――」


 僕は今、とても嬉しい。

 何故なら、久しぶりに光を見たからだ。

 ご主人様に光を見てから随分経ったけど。

 僕はまた、ご主人様の光を見ることが出来たのだ――。



――――。



 数分前。


 ドミニクとアルセーヌが会話している中。


 ケニーはアーロンに話しかけていた。




「ヒールかけれるか?」

「かけれます」

「かけながらでいい。俺の話を聞け」


 ご主人様は落ち着いた様子で僕の袖を引いた。

 そう言えばだけど、こんな至近距離で、目が合う距離で話すの、いつぶりだろ。

 すると、ご主人様は僕の胸に頭を置いて。


 ……くつろぎ始めた。


「どうしたんですか、ご主人様」


 そう僕が言うと、ご主人様は小さく息を吐いてから。


「いやな。こう密着するのも、なんか久しぶりだよな。一緒に寝た時以来だ」

「確かに、そうですね。じゃあ、帰ったら一緒に寝てくれますか?」


 僕が冗談らしく、そう笑いながら言うと。

 ご主人様は僕に表情を見せないまま。


「当たり前だろ。アーロン」

「そうですね。お父さん」


 お父さんと呼ぶのはいつぶりだろうか。

 でも、何というのだろうか。


 今ではこの言葉の方が、しっくりくるのかもしれない。


「アーロン」

「はい。なんですか」

「お前はヒーローになり損ねた落ちこぼれじゃない」


 するとご主人様は、まだ表情を見せないまま。


「お前はいつか、千年先まで語り継がれる程、すげぇ英雄になるんだ」

「――――」

「俺は誇らしいよ。お前と暮らせて」

「――」

「お前の手は、俺の為じゃなく。自分が救いたいと思った人にだけに差し伸べてやれ」

「――――――」


 絶望が伝染る様に、光も伝染する。


 鋭く、深く、根強く、黒く刺さったそんな絶望も、その一筋の光で全て吹っ飛んでしまう。

 それは衝撃だ。全身が震えるほどの衝撃。

 内側から溢れる感情があり。

 光は僕の中で、ある言葉になって、口から飛び出した。



「――僕はメロディーを救いたいです」

「よく言った。俺がドミニクの気を引くから、お前はアルセーヌを助けて来てくれ」



 ご主人様は自力で立ち上がった。

 ヒールを終え、カッコイイ背中が僕の目の前に立って。

 背中、そう、背中。

 誰から始まった背中なのか、僕は知らないけど。


 僕はその時、その背中と同じような人間になりたいと、本気で思った。



――――――。

――――。

――。




 メロディー視点。




 ――『たすけて』



 暗い世界に居た。

 ずっと、深海の奥で身動きが取れないような感覚だったと思う。

 息が出来なかった。空気が無かった。

 浮いた感覚が全身を苛み、苦しかった。


 助けは来ない。

 知っていたからだ。

 あの人がどれだけ恐ろしいかも、この場所がそう簡単に出れる場所じゃないことも。

 ずっと頭の中で何かが回っていた。

 多分、私が制御している何かだと思う。

 全身が銅線だった。

 ずっと何かが、下から上、右から左と流れ続けていた。

 気持ち悪い感覚だった。


 そして一番辛いのが、この空間で意識がある事だ。

 何もない。

 何も聞こえない。

 何も見えない世界で。

 私はただ一人。

 孤独に、利用されていた。

 心で助けてと思っても、誰も助けてくれなかった。


 実際、一度逃げ出した。

 あの人の所から逃げ出した。

 『たすけて』と叫びながら走ってきたのに、

 気を失って、目が覚めるとあの人が追いついていた。

 もうどこにも逃げれないと改めて理解した。

 親に売られた私は、流れるままあの人に利用された。

 もう、沢山だ。

 本音だ。

 もう、消えたい。

 本音だ。

 ……助けてほしい。

 本音だ。


 何も聞こえない。

 何も感じない。

 ここは、最高の死に場所じゃないか。

 ここで腐っていくのが、一番私にあっているのかもしれない。

 まだ9歳の私なのに。

 死を悟っているなんてあほらしい。


 もう、どのくらいここに居るのだろうか。

 いつになったら私は腐るのだろうか。

 いつになったら死ねるのだろうか。


 もう、さっさと、消えたい。


「――――」

「え」


 光、光だ。

 一筋の、一センチにも満たない光が、私の右目に指してきた。

 暗い世界。太陽の光が届かない深海で。

 一寸の光が、見えて。


 ………。


「――誰?」


 割れる。

 ドンドンッと音が響く。

 だんだんと視界が明るくなった。

 感覚が戻っていった。

 腕の感覚があった。

 足の感覚があった。

 全身の感覚が戻っていった。

 そしてその光はどんどん強くなり。そして。



 純魔石は崩壊した。



 私が最初に目にしたのは、

 雪の様に白く、太陽の様に暖かく、同じくらい小さい。

 一人の女の子だった。


「誰?」

「僕かい? 僕はね」


 女の子はボロボロだった。

 私は女の子の膝で、膝枕をしていた。

 そして気が付いた。その女の子の背景で、黒い空が崩壊しているのを。

 音は聞こえなかった。

 でも黒い空が割れて、強い光が漏れ出しているのがやけに印象的で。


 だから、その女の子が、とても強く見えた。


「僕は君を助けに来た。ヒーローを超える男、アーロン・ジャックだ」



 男は笑いながらそう言い、少女メロディーは救われたのだった。



――――。



 結界が破られ、黒い世界が一転、白い世界へ変わった。

 白い世界。文字通りの意味だ。

 黒い世界にヒビが走ったその時、隙間から落ちてきた物があった。

 いいや、物じゃないかもしれない。

 そう。


「……雪だ」


 中央都市アリシアに、雪が降り始めたのだった。



 そしてその雪の下――。


「全員集合ってか」








 ――人魔騎士団――

 アルセーヌ・プレデター。

 ナターシャ・ドイド。

 アリィ・ローレット。

 ソーニャ・ローレット。

 サリー・ドード。

 ケニー・ジャック。

 アーロン・ジャック。


 ――魔解放軍――

 ドミニク・プレデター。

 アデラリッサ。

 グレゴリー・ドラベル。

 ダドリュー・サモンズ。

 死堂。



 ――死神――

 クラシス・ソース。



 13人の戦士が、中央エリアに集結したのだった。





 余命まで【残り●▲■日】