五十三話「ネコパンチ、すなわち再会」



「わりぃサヤカ、少しだけ宿で待っててくれねぇか?」


 フローラの旅で約二週間かけ到着した場所。

 サザル王国。

 そこの首都サーゼルに俺たちは今いる。

 雰囲気は例えるなら、グラネイシャの劣化版?で。

 グラネイシャは家の屋根が青色だったりしたのだが、ここは茶色とか赤色のイメージだ。

 全体的に灰っぽい。


 で、俺たちは何とか宿を見つけ。

 そこで部屋を一部屋借りた。

 お金は少しだけゾニーから分けてもらい。

 あとはまぁ、帰りの運賃などはケイティにお願いしようかなと思ってる。

 人だよりなのは本当に俺の悪い部分だが。

 すぐに来てくれと言ったのはケイティ自身だ。

 そこくらいは負担してくれ。


「え?いいですけども。ケイティさんって今どこにいるんですか?」

「それが分かんねーんだよな。手紙には冒険者ギルトと書いてあったな」


 とりあえず、冒険者ギルトに行ってみればいいのだろうか。

 ケイティの名前を出したら通してくれるとかなら楽なのだが。


「ボクも手伝い……」

「いや、お前は家に居てくれないか?」

「……え、ボクも街を見たいです」

「今じゃなくてもいいだろ?荷物とかを確認して、必要な物があったら買いに行ってほしい」


 と、俺はお金を渡す。

 すまないなサヤカ。俺が悪いんだ。


「まぁ、そうゆう事なら……」


 渋々とサヤカはokしてくれた。

 なんだか心苦しいな。俺の都合なのに。

 すまんなサヤカ、後日一緒に探検しよう。



――――。



 冒険者ギルトとやらに到着した。

 中はなんつうか、汗臭い。

 魔族がギルド内で飲んだくれており、汗臭い鎧を身にまとった連中が壁の掲示板を睨んでいた。

 あそことかに依頼などが書いてあるのだろうか?

 思っていたのと少しだけ違うが、まぁこれが現実と言う物なのだろう。


「あー。とりあえず受付にでも行ってみるか」


 と、俺はギルドの受付へと足を進めた。

 すると、受付に立っていたのは。

 猫耳のお姉さんだった。

 わお、猫耳。

 確か魔族に猫耳が生えている一族が居ると聞いたことがあるな。

 ここは少し格好つけて、大人な感じを出していこう。

 いけるさケニー・ジャック。お前は今年で42歳なんだからな。


「お嬢さん。ケイティ・ジャックって言う人物を聞いた事ないかい」

「お生憎、ここはお前みたいなヒゲクソジジィが来る場所じゃないニャ。キモチワルイ決め顔をするニャ」


 見事、撃沈。

 俺は頭から煙を出しながら、肩を落とし、そのまま受付を離れた。

 あぁ、門前払いだ。

 俺のどこが悪かったのかなぁ。


「……って事してる暇なくて」

「だからなんニャ。ここは冒険者でもないホームレスにはご退場願っているニャ。

 簡単にケイティ様の名前を口にするな醜く汚らしく哀れな夢の中だけの王様さん」


 あああああパンチつよおおお???

 え?何ですかこの子、人を罵るためだけに生まれてきたでしょ。

 なんて恐ろしい子私近づきたくないわ!!!

 ……って、なんで俺おねぇになってんだよ。


「はぁ……悪いことは言わねぇから。さっさとそのケイティに繋いでくれねぇか?」

「はぁ……悪いことは言わないニャン。さっさとそのアホずらぶら下げてウチの前から消えてニャ」

「おぉ?やるかぁ?」

「上等だニャ」


 あ。なんだか騒ぎが大きくなってるな。

 俺とこのクソネコとの会話を聞いてか、周りに野次馬が……。

 まぁだが、ここまでボロクソに言われて何もしないなんて男の恥なのかもしれないな!

 いっちょ、かますか。

 舐めるなよ?最近鍛えてるんだからな。


「にゃー!」

「はぁー!」


 なんだかよく分からないが、クソネコが受付から出て、ロビーで両手を上にあげ威嚇するように唸った。

 俺もそれに対抗するため、両手を上げつつ片足を上げ、完全に戦闘態勢へと変身した。

 そうだな、肉弾戦でいじめてやるよ!!


「ファイト!!」

「おら!!」

「にゃああ!!」


 どこからともなく現れたカエルのような魔族がそう宣言すると同時に。

 俺とクソネコは一気に距離を詰めて――。


「兄さん何してんの」

「え。あれ?ケイティさん?」


 唐突に、野次馬の中から見覚えのある妹が出てきた。

 三角帽子を被り、いい匂いがしそうな茶髪ロングの彼女。

 名は、ケイティ・ジャックだ。


 だが、そのケイティの言葉のタイミングが悪く。


「んぎゅうう――!」


 俺のほっぺたに、まぁまぁ爪が伸びてるネコパンチがめり込んだ。



――――。



「キャロル、謝りなさい」

「ご、ごめんなさいニャ……」


 いや、俺は平気だと言いたいが。

 実際問題、歯が一部欠けているせいでうまく喋れないのだ。

 ひぃ、いてぇいてぇ。

 クソネコが、話は最後まで聞けって。


「兄さん、口開けて」

「あー」

「――『ヒール』」


 あぁ、口の中が癒されりゅ~。

 あい。ケニー・ジャック完全復活。


「改めてだが、俺の名前はケニー・ジャックだ」


 と、目の前の涙目クソネコに言ってやると。


「勘違いしてごめんなのニャ。ウチの名前はキャロルって言うニャ」


 と、黒髪から生えている猫耳がぴくっと動く。

 キャロルの目はなんだかすごいな。うちのマルみたいな目をしている。


「……えっとね。この子、先走る事があるみたいで。強く言い聞かせておくから、許してあげて?」

「別にそこまで怒ってないぞ。強いて言うなら、人の話は最後まで聞きましょうねくらいだ」


 別に殴られたことは怒っていないぞ。

 だって、俺もノリノリだったしな。





「……で、ケイティ。手紙の件だが」


 魔病の治療方法を発見した。

 それは数週間前に、ケイティから届いた手紙の内容だった。

 それでこんな遠い場所に大金叩いてきたんだ。

 ちゃんと話をしとかなきゃ。


「ついてきてもらえる?」

「え?お、おう」


 とりあえず、クソネコキャロルとは一旦解散し。

 俺とケイティはギルドを後にした。


「あの子とは仲がいいのか?」

「まぁね。こっちに来てから色々あったんだ」


 ギルドの職員なんだろうが、あんなにバカだと仕事が務まるのだろうか。

 まぁ多分だが、マスコットみたいな感じなのだろうか?

 可愛いネコが居れば、客足も増えるってか。


 数分歩くと、なんだか地下へと通じそうな道へ行った。

 地下街って言うのだろうか?

 そんなのあるんだな。


 そして入ってからしばらく進んだ場所にある扉を開けると。

 そこには、小さい爺さんが座っていた。

 白い髭をお腹が隠れそうなほど伸ばしており。

 仕事机のような場所に座っていた。


「あぁ、ケイティか」

「ハミさん。こちらが話にあった」


 とケイティが言うと、その小さなお爺さんは目を見開いて。


「こやつが魔病に侵された人間か」

「……ケイティ、説明してもらってもいいか?」


 少し状況に追いついていない。

 えっと、まずこいつのお爺さんは誰なんだ?

 どこの誰さんで、魔病の治療方法とは何なんだ?


「ワシが説明しよう」


 そうお爺さんは言い、机から降り。

 突然、ハミと呼ばれていたお爺さんは俺の背中を叩いた。

 そして、俺の意見を言う前に、語り出したのだった。


「魔病とは。大昔の戦争時、ある幹部が人間勢力を内側から壊そうとした結果、生み出された邪法じゃ」

「え?なにを言っているんですか?」


 大昔の戦争?少し前にそんな話を聞いたばかりなんだが……。

 てか、その戦争と俺の魔病が関係あるって言いたいのか?

 は?

 それが魔病の起源だと?


「邪法、なのじゃが。何らかの失敗か偶然か、その邪法は一年と言う期間が無きゃうまく発動しない」

「……」

「いわゆる、欠陥品だったのじゃよ」

「欠陥品ですか」


 欠陥品。

 確かに、人を殺す為の邪法なら。

 感染して即死とかの方が強いんだろうな。

 でも、それが出来ないから。欠陥品か。


「あなたな誰なんですか?」

「……そうじゃな、自己紹介を忘れておったわい」

「……」

「ハミ・ガキコじゃ」


 ……え?うそやろ?

 そんなバカみたいな名前あるん?

 ハミ・ガキコって。歯磨き粉じゃない?

 いやまぁ、いつもお世話になっておりますけども。


 思わず思考が纏まらず、俺は目を点にしたままケイティの方へ視線を向けると。


「………」


 頬を赤らめ、明らかに目線を逸らし。

 口はへの字の先が少し歪んでいる様になっていた。

 あ、あれ同情の顔だ。

 多分ケイティも最初は同じ事思っていたんだろうなぁ。

 兄妹だから分かるぞ……。


「えっと、ハミ・ガキコさん?」

「ハミで結構じゃよ?」

「……ハミさんは、どうして魔病に詳しいのでしょうか?」

「それはな」


 そうだ。今まで色んな分野の学者が調べたりして。

 その起源なども一切分からなかった筈なのに。

 どうゆう事だ?


「ワシら小人族は、その大昔の戦争時、魔族側に居たのじゃよ」


 あぁ、小人族だったのか。

 初めて見るから分からなかった。

 確か、普通の人間より小さいが、長生きで力強いのが特徴だったかな?

 戦争時、魔族側に居た。それ繋がりでか。


「その情報は、信憑性とかは」

「まぁ無いかもしれないが。代々ワシの家に語り継がれていた事じゃ」


 語り継がれてきた、か。

 なら、信じるしかないのか?


「それで、魔病の治療法とは?」

「魔道具じゃ」

「ま、魔道具?」


 魔道具。

 普通の道具などではなく、特殊な魔法が植え付けられた道具の事をそう言う。

 『魔法道具』とも言われたりするらしい。

 それで魔病が治るのだろうか?

 いいや、言い方が違うか。

 魔病を治せる魔道具が、この世にあるのだろうか?


「人食い迷宮と言う場所がある」


 人食い迷宮?

 物騒な名前だな。


「そこの深層、隠し部屋の奥に。呪いを打ち消すと言われているポーションがあると噂なのじゃ」

「噂?噂で信じられるのかよ」


 と、俺は反論するように言ってしまった。

 別に悪意はないけど。突飛よしもなさすぎる。

 そんな話を聞かされてしまっては、気が動転してしまう。


「そのポーションは。数百年前……小人族が錬金術で生成した確かな物じゃ」


 確かに、小人族は錬金術が得意だと聞いたことがある。

 でもそれなら、お前がそれを錬金術で作ればいいのではないだろうか?

 それってつまり、俺たちがそのポーションを。

 その人食い迷宮へと取りに行くって事だろ?


「数十年前に失われた最古の錬金術なのじゃ」

「……俺たちに、迷宮へ行けと言うのか?」

「まぁそうゆう事じゃな」

「……ケイティはどう思うんだよ」


 俺は話のバトンをケイティへと渡す。

 視線を向けると、少しだけびっくりしたように肩を揺らしてから。


「私は兄さんの病気が治る可能性があるなら、それに少しくらい……賭けてみたい。かな」


 ……そっか。

 ……そうか。

 俺に、生きてほしいのか。


 生きてていいのかな。と何度も思ったことがある。

 だけど、そんな不甲斐ない俺に。

 生きていてほしいと。

 思ってくれる人が。

 居たんだな。


「……あぁ、分かったよ」


 少し不器用だったと思うけど、その時出来る最大限の笑顔をしながら言った。

 そう言うと、ケイティは自分の目を自分の腕で覆って。


「ありがとう」

「……なんでお礼を言うんだよ」


 俺はケイティに頭を下げた。

 俺を思ってくれた事、考えてくれた事。

 それは感謝しなきゃいけない。

 そう思ったからだ。


「ケニー・ジャック。お前に一つ、言わなきゃいけない事がある」


 そうハミさんは言う。

 それはなんだか真剣ね目だった。

 だから心して、俺はその言葉を聞いた。


「魔病は、自然に人間に移る物じゃない」


 え?

 ……それは、どうゆう事?


「誰かが、意図的に、お前に魔病をかけたんだ」


 その言葉が、俺の耳に入った瞬間。

 俺は心当たりのない事実と共に――。




 ――この世界には、俺を殺そうとしているヤツがいると。




 初めて自覚した。





 余命まで【残り186日】