二十ニ話「強襲」





「魔物と接敵、負傷者多数、討伐数30です!!」

「前衛部隊、魔法陣展開!」

「第二防衛ラインの建設急げ!!!」



 古畑内に設置されたテントで、どんどんと情報が伝達される。

 伝達された情報を大きい声で報告し、

 それを後ろの記録係が一つも逃さずに記録を取っていた。

 そのまた後ろで、俺とサリーは話していた。


「第三防衛ラインの予定地は見つけた。街から離れた谷だ。

 だが、第四防衛ラインにできそうな場所で、いい感じの地形の場所がない。

 ケニー、お前の意見を聞こう」


 事態は急変した。

 テントの中は騒々しくなり、ヘルク・クラクは前線へと馬を走らせた。

 テントに残った少人数の騎士たちが、司令塔として出来る事を全力でしているのを横目に。

 俺はサリーにそう聞かれていた。


「第三防衛ラインは、どこらへんの谷だ?」

「伐採場がある場所だ。そこから街まで二キロある」

「……なら、その間に何か」


 ……待てよ、その場所は。

 トニーとサヤカが魔法を見せてくれたあのボロい灯台があるんじゃないか?

 あそこなら。


「ここから大体五百メートル歩いた所に広い丘にがある。

 そこの地形も緩やかな凹凸で、ここからも近いから防衛ラインを作れるかも」

「五百メートル!?そこが突破されてしまったら……」

「今、第一防衛ラインはどんな目的で防衛してるんだ」

「……第二防衛ライン建設までの時間稼ぎだ」

「勿論それも続けてくれても構わない。だが、他の人員を他の防衛ラインに割いたほうがいい。

 そして第四防衛ライン、そこを最終防衛地点として時間を稼ぐんだ」


 俺にはある確証があった。

 それはどうしようもない程、希望的観測なのかもしれない。

 だが、今この場に近衛騎士団が来ているのなら。

 それはありえるのだ。


「向かってるんだろ、兄さん」


 カール兄さんが、ゾニーが、今こっちに向かっているはずだ。

 増援までの時間稼ぎ、それが今の俺達がやることだ。


「俺も手伝う。だから第四防衛ラインの建設に人員を割いて、そこを一番強力な砦にしよう」

「……ふん。わかった。人員を割こうじゃないか」

「増援までの時間稼ぎ、やってやろうぜ」

「ああ」


 サリーと俺はそうして手を掴み。

 あの崩れかけた灯台が、最終防衛地点として俺たちは走った。



――――。



 第一防衛ライン。

 前線基地、緊急テント内。


「第二チーム負傷者発生、魔法使いを向かわせています」

「わかった。その間第三チームにカバーさせて、それ以外は陣形を崩さず、作戦通りに時間を稼ごう」

「了解しました、ヘルク隊長」

「隊長は要らない。ヘルクと呼べ」


 第一防衛ラインの指揮は僕が任された。

 目的は時間稼ぎ、第二防衛ライン・第三防衛ラインの建設までの時間稼ぎだ。

 部下に無理はさせたくない。

 だがここを突破されてしまったら、一気に街へ流れ込んでしまう。


「指揮を任せるよ」


 と、僕は副隊長の肩に手を乗せて言う。


「え、ヘルク隊長!ダメですよ!!」

「お前なら大丈夫だ。僕は前線の様子と、部下の援護に回るよ。戦力は居たほうがいい。目的は勝つことではなく時間稼ぎだ。あまり消耗は避けるさ」

「……あぁ!もう。勝手にしてくださいよ!!」

「ありがとう!隊長は要らないからね!!!」


 僕は自分の馬に乗り、前線へと駆け抜ける。

 すると、広がった光景は。


「おいおい。何体居るんだよ」


 一見した数。低く見積もって二千体は居た

 ここは急な坂になっており。

 山の下から魔物が坂道を登ってくる。

 その登るのを邪魔しているのだが、想定していたより魔物が上まで駆け上がっている。

 ギリギリの戦いなのか。


「行くよ――ッ!」


 ヘルクは馬から飛び上がり、魔物が蔓延る坂道へ飛び出した。

 そのままヘルクは腰にかけた短剣を起用に回し。


「――さぁ、君たちの恐怖は、どんな顔なのかなぁ!?」


 刹那、光の線が美しい曲線を描き。

 一撃目、首を掻ききり。

 二撃目、核を真っ二つにする。

 首を切る理由は、核を壊し損ねても頭が無ければ魔物は人を視認することすら出来ないからだ。

 丁寧に、首をきちんと切る。

 一番は誰も死なない事、だからベストを尽くす。


「――【魔法】フラッシュ!!!」


 坂道に魔物の死体が重なる。

 坂道に死体が重なるたび、後から来る魔物の進行を遅め。

 そう言う意味でも、一網打尽に魔物を足止めするのにも意味があった。

 この場所でいかにして死体の山を築くのか。


 だが、その瞬間。


「――くっ!?」


 ヘルクは謎の衝撃波に飛ばされた。

 右脇腹を強く殴られたような感覚だったが、そこにはなんにも居ない。

 だが、その違和感と嫌な予感を。ヘルクは一早く感じ取った。


「上位魔物が居るのか!?」


 その瞬間、ヘルクの頭上に、黒色の鹿のような魔物が高く飛び上がった。

 その威圧感、その大きさ。

 一発で分る。

 あれは上位の魔物。


「ストロング・デーモンかぁ!」


 体を捻り、空中から着地する。

 そして悟る、上位魔物が暴れだした。

 即ち、人死が出る。

 だってその攻撃範囲は――。


「ガアアアアアアアアアァァァァッ――!!!!」

「がっ!?ゴボッ!!!」


 動物らしからぬ魔物の恐ろしい咆哮。

 その咆哮が鼓膜を強く揺らした時。


「あっ………」


 ヘルクの口から、ゴボッと溢れたのは血の塊だった。

 全身がどんと重くなり、膝からヘルクは地面に倒れる。


 息が、出来ない。

 耳鳴りがする。

 何も、聞こえない……。

 これは僕だけじゃない。他の部下もだ。


「あ、ァぁ、ぐ」


 息をしようとしても、喉に何かが詰まっているような感覚になる。

 これはまずい。

 何か、広範囲の音波攻撃を受けたか。

 だけど……こんなもんっ!!!


「あああぁぁァァァ――っ!!」


 ヘルクは自分の腹を勢いよく殴った。

 すると、腹から溢れそうになった物が塊となり。


「おぇぇえ」


 何かが吐き出そうになったが、何も吐きでなかった。

 その気持ち悪い感覚の後。


「ゴホゴホッ! ふぅ、危なかった」


 少々無理やりではあったが、これで息はできる。

 耳鳴りはまだしてるけど、こんなの我慢だ。

 隊長だろ。


「……この地形だったら、その音波攻撃が直にあたっちゃうなぁ」


 坂道で上からの隠れ場所はない。

 そのストロング・デーモンは高く飛び上がる事が出来る。

 だから、ここで籠城していると。後々危険だ。


「第一から第四チームは手持ちの爆弾を全て投げろ!!ここらへんの地形を凸凹にして。せめて昇りにくく――」


 ………。

 何だ、いきなり周りが暗くなった。

 これは、影か?


「は?」


 その時、僕の頭上には。

 高く飛び上がる、魔物が居た。

 上位魔物じゃない。普通の魔物だ。ただの能無しの雑魚だ。

 だが、そんなに高く飛べるなんて、おかしいだろ。

 飛べたとしても、飛ぶという脳がないはず。


「……あのストロング・デーモンか」


 もし、もしだ。

 これは最悪な可能性だし、最高に狂ってる事だが。

 あのストロングデーモンが知能を持っていて。

 今回の奇襲も、このノーマルな魔物を操っているとしたら。

 まずい。

 本当にまずい。


「退避――!!爆弾を投げて退避――!!!」


 数十体だけ俺たちを無視して坂を超えた。

 俺たちを無視する知能もないはずだ。

 つまり、あの鹿みたいなストロングデーモンが。


「これは厄介な事になりそうだ……」



――――。


 古畑跡。ケニー宅近く。メイン司令塔。

 サリーは司令塔の前で、他の騎士に色んな指示を出していた。

 そんな中、第一防衛ラインから伝令が来る。


「伝令伝令!!数十体の魔物が防衛ラインを突破。

 及び、ストロングデーモンの存在を確認。

 第一防衛ラインは放棄し、第二防衛ラインまで後退する!!」

「……ふん。ギリギリだが、第二防衛ラインの建設完成度は八十パーセントだ。これなら後退できる」

「おいサリー、早く第四防衛ラインを作るぞ!!」


 テントの出入り口に立っていた俺がそう叫ぶ。

 すぐに「わかった!!」とサリーは叫び。

 サリーと俺は第四防衛ラインの建設現場へ走った。


「………くっ」


 第一防衛ラインが突破されたと言う事は、次の第二防衛ラインへ後退する。

 要するに、どんどんと魔物勢力が街に近づいていると言うことだ。

 大体二十分くらい耐えたのか?

 まずまずストロングデーモンってなんだ。

 その存在が、どんな脅威なのかを俺は知らない。


 クソ、どうしてこんな事に巻き込まれているんだよ。

 どうしてこうなっちまったんだよ。

 あぁ、人が死ぬ所なんて。もう当分見たくねぇんだよ!!


「ケニー・ジャック!!」

「ジャック要らねぇ、ケニーだ!!」

「ケニー!!第四防衛ラインの建設の資材は既に灯台の近くに集めさせた。

 木を組み立て、鉄板を入れた壁を並べるだけだ」

「そうなのか!?それがどうしたぁ」

「お前に任せる」

「はぁ!?」

「俺は第三防衛ラインの司令塔に行かなければいけない。

 現場には先にうちの部隊の騎士が居るから、そいつらと協力しろ!」


 あぁ、時間が押してるとはこうゆうことかよ。

 クソが、俺は素人なんだから。

 全く、重役を任せてくるぜ。


「ケニー!!」

「なんだぁ!?」

「お前に、あの子供を守りたいと言う気持ちがあるなら」

「………なんだ!」

「その子に、隠し事をするな」

「………」


 なんだこいつ、俺の事をどこまで知っていやがる。

 あいや、そう言えばこいつらの組織には俺の事を知ってるやつがいるのか。

 カール兄さんとゾニーめ、色々話してやがるな。

 このやろう。


「わかった!この一件が終わったら、きちんと話すよ」

「よい、いいことだ」


 強面で少し近寄りがたい男のイメージだったんだが。

 もしかしたら、サリーってめちゃくちゃ不器用なだけでめっちゃ優しかったりするのかもしれない。

 こりゃ、ギャップ萌えってやつかな。

 はは。


「俺の名前はケニー・ジャック。お前は?」

「俺の名前はサリー・ドード!!隊長だ!」


 二人で覚悟を入れ合うように。

 そう自らの名前を名乗る。

 そして、最後に一言。


「頼んだぞ、ケニー」

「任せろ、サリー」


 その場でサリーは俺の走るスピードより早く移動した。


「おい!!俺にスピード合わせてたなぁ!!!」


 あいつ、手加減してやがったな。

 鉄の服着てるくせに、悔しい。

 もう声が聞こえないくらい先に行きやがった。

 ったく、これだから騎士は!!


 そうこうしてるうちに、俺は例の灯台まで到着し。

 その場に居た騎士に、こう叫んだ。


「今からここの指揮をするケニーだ!!

 ジャックは要らねぇ!!

 不満も不安もあるだろうが、俺は知ったこっちゃねぇ。

 だがなぁ、いっちょ街を守ってやろうじゃねぇか!!!」

「………」

「あぁーもう!!これだから堅物は、冗談が通じねぇな!」


 騎士ってのはジョークに真顔で返せと教わったのか。

 ったく、これだから騎士は!!


「――俺がケニー・ジャックだ。街を守る最後の砦を作る。一人の、魔法使いだ!!!」


 そう叫ぶと、案外ウケが良かった。

 これか、これが騎士のツボなのか。

 よし、覚えておこう。



――――。



 ケニーとサリーがテントを後にした五分後。

 新たな伝令が鳴り響く。

 そしてそれは、その場にいる人間が凍りつくほどのものだった。


「伝令伝令!!

 ……第一防衛ラインを突破したストロング・デーモンに操られていると見られる魔物が。

 ――街に急接近!!!街に危険が!!!!」






 余命まで【残り286日】