幕間:安藤瑞穂の調査ノート7 ―1987年5月某日―

 学食で昼ご飯を食べていたら、おばちゃんが声をかけてきた。私に紹介したい人が居るらしい。学食のおばちゃんが引き合わせてくれたのは、この学校の事務員さんだった。事務のおばさん……と言うには申し訳ないくらい、若くて綺麗な人。まだ二十代なのかな。彼女はこの学校の卒業生だと言う。

 なんでも事務員さんが学生の時にも、七不思議が噂になったんだって。やっぱり、学校と言えば定番だよね。

 七不思議に限らず、噂と言う物は時と共にその内容が変わっていく。真新しい内容に塗り替えられたり、一部が風化して印象深い物だけが残ったり、あるいは人伝に伝播する際に誇張して伝わって、話が大袈裟になったり。今と昔の七不思議を比較するなんてのも、企画としては面白そうだ。


「私達の時はね、開かずの間って言われている部屋があったのよ」

「開かずの間、ですか」

「そう。ずっと使われていない部屋なのに、何故か中から話し声が聞こえてくるっていうの」


 開かずの間とは、また怪談の定番だ。だが話し声が聞こえてくるだけでは、少しインパクトに欠ける。


「私の友達がね、その部屋の扉を開けて、中を覗いてみたんですって」

「何があったんですか?」


 おっと、部屋の中身まで確かめたとなれば、話は別だ。私は少し食い気味に、事務員さんに詰め寄った。


「それがね……部屋の中で恐ろしい物を見た気がするとは言っているのだけど、それが何なのかははっきりとしないのよ」

「は?」

「扉を開けた瞬間、その子は気を失ってしまったんですって」


 何ということだ。これでは肝心の部分が分からないままでは無いか。開かずの間が有るというだけでは、やはりこれまでに調べてきた他の不思議と比べて弱い。何が現れたのか確かめてこその調査と言えるだろう。


「そこから、開かずの間を開けると恐ろしい物を見るって言う噂が流れてはいたんだけど、実際に何を見たかまではハッキリしないの」

「そうですか……」


 開かずの間というネタ自体は面白いだけに、もう少しリアリティを持たせたいところだけれど、このままでは難しそうだ。


「ごめんなさいね、こんな話しか出来なくて」

「いいえ、とても参考になりました。有難うございます」


 七不思議の調査、七つ目は何とも曖昧なネタだった。まぁ、良い。全てがそのまま記事に使えるとは限らない、当たり前の話だ。これでも新聞部、分からないことは自らの足で調べるだけだ。

 今はもう使われていない部屋と言うと、三階の一番端。丁度屋上に上がる階段の手前にある部屋が、長く使われていないはずだ。その部屋を調べてみよう。